第3話 えぇ!? 私が!?

 教会が崩壊した――。

 次に目を覚ましたときは、背中に重みが感じた。

(うーん、重たい)

 それは、教会のガレキだった。でも私自身は特に問題はなかった。私は背中にあった両手剣から魔力を飛ばして、ガレキをどかした。なんとか脱出できそうだ。


(そういえば! 少年は!?)

 私は下に少年がいることを確認する。少年は両腕を少し曲げて上に出して床の上で仰向けになっていた。驚いている顔をしている。なんとか、教会から出れることと、少年が無事だったことに安心したが、すぐに私が少年の上にいることに気づいた。お互いの顔の距離が近い――。


(あ! この体勢は?!)

 とっさに少年から離れ、地べたに座り、頬を赤らめた――。

(いくら、年相応の年齢でもあの体勢はない! 恥ずかしいぃー)


 そう取り乱していると、中々あの少年が来ないことに気づいた。心配になって様子をみると背中は、起き上がっている感じだった。ただ――。

 少年は左足を怪我していた。出血している。とても立てそうに無い。

「ちょっと、待ってて」

 私は装備の後ろについている、小さなバックから包帯と回復ポーションを取り出して少年の近くまで寄った。


「はい、怪我をしてる足をみせて」

 少年は何かと左足をみせてくれない。まだ怖がっているのだろうか――。

「大丈夫、痛いことはしないから、その左足を治療したいだけなの」

「……」

 少年は怪我をしている左足を見せてくれた。私は全属性魔法は使えるが回復魔法だけが唯一使えない。回復魔法は普通、僧侶が使える特権みたいな魔法である。でも、普段は回復なしで依頼をこなすことが出来たので特に必要なかった。でも、一様、応急措置の道具は入れていた。だから簡単なものは出来る。私は今まで、特にこのバックをいじって来なかった自分を褒めながら、少年の治療をした。左足に包帯を巻きつけて結び、回復ポーションを傷口に垂らして染み込ませた。


「これでひとまずは……」

 この時、言葉が出なかった。治療をする時に少年の姿を見て驚いたのだ。なぜか?それは――。


 少年は人間では無かった――。魔人族である。

 少年の頭を見ると二本の小さい角が生えていた。魔人族は基本、一人では無く、仲間たちと群れて、生活をするとギルドから聞いている。オーク達がその仲間か? いや、ありえない、魔人族は別の種族とは暮らさないはずだ。では、なぜここに? オーク達が連れてきた? 違う、魔人族は強いからオークの大群だって簡単に滅ぼせる。


 でも、まぁ、良いか――。

 私は片手で背中にある両手剣に手を伸ばした。依頼の場所に魔人族でもいたら、とても村を築き上げることは出来ない。そうなったら、報酬が倍にならない。少年には残念だけどここで――。

 私は少年の顔を見た。少年は自分の左足を見て、手を置き、静かに涙を流した。それは、恐怖から来るものでは無く、何か別のものだった。


 私の中で何かが込み上げてくる――。


(殺すのか? こんなにもボロボロになって、この世界の中にたった一人になっていて、命が欲しくて逃げ出した少年を。当たり前じゃないか、命を失いたくないから、走っただけじゃない! しかもさっきまで、私は少年を心配して、庇って、治療もした。そんなことをしてまで私は少年が魔人族というだけで、殺してしまうの? 本当に殺して良いのだろうか――。)


「立てる?」

 私は両手剣から手を離して少年に手を差し伸べた。少年は驚いる顔をした。


「……」

 少年は私の手を取り、立った。少し、よろけていたがなんとか支えた。少年と顔を見合わせる。よく見たら、顔も汚れていた。


「ここから、少し歩くけど、行けそう?」

「……」コクリ

 少年は頷いた。日が差している。丁度、正午になる位の時刻だ。自然のあの特有な風が吹いていた。心地好い――。

 私たちはギルドに向かって歩き出した。そういえば、まだ名前を教えてないし教えてもらってない。


「私の名前はリーベ、リーベ・ワシントン。君、名前はある?」

「……テール・ソリ」

 初めて声を聞いた。普通の男の子でまだ子供のような声だった。

「それじゃあ、テールって呼んでも良い?」

「……」コクリ


 ――やがてギルドに着いた。行きと違って、今回は結構注目された。私というより、周りはテールの方に視線を寄せていた。幸い、みんなテールのことを人間だと思っているようだ。ギルドに着いて、スミレさんが居たので会いに行った。


