第10話 激化

「今日を持ってこのまま死ね!!!」

 フィシはそう言って戦闘態勢に入った。眼を見開き、殺意が伝わった。どうやら本気でテールを殺す覚悟があるらしい。


「フィシ……やめて……」

 アリスが震えた声でフィシに行った。が、しかしフィシにはその言葉が届かなかったみたいだ。――距離が縮まっていく。


(どうしよう、あの優しいフィシに攻撃なんて……)

 私はこの状態からなんとか打開策を考えていた。だけど何も浮かばず、それよりもフィシと戦うということに感情的に否定しようとしていた。


「……」グッ

 フィシは自らの体を前かがみに倒して戦闘を始める姿勢になった。


(来る!)

 フィシはテールに向かって杖で攻撃した。私がテールの前に出てそれを防ぐような感じとなった。


(強い!)

 杖だから攻撃力は大してないかと思ったが、それは剣と同じ、嫌、剣以上の攻撃力があったのだ。こっちは両手剣で防いだが気が抜いたら押される程の力があった。


「フィシやめて!」

「……」

 私はフィシに必死に言い放ったがフィシにはどうやら意味がなかったようだ。


「……!」

 フィシがテールから離れ距離を取った。フィシはゆっくりと頭を上げて話した。

「……どういうことだ? グリュ?」

 グリュの召喚したゴーレムがフィシを攻撃したのだ。召喚士から召喚されたモンスターは主人、つまり召喚された人の命令を聞くようになっているのだ。


「……フィシ、今やっていることは間違っていると思う」

「黙れ」

 フィシはグリュの意見に強く否定した。最初から意見なんてものはフィシは求めていない。彼にあるのは純粋な気持ちであり動機だった。

「じゃあ、悪いけど行くよ!」

 グリュは構えてフィシとやりあった。仲が良かったあの二人が今、一戦を交えている。しかしこれは残念なことにこれはトレーニングや喧嘩という形ではない。


「ゴーレム!」

 グリュのゴーレムがフィシに攻撃した。


「……」

「え?」

 しかしフィシは自身の魔力を放出させ風圧に変えて、ゴーレムの腕を弾いたのだ。


「……こんなものかグリュ」

 フィシはグリュに圧力を掛けた。凄いプレッシャーだ。グリュはひるんでしまう。それを見逃さないフィシはグリュに魔法で灼熱を繰り出した。フィシの飲んだあの液体のせいかむりやり炎属性が出ているように感じた。だってフィシは炎属性持ちじゃないからだ。


 ―—グリュに当たったかと思った灼熱は突然、かき消された。


「……アリス」

 グリュの前にアリスが剣を持って立っていた。どうやら覚悟を決めたようである。


「……フィシ、悪いけど倒させてもらうね」

「……来い」

 そう言って、アリスとフィシの戦闘が始まった。杖と剣の交戦である。本当は交えることが無いような組み合わせだ。


「「……」」

 お互いに魔法を出して応戦していた。フィシは【炎】アリスは【氷】真逆の属性が相対して激化させていた。フィシは火炎弾や灼熱魔法で遠距離からアリスは剣に氷属性を付与させて近距離から行こうとした。一見、フィシの方が優先かと思うがアリスは確実に距離を詰めて攻撃をしていた。


「……!」

 ふと、フィシはアリスと過度な距離を取った。フィシとアリスの間にあったのは、一条の矢であった。


「……ルナ、お前もか」

「……ごめんね、フィシ」

 少しタジタジな感じである。ルナだって本当は仲間内で争いたくないはずだ。しかしルナは風属性を矢に付与させて射る。


「……」

 フィシは自身の周りを魔力で風を作り、矢を無力化した。


「……!」

 隙をつくようにアリスが剣で攻撃をしようとしたら、見事に杖で防いだ。ルナはもう一度、矢を連射させたがフィシは炎で焼き尽くした。


(どうしよう……)

 私は未だに立ち尽くしていた。仲間打ちというこの状況に私は迷いが合った。忽ち私は下を向いて俯いてしまう。


「……」ジッ

 ふとコハクが私の顔に覗き込んで来た。それは真剣な表情だった。コハクもアリス達と同じように何かに覚悟を決めて決意を表していた。


「……」ギュッ

 コハクはゆっくりと私の両手を取り、微笑みかけた。私のことを安心させようとしているのだ。


(コハク……)

 そうだ。そこに今いるのはもう、あの頃のフィシじゃないんだ。


 私は目を覚ましたような感じがした。両手剣を握り締め、ただ真っ直ぐ前を見た。深呼吸をして気持ちを整えた。集中力を上げる。


「……テール、ここで大人しくしててね」

「……」コクンッ

 私はテールにそう言って、コハクと目を合わせて戦闘に参加した。


「リーベ! コハク!」

 突然、私たちが一斉に来たことにフィシは驚いたようだ。先にコハクが戦闘を始めた。コハクは次々と手業や足業を出した。一つずつの技はまるで虎のようなものを模している。当たると一溜まりもないような威力に察したのか、フィシは距離を取って避けていった。それを読んだコハクは足業で衝撃波を繰り出した。


