第2章 崩れゆく仲

第8話 不可解

 ――クエスト完了――

 対象のモンスターを討伐した。村の近くにある、森にいた、人に危害を加えるワイバーンだった。


 村に戻ったら村の人たちに感謝された。


「この村の村長です。冒険者の方、村を救ってくださり、ありがとうございます。これで平和に暮らせそうです」

 そう言って村長は頭を下げる。


「これぐらい大丈夫ですよ、また困ったらギルドの方によろしくお願いします」

 実際、あれぐらいのモンスターは冒険初心者でも倒せるレベルだったからこれぐらいのことで感謝されるとは思ってもいなかった。


「……しかし約55匹程いた、ワイバーンを御ひとりで5分も掛からず倒してしまうとは驚きました」

 村長は微笑んで言ったが周囲の人たちの中では当然、未だに驚いていた人もいた。返答に困っていると、急に小さな可愛らしい女の子が近づいて来ていた。


「おねえさん、ありがとう!」

「村が無事になって良かったね」

「うん! あのね、おねえさんのなまえってリーベさんだったけ?」

「そうよ! 合っている!」

「リーベさん! むらをたすけてくれてありがとう!」

 私は今のこの一連の流れを近くで見ていた夫婦がいたことに気づく。きっとこの少女の親だろう、その表情からありがとうと伝えられた。


「それじゃあ、そろそろギルドへ戻ります」

 そう言って村を後にした。後ろから村の人たちの声が聞こえる。振り替えないで先に進んだ。

 

 ——村が見えない位まで進んだ時。


(はぁーやっぱり良いよなーあの感じ! また幸せそうな顔をしていたなーあの夫婦!)

 といつもみたいに私は、ないものねだりをしていたが最近はあまり思わなくなった。その理由は――。


「テール! ただいま!」

「……」ペコッ

(あーやっぱり、家で誰かが待っている幸せって凄いなぁ~!)

 と、このようにテールが家で待っているのだ。前まではずっと一人で生活していたが、今はテールと二人で暮らすようになった。一人暮らしをしていたあの時よりもテールが来たことで寂しさがなくなったのだ。


「テール行く準備出来た~?」

「……」コクンッ

 今日はアリス達と一緒に会う予定があるのだ。まぁいつも通りの食事会である。私とテールは洗面所で身だしなみを整え、ドアを開けて、外に出た。


 天気が良く晴れていて、さわやかな風が心地良い。街の所々にある、木々が静かに揺れていた。その中で私とテールは歩いていた。


 いつものレストラン、その前で待っているのは、アリス、ルナ、コハク、グリュの四人。彼らは私たちを見つけた途端、片手を振って、挨拶をした。


「リーベさーん!」

「アリス~!」

 そう私とアリスのやり取りを見て、グリュが言った。

「仲が良いなー」

「仲が良すぎるのかもね……でもちょっと羨ましかったりする」

 とルナがやれやれと言った。

「……!」

 コハクがテールに気が付いたようだ。チョコチョコな足取りでテールの所に近づいた。柔らかい表情で来ている。


「……」ペコッ

「……」ニコッ

 テールが会釈をして、コハクが笑みを浮かべた。

「え? あの二人ってこんなに仲良かったの!?」

 私はヒソヒソとアリスに聞いた。無口同士のあの二人が会話をせずにあそこまで友情を築いている。これは私にとって珍しく見えたのだ。お互いに話さないで距離が縮まっていることにコハクに尊敬の念を感じた。


「前に買い物に行ったときからあんな感じなんだよね~」

 アリスは二人のあの様子を微笑みながら私に答えた。余程、前の買い物が楽しかったのか。私もあのクエストさえ、なかったらなー。


 テールが来てからというもの私の生活は明るくなった。ギルドからテールの監視役として任されて以降、私はいつもテールのことを気にかけている。料理を覚え、洗濯を覚え、掃除を覚えた。部屋が綺麗になり、アリス達が来たときには、夕食も出せるようになった。自分でも驚くほど、充実している。テールのおかげだ。


 そう私たちが世間話をしていると誰かが来た。フィシである――。相変わらず、身なりをしっかりと整えて来た。


「こんにちは……」

 フィシは来て挨拶をした途端、硬直した。そうフィシは魔物嫌いなのである。

「あ~やっと来た!」

 アリスはフィシが来たことでご機嫌な様子だった。

「どうフィシも一緒に食べる?」

 ルナが聞いた。そういえばまだテールとフィシの交流についてはまだ聞いていない。出来れば、仲良くして欲しいとは思っている――。


「……いえ僕は遠慮させていただきます」

 フィシの回答は意外なものだった。いつもだったら、快く承諾するのだがあのフィシが断ったのだ。


「……では」

 そういってフィシは私たちと別れた。晴れた日とは裏腹にフィシの背中姿は暗かった。


◆◆◆


(なんだよ! あいつらみんなあんな奴と仲良くしやがって奴は魔人族だぞ! 冒険者ならば討伐対象なのは当たり前だろ! なのに……なんで!)