「リーベさん、戻られたんですね!」

「えぇ、依頼を終わらせてたので」

「少し待ってください! 今、報酬の方を……」

 スミレさんは私がテールを連れていることに気が付いた。

「あれ? リーベさん、その子は?」

「そのことについては、報酬を貰ったら、話します」

 珍しく真剣に話したせいか、スミレさんに伝わったようだ。

「わかりました、すぐに戻ってきます」

 そう言って、スミレさんは取り掛かった。言った通り報酬を持って来て、すぐに戻ってきた。私は、スミレさんから報酬を受け取りスミレさんの方を見た。


「では、リーベさん、話の方を……」

「えぇ、わかった」

 私はテールのことについて話した。廃村で一人だったこと、オークとは関係がないこと、途中から逃げられて教会が崩壊したから助けたこと、左足が怪我をしていたから治療したこと――。


「そうだったんですね……だから今回、リーベさんが泥や砂に塗れているんですね」

「そうなの」

「でも、それくらいのことなら一々、ギルドの方に報告しなくても大丈夫だと思いますが……」

 ダメだ――。スミレさんはテールのことを完全に人間だと思っている。

「それが……」

 私はテールを前に出して、髪をずらして、角を見せた。それを見た、スミレさんは目を丸くした。どうやら、事の重大さをわかったようだ。


「すぐに、ギルド長を呼んで来ます」

「わかりました」

 スミレさんは行った。

(まぁ、出てくるよね、ギルド長、だって普通、ギルドに魔物を連れて来ることなんてまずありえない、だけど初めて会うな、ギルド長……ギルド登録した時の人は用事があったみたいで会わなかったし)


「スミレさーん! お待たせしました!」

 スミレさんが来た。ギルド長のお出ましである。見た目は、年老いてて髭が長い、だけど背筋が伸びていて、しっかりとしている。

「お初にお目にかかります。ギルド長を務めている、ゴート・グランドだ」

 声も渋くてしっかりとしていた。

「リーベ・ワシントンです」

 ギルド長は私の自己紹介を聞いてから、テールの方をみた。

「そいつがスミレが言ってた、件の子か」

 そう言ってギルド長がテールを調べた。

「ふむ、魔人族……」

 そう告げて、私を見た。


(え? 魔人族だってよ)

(まじかなんで連れてんだアイツ)

(嘘! 人間じゃないのアレ?!)

 ギルド長の発言から周囲のいた人たちは、ささやかな雑談と共に私とテールに目を向ける。

「……うーむ」

 鋭い目だ、プレッシャーが掛かる。

「リーベ・ワシントン。ステータスが異常に高く、数々の魔物を討伐してこの街で多くの功績を残して来た冒険者、貴公はなぜ、この魔物を倒さない」

「この子は私が話しかけた時に突然逃げ出しました。普通の魔物なら、迷わず攻めてくるはずがこの子は自らの命が失われたくない気持ちを胸に走ったからです。冒険者たるもの死とは隣り合わせであることは承知しております。ですが、私は倒さないことにしました」

「では、私が今ここで、こいつを殺すと言ったら、貴公はどうする」

「私が守ります。たとえ魔人族であれ、生きていることに必死であることにはこの子から感じるからです」

「こいつは魔人族なのだぞ、いずれ裏切って私たちに危険が起こったらどうする」

「そうさせない為に私が育手を探します」

「貴公がやったことは異質なことであることはいずれ周りに知れ渡り自身の生活に支障が出た時はどうする」

「既に普通ではない依頼を度々、受注しているので、――知っているんですよ、私が高難易度ばかりの依頼を受けさせようとギルド自体が糸を引いているところを、筒抜けです」

 ギルド長は少し黙ってしまった。

「もしもギルドから、この子の討伐依頼を出したら、私はその時からもう一切依頼を受けないことにします」

 いくら、冒険者でも無理な依頼はあるはずだ。ギルドからしてもそういった依頼をずっと放置するわけには行かないはず――。さぁ、どうでるか――。


「はっはっはっはっは!」

 ギルド長は突然、笑い出した。

「すまない――。いくら、ギルドとして、大人げないことをしたことをまずは謝罪しなければならない。すまなかった」

 ギルド長は、私に向かって、頭を下げた。突然の変わりようで驚きながら、ギルド長に言った。

「もう、大丈夫ですから。頭をあげてください」

「では」

 そう言ってギルド長は頭を上げ、私の方を見た。そして――。


「これより、ギルド長である、ゴート・グランドより命じる。リーベ・ワシントン、これより貴公はこの魔人族の監視役として命ずる、励むように――。」

「了解しました、責任を持って務めることを誓います」

 ギルド長は頷いていた。するとスミレさんから。

「リーベさん! 良かったですね!」

「えぇ」

 そう言って、私はギルドを出た。天気が晴れている――。


(あー! 良かった、良かった! ギルド長の圧力が凄かったから、泣いてしまうかと思った。でも理解してくれて良かった。だけど――。)


