第7話 おかいもの

 いつも通りのとある街道にて。

「ごめん! アリス! またテールのことをお願いしても良い?」

 リーベさんは私に頭を下げてお願いした。一体どうしたのだろうか。今日は私とリーベさんとテール君とコハクで買い物に行く予定だった。

「リーベさん!? どうしたの!?」

 私は余りにも突然のことだったので心配になって、少し大きな声で聞いた。


「あのね、実は……」

 私はリーベさんから事情を聞いた。どうやら、リーベさん宛に急な緊急クエストが来たようだった。内容は大型キメラを99体の討伐らしい。いくつかのパーティーは既に受けたらしいのだが、大半はリタイアしたらしい。冒険者として死と隣合わせなのは当たり前だ。そう考えることもわからなくもない。でもリーベさんは――。


「ごめんね! すぐ終わらせるから!」

 この一言である。大半がリタイアしたクエストをリーベさんはという一言で済ますのだ。私は驚きながらもリーベさんに言った。

「全然大丈夫だよ! コハクもね!」

「……」コクンッ

「ありがとう~! それじゃあテールをよろしくね! じゃあ、行ってくる!」

 そう言って、リーベさんは走って去った。速い、もう見えなくなった。


 ということで今回は私とコハクとテール君の三人でということになった。ここで心配なことが三人中二人が無口なのである会話が弾まらないし、まず会話自体が始まらない。


(コハクはとにかく、テール君と今回初めて話すことになるんだよね……。) 

 私が不安な気持ちに駆られているとコハクがテール君の方に近づいた。


「……」ジー

「……」

 コハクがテール君を見つめていた。どうやらテール君を観察しているようだった。私は二人の傍で見ていると――。


「……」ムムム

「……」

「……」ムムムジー

「……」

「……」ニコッ

「……」ニ、ニコッ


(え! やだ! 可愛い過ぎる!)

 どうやら、コハクはテール君に対して良い印象を持ったようだ。なんとかなりそうで良かった。どうやら、私の考え過ぎで終わったみたい。


「じゃあ、コハク! テール君! ご飯食べよっか!」

「「……」」コクンッ

 同時に頷いた。二人とも息がピッタリで可愛いかった。


 そうして私たちはレストランに着いた。いつもと同じようなテラス席に座ってメニューを見ていた。こういう食事をすると、ここで働いている料理人はどんな料理をしているのか気になってくる。


 ……そして最近ではリーベさんの家事修行の時のことも思い出すようになった。中々大変、いや普通に苦戦している。料理に洗濯、掃除の仕方のなどを一日で一気に教えたのだ。リーベさんは体力的には疲れてなさそうだったが、私はちゃんと疲れていた。だからリーベさんが買い物を行っている時に少しだけ眠ってしまったのは内緒――。


 私は食べたいものが決まったので、コハクとテール君の様子を見た。

「……!」

 コハクは決まったようだ。

「……」ジー

 テール君はまだ決まっていないのか、メニューを見て固まっていた。

「……」スッ

 コハクはテール君のメニューに指を差した。

「……」コクッ

 テール君はコハクが差した料理に決めたようだ。


「コハク~?」

「……」エヘヘ

「……」オドオド

 そのレストランではアリスがコハクに注意をして、コハクがそれに対して、優しい笑顔を見せて、テール君が両手を少し上げて、喧嘩が起こりそうなところを止めようとしようと慌てている光景だった。


 でも喧嘩が起こることは全くなく、料理が来たら、私たちは大人しく、ご飯を食べていた。いつもは無口な二人だが、ご飯を食べている時の表情はとても可愛い。

「ごちそうさま!」

 私は挨拶をして、コハクとテール君は小さく会釈をした。私たちはレストランに出て、街の中を歩いていた。


「さて、どこ行きたい?」

 私は二人に聞いてみた。コハクは特に無さそうだったがテール君は少し気になる店があるみたいだった。


「テール君どうしたの?」 

 私はテール君に聞いてみた。するとテール君は店の方を見た。私とコハクも一緒になって見てみると――。


 そこは武器屋だった。


「え!? テール君! 武器見たいの!?」

「……」コクンッ

 私たちは早速向かった。店の中は入って左側に片手剣や刀などが並んでいて、右側には魔法杖や盾なんかも並んでいた。そして中心にはなにやら、アクセサリーなどが売っている店だった。