 私は一人、街の中で歩いていた。


「待って!」

 誰だろう。私は今、誰かに呼び止められた。

「フィシ~! やっと追いついた!」

 グリュが来た。ここまで必死に走って来たのか、少し息切れをしている。


「グリュ、僕に何か?」

「あ、えーとみんなとご飯食べない?」

 あれ。僕はさっき断ったはず、そしてグリュも聞いていたはずだ。

「フィシが魔物嫌いなのはわかるよ、でもテールはいい子でクエストで討伐するモンスターとは別だと思う。なんなら、僕がフィシの近くにいるようにするから……」


 あーそういうことか。グリュは何処までも温厚で優しい性格だ。そして数少ない、私の友人でもある。だから今までもこうやって誘ってくれたことは嬉しかった。でも――。


「ごめん……グリュ、頼むから」

「フィシ……」

 そう言って、私はグリュと離れた。グリュには悪いとは思っているが自分には到底、受け入れ難いものだった。


 ——私は子供の頃、緑が広がる、村に住んでいた。その村で私はなに不自由なく、過ごしていた。やさしい母、かしこい父と一緒に生活をしていたのだった。


 朝は少し涼しく、昼は暖かく、夜は少し寒い――。

 晴れた日には、外に出て――。

 雨の日には、中で本を読んでいた――。

 たまにだが、家族のお手伝いもしていた――。


 友達も居た。かけっこが好きで笑顔が素敵な方だった。よく、遊んでいたことを覚えている。学校でも先生と授業を受けていた。わからない所などは質問に行って、家での復習もしていた。


 あの場所、あの時間、あの教室、あの子――。


 全て、自分の感情を満たしてくれた。僕は、その時から、きっと一生この場所で暮らすかと思っていた。


 ――そう思っていたのだ。


 その日はいつもと違った日だった。緑の野原、が全て赫へと変わった時だった。魔物が攻めて来たのだ。好き放題、暴れて人々を武力でわからせていた。彼らは急に来て、何もかも奪って行った。


 家は無くなり、金は全て取られて、友達、家族、先生の命を奪った。


 僕は、そこで何も出来なかった――。


 何も守れず、何も言えず、何も何も……。


 その時攻めて来た、種族は――。


 ――魔人族。


 そのあとの時間は早かった。ギリギリで難を逃れ、死にたくなく、お金もなかったものだから、放浪して、汚くなり、突然意識が無くなって、また目覚め、たまに金や服を盗み、自分のものとして扱い、一番、金を稼げそうだったからという適当な理由で適当に冒険者になった。


 職業選択の時に、剣士、魔法使い、盗賊と色々あった。しかし私はあの頃から恐怖というものが克服出来ず、忘れずにいた。だからなるべく過激じゃなさそうな僧侶を選んで日夜、どこか魔物に怯えながら日々を過ごしていた。


 そう、私の生活は全てあの魔人族なんかに歪められたのだった——。


 だから、私は最初に初めて奴と出会った時にあの恐怖と憎しみが湧いたのだ。


(あーどうして? なんでだ?! 奴は魔人族だぞ!? 何をそんなに親しくしているんだ!? どうして、奴に優しくする必要がある!? 当たり前じゃないか、冒険者が魔物を討伐するのは。)


「……クソッ」

 こうしても何も変わらなかった。自分でもわかっている。でも私の憎しみはもはや最高の極値へと達していた。


 ——すると突然。


「そこいる君……」

 私は急に呼ばれたので、感情的なところをすぐに押し殺し、振り返った。そこに居たのは、至って普通の男。


「どうしたんだい? そんなに怒って?」

「いえ……何でも」

「いやwそんなことないでしょ、流石に嘘」

「……」

 なんだこの男は初めて会ったのにここまで慣れ慣れしい奴だ。私は少し困った顔をしたら、男は言った。


「よかったら少し話でも聞こうか? 気持ちが軽くなるかもよ?」

「……では」

 私は男と話すことにした。理由としては愚痴をただ言いたかっただけかもしれない。


「じゃあ、こっちで……」

「……はい」


 私はその男に付いて行った。押し殺したはずの自分の葛藤が息を吹き返した。あぁ言いたい、もはや誰でも良いから聞いて欲しい。なんだったら八つ当たりもしたい。そうだ何もかもこの男にぶちまけてしまおう——。話して少しでも楽になろう、そして正直に。


 私、、、いや俺はいつかあの魔人族をこの手で――。

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