 誰に育手を頼めば良いんだろう――。


 家事が出来てて、面倒見が良くて、おいしいご飯とか、作れる人……。


 (そうだ! アリス達に頼もう! 彼女達なら、信頼出来るし、安心も出来る!)

 そう思い立って私はアリス達を探した。今はお昼、彼女達はたぶんここにいるはず――。

 そうして私はテールと一緒に向かった。

(当たった! やっぱりいた!)

 そこは以前、一緒に食べた所である。アリスの他にもパーティーの仲間達もいた。


「アリスさん!」

 アリスがこっちを振り向いた。

「リーベさん!」

 アリスの他にもみんなが私の声を聞いてこっちを見た。

「リーベさん聞いたよ! 魔人族の監視役を任されたんでしょ?」

 ルナが聞いてきた。さすが情報屋。


「え!? そうなの?!」

 一方でアリスは知らないらしい――。

「あ! この子!?」

 アリスはテールに近づいた。テールは少し驚いている。

「こんにちは! 君の名前は?」

「……」

 テールは怯えて話せないようだった。

「テール・ソリっていう名前よ」

 私が代わりに話した。

「テールって言うのね! よろしく! アリスよ」

 そう言ってアリスはテールに挨拶をした。

「……」コクンッ

 テールは頷いた。


「私はルナ」

「僕はグリュ」

「……コハク」

 それぞれが自己紹介をしている中、一人だけ様子に異変が出ていた方がいた。


「……」

「フィシ? どうしたの?」

 アリスが心配する。しかしフィシは固まっていた。至って普通の表情をしていたが、なんだか雰囲気が違和感がある。あの、感情はなんだろう――。


「フィシ? 大丈夫?」

 アリスが手を伸ばす。

「……あ」

 やっと気が付いたようだ。アリスを見て「大丈夫です」と言い、自己紹介をした。

「……フィシです」

 それでもタジタジだった。あ、そっか魔物嫌いなんだっけ確か。自己紹介をした後、フィシはグリュの近くに移動した。


「それで、アリスにお願いなんだけど……」

「何?」

「テールの育手になってくれない?」

 アリスは家事も出来て、面倒見も良いから安心出来る。アリスは少し考えて答えた。

「ごめなさい、家には武器がたくさん置いてある部屋があるから危なくて無理……」

 そう言って両手を合わせて目を瞑って申し訳なさそうにしていた。

「わかったわ、ありがとう」

 アリスに断られた時は驚いたが仕方がない。


「ルナ、テールの育手になれる?」

「私も情報管理と歌の練習で忙しいから……ごめん!」

「グリュは?」

「僕はあまり家事が不得意で他のモンスターのお世話も見ないといけないから悪いけど……」

「コハクは?」

「……」フルフルッ

 困った顔で首を横に振っていた。

「フィシは……」

 フィシは明らかに嫌な顔をしていた。どうやら、本当にやめて欲しいようだ。


(どうしよう……)

 さすがに困った。まさか、アリス達に断られると思っていなかった。でもだからと言って、誰でも良い訳では決してない。


「じゃあ、リーベさんが育手になれば良いんじゃない?」

 突然、ルナが話した。

「え?」

 頭が真っ白になった。言葉を理解するのに少し時間が掛かった。

「私がですか?」

「うん、だってここまで来るのに一緒に手を繋いで来ていたし、ギルド長から監視役を頼まれているんだったら、効率が良いと思うけど……」

 確かにそうだけど、こっちは独り身だよ? 男の子の面倒どころか子供の面倒も見たことが無いし――。あと、なんと言っても私は家事をやったことも無い。


「そうだよ! リーベさんなら強いし悪い奴からテールを守れるじゃん!」

 アリスがルナの助言をした。

「そうですね」

「……」コクコクッ

「……良いと思います」

 続いて、グリュ、コハク、フィシが賛成した。


「それじゃあ、決定! リーベさん! 頑張って下さい!」

 アリスが明るい表情と声で言った。


(なんで私が男の子の面倒をみることに?!)

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