「いらっしゃい!」

 店主は少しやせ気味な方だった。とてもこの武器屋で働いているとは思えない、優しく温厚な獣人族だった。


「テール君! どの武器に興味があるの!? 武器のことなら私に聞いてみて!」

 私は自信に満ちた目をして言った。


「これなんてどう?」

 そう言って私はコハクとテール君に少し下がって貰って、片手剣を取り出した。

「この片手剣はね、普通の奴と比べて、軽く作られているんだよ! 戦闘の時なんてこれであれば十分に戦えるんだよ!」

 私はテール君に試して持たせてみた。テール君は片手剣を持って、重さをチェックしたり、両手で持ってみたりしていた。


「あとねこの剣なんかも良いと思う! この剣は重い代わりに威力が高いんだよ! だから一発が大きなダメージを与えられるんだよほら!」

 テールは実際に持とうとしたが……。


「……!」

 何とかギリギリで耐えていた。テール君にとってはまだ重すぎたようだ。とても頑張っているのか顔が真っ赤になっていた。私はすぐにテール君のことを支えて、剣をすぐに戻した。


「大丈夫!? テール君! ごめんね!」

「……」フルフルッ

 テール君は首を横に振って、大丈夫だと伝えた。私は安心して、他の武器を見た。


「テール君! これなんてどう? ブーメランなんだけどね、魔力付与がされているから、自分の属性や魔力を込めると凄いんだよ!」

 テール君は私が紹介したブーメランを手に取ってみた。軽い素材だから、扱いやすいのは間違いない。だが……。


「……?」

 テール君は初めてみたような感覚でブーメランを見ていた。もしかしてブーメラン自体が今まで触れてこなかったのだろうか?テール君はそのままじっとして観察していた。そして――。


「……」スッ

(あ、戻した!)

 テール君はそのまま棚にブーメランを戻した。どうやらお気に召さなかったらしい。


 私が少しショックを受けていると、コハクが何か持って来た。テールに見せたいものがあるらしい。

「……」ハイッ

「……?」

 コハクが持ってきたのは武闘家用の手袋だった。黄色で所々に黒い虎の絵が描かれていた。


「……」

「……」キラキラ

 実際に装備してみたところ中々、似合っていた。コハクは満足そうな顔をして次々と取り出してみたが、お店の商品なので早めに止めた。


 それでもテール君に勧めたいものがあるらしく、最後に一つだけ持ってきた。私もテール君に合うような武器を持ってきた。魔力付与がされている片手剣である。


「テール君! どっちにする? 私が持っているこの片手剣とコハクが持っている武道家用の手袋なんだけど……」

「……」ジー

 そう言って、コハクはテール君のことを見つめていた。でもテールの反応は――。

「……」

 少し困ったような顔をしていた。テール君は近距離戦はしないタイプなのだろうかとそう考えていると、テール君は何か、見たいものがあるようだ。


 テール君が訪れたのは、アクセサリーのところだった。そこでテールが手に取ったのは、意外にも指輪である。その指輪は銀色で中心に海のような何処までも蒼い宝石が付いていた。決して大きくないのだが、それでも綺麗に輝いていた。


「……!」

「これが良いの?」

「……」コクンッ

「店主さーんこれください!」

「はーい、ありがとうございますね~」

 そうやって買い物が終わり、街へと出た。コハクがテール君の指輪を見て、不思議そうな顔をしていた。テール君もコハクに見やすいように手を少し上げた。


(さて、これからどうしようかな……)

「アリス~!」

 その声はリーベさんだった。あれ?

「リーベさん! クエストはどうしたんですか?」

「え? 終わったけど?」

「あの99体の大型キメラを全部討伐したんですか!?」

「うん」

「一人だけで?」

「そう」

 恐ろしい、大型キメラは一体でも中級クラスのパーティーがやっと倒せるレベルをたった一人で討伐したらしい。私たちがリーベさんと別れて二時間後のことだった。私は驚いて、口が開いたままになっていた。


「それでテールは……」

「……」ペコッ

 リーベさんはテール君の様子を見て少し安心した感じになった。

「どう? テール、コハクたちと楽しかった?」

「……」コクンッ

「……」ニコッ

 リーベさんはコハクにお礼を言ってテール君の装備に気が付いた。

「テールそれは?」

「あぁ、リーベさん、それはテール君が武器屋に行きたがっててそこで買ったの」

 私がそう説明するとお礼された。

「あ、そうなのね! ありがとう~アリス」

「いやいや大丈夫ですよー」


 そして私たちはリーベさんと合流した。

「じゃあ、次何処に行く?」

「アリス、レストランに行っても良い? お腹が空いてしまって……」

「クエスト中に何も食べてなかったの!?」

「うん」

「わかった良いよ、コハク、テール君も良い?」

「「……」」コクンッ

「よし、行こう!」

 私はそう言って、一同はレストランに向かった。クエストから帰ってきたばっかりのせいか、リーベさんの脚の速さにみんなついて行けなくなったのは、それはまた別の話――。

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