「……!」

 フィシは一時的に防いだが、流石に防ぎきれなかったのか体勢を崩した。私はそれを逃すまいと両手剣で攻撃しようとしたが——。フィシはギリギリで避けた。私は諦めずに闇属性を繰り出す。


「……これは!?」

 闇属性でフィシの動きを封じて、身動きを取れなくした。私は逃すまいと炎属性と氷属性でフィシの周りの範囲を囲った。


「これで——。」

 そして私は水属性と雷属性の応用術を使った。フィシの上には雲が形成され、やがて雲行きが怪しくなってきた。私が今からやろうとするのはである。


「ががぁぁぁぁ!!」

 直撃した。フィシに落雷が当たった。普通の人が落雷を直に喰らって意識が保てるとは思えない。


 しかし今のフィシはもはや普通の人間という種族よりもさらに卓越していた。


「……まだだ」

「……!?」

 フィシは静かに一言、言った後に途端、私が仕掛けた魔力が全て無効化させた。


「あぁ、最高の気分だったのに、お前らのせいで台無しだ」

 私たちは全員、武器を構え様子を見た。


「もういいや、全部壊そう——。」

 フィシは魔法陣をいくつか作って、宙に浮いた。そして何やら、フィシは自身に魔力を集め、今までフィシから溢れ出ていたあの禍々しいオーラが全部フィシに吸収されて行ったのだ。


(不味い)

 それは本能でわかったことだった。あの魔力量を一気に自分の中に取り込んだら、まず無事ではいられない。


 私は止めようと身を乗り出した。距離を縮める。あと少し、あと少しなんだ。この手を一瞬でも触れることが出来たら止めることが出来る。手を伸ばす。あとちょっとだ。


(届k……)


 ――間に合わなかった。


 私は吹き飛ばされて、地面に叩きつけられてしまう。しかし直ぐにルナが来て体を起こしてくれた。前を見る。


「……!」

 フィシの姿は大きく変わってしまった。背丈は変わらなかったが。確かに変わったのだ。眼の色は赤黒くなった所はより濃く酷くなった。この時点で魔力とステータスが大きく向上したことがわかった。あの禍々しかった黒く紫色のオーラは消えて、光属性特有の純白の色を放っていた。その姿は無慈悲なる神に近かった。


「……ふぅ」

 フィシは一息ついたら、私たちの方を見た。


「さて、こっちの番だ」

 フィシは宙に浮いたまま片腕を上げると、数多くの光の弾幕を出して、私たちに向けた。その光の弾幕は確かに光属性のはずなのに異常な輝きをしていた。その弾幕は私たちを囲むようにあり、殺意が高いように感じられた。


「フィシ! やめて!」

「……」

 フィシはその片腕を下した。

 すると異常な輝きを放っていたあの光の弾幕が閃光のような速さで私たちに襲ってきた。


「……フィs」


◇◇◇


 彼らは全滅してしまった。今、私の前でみんな倒れている。


「良し、邪魔な奴らが居なくなった」

「……!」

 そう言って、フィシは私の方を見た。殺意を剥き出しにして、近寄って来たのだ。


「あーやっと、殺せる。あの時の恨みが晴らせる」

「……!」

 私は恐怖感を抱いてしまう。その場から消えるように走ろうとしたが——。


「逃げられるとでも?」

「……」ガハッ

 私はフィシに腹を蹴られて、誰かの家の壁に思いっきりぶつかった。


「……!」

 私は瓦礫の中で体を起こした。頭が痛い。ただ、頭が痛い訳ではない、頭から血が出て、顔に掛かったのだ。


「ケジメを付けてもらうよ」

 フィシは私の前に来て、攻撃を仕掛ける準備をした。あぁ、私はこのまま死んでしまうのかと悟った矢先——。


「……!」

 フィシは誰かの攻撃によって体勢が崩れた。


「テール!」

 私のことを呼んだのはリーベだった。リーベは今にも倒れそうな感じだったなのにも関わらず、私のことを助けてくれたのだ。


「私たちのことは良いからあなただけでも逃げて!」

「こいつ、邪魔ばっかしやがって!」

 フィシはリーベのところに行って、戦闘を始めた。戦況はやや劣勢、リーベは苦戦を強いられていた。


「……」

 私はまた何も出来ずに助けられるのか。結局私は何も出来ないのか――。瓦礫の中、私は俯いていた。


「……!」

 フィシはリーベのことを魔力の込めた杖で薙ぎ払った。それを直に喰らったリーベは地面に横たわってしまった。


「さて、苦労を掛けやがって」

 そうすると、フィシはリーベの所まで行った。


「楽にしてやる」

 フィシは自身の魔力を上げた。それは二倍、三倍という比では表せられない圧倒的である。


 私はその状況をゆっくりとみていた。体中が痛み、今でも気絶しそうだった。フィシは自分への完全なる勝利を確信出来たのか、とても不気味な笑みを浮かべていた。


「くっふっふ! あ~はっははっははっ!」

 フィシは遂に声を上げて笑いだした。この街の何処からでも聞こえそうな大きな笑い声だった。暗くそして明るいという混沌とした笑いであった。


 リーベさん。私は――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る