第2話 出会い

 ――次の日。

 私は目を覚まして体を起こした。まず、目に入ったのは散らかった部屋。朝から気分を落としてしまった。半目になった目で時刻を確認する。もう少しで10時を回ろうとしていた。


「あーあまた、やっちゃた……」

 ここ最近はずっとこんな感じだ。なんとか、直そうとしているけど中々治らないんだよね。


(ベットが気持ちいいのが悪い! うん!)

 そう思ってギルドに行くための準備を始める。床の上にある服や酒の瓶などを避けながらお風呂場へ向かった。装備を外して、服を脱いで、たまたま在ったまだ使えそうな綺麗なタオルを体に巻き付けて、風呂場に入ろうとしたら――。


「えー」

 お風呂には浸かりそうな状態じゃなかった。なぜか?簡単だ。浴槽の中にも色々な日用品が雑に置かれていたのだ。とてもお湯を沸かせなそうだった。でも辛うじて、シャワーの周りには何もない。


「もー誰だよーこんなに散らかしているのは? あ、私か」

 こんなことを三日に一回のペースでやっている。もはや、何も感じなくなっていた。シャワーで水を浴び、お風呂の中にあった、シャンプーなどを適当に手に取り、体を洗って、水で流した。タオルなどで頭を乾かして、新しい服を着て、装備をもってリビングへ向かう。テーブルの上にあった、携帯食料を貪り、武器と防具の点検をした。


「よし、行こっかな!」

 そう、言って防具と武器を装備して、ギルドへ向かった。途中、体臭が大丈夫かなと気にして、通りすがりの人に嫌な顔をされたら、どーしよーと思ったが、そんなことも特になく、ギルドに到着。

 ギルドの中に入って、受付に向かうと――。


「リーベさん!」

 スミレさんに呼ばれた。片手を上げて大きく振っていたので、どうしたのだろうと思い、行くことにした。


「スミレさん。おはようございます」

「リーベさん、こんにちはでは?」

 あ、そっかと思いながら、要件を聞いた。


「スミレさん。どうしたんですか、私を呼んで」

「実は、リーベさんに打ってつけの依頼があるんですけど……」

「どれですか?」

「はい! こちらです!」

 私はその依頼を見た。

「どうですか?」

 スミレが聞いてきた。


(はぁーこういう、パターンですか)

 私はステータスが高すぎるが故に直ぐに依頼を終わらせてしまうのだ。経験が豊富で上級な冒険者でも無理な難易度もなんなくこなしてしまう。それを見かけた、ギルドのお偉いさんの方々が私にそういう依頼を受けさせようとしているのだ。過去にそういうことがあって、嫌な顔をしたら、少しは減ったが、今度はこんな感じで『オススメ』という便利な言葉を使って私に受けさせようとしているのだ――。彼らは私が気づいてないと思っているが、バレバレである。はい、私はしっかりと気づいています。


(どうしようかなー、難しい依頼だから誰も受けないし、報酬は確かに多いけど、今持ち合わせているし、だけど依頼だから確かに困っている人がいるんだよなー)


「リーベさん?」

 スミレさんが私の顔色を覗いた。心配そうな顔でこちらを見ている。


(やめて! スミレさん! そんな目で見ないで! そんな顔されたら……断りずらくなっちゃうじゃーん!)

「……受けます」

「了解しました!」

 スミレさんが手続きを取り掛かり始めた。


(ギルドの上の人たちは私とスミレさんが話しているところを仲が良さそうだと捉えて、スミレさんにこの依頼をリーベへ渡してくれって頼んだな? しかも彼が天然だから、ギルドでのやり取りに気づかれずにやってくれるところを見越したな?)


 ギルドの上の方々を恨んでいたら、スミレさんが戻ってきた。

「手続きが完了しました! それでは頑張ってください!」

(はぁ……頑張りますか……)

 スミレさんにそう言われ、ギルドを出て、依頼された場所へと向かった。ギルドのお偉いさん達がガッツポーズを取っている所が目に浮かぶ。絶対に報酬を倍にして貰って赤字にさせようと決意した。


 依頼の内容はオーク150匹の討伐だった。前回のワイバーンの時の三倍である、これぐらいなら、上級や中級の冒険者のパーティーを何組か合同でやれば、解決できるだろう。不満であったがこれよりももっと不満なことがあった。場所が廃村なのである。ギルドからはオーク達がそこを拠点として住み着いているらしい。そしてその廃村は広くて、しかも地面の質が良いらしい。だから綺麗に築きなおして新しい村を作りたいとのことだった。――本当にやめて欲しい。なんでこんなことのために命を張って冒険しないといけないのだろう。ギルドの職員たちがやれば良くない?ギルドに対して、不満の気持ちを出していたら、やがて目的地に着いた。


 依頼場所である廃村に到着である。パッと見て、壁が欠けたり今にも崩れそうな家がほとんどで通り道に雑草が生い茂っている。本当にギルドはこの村を立て直すの? 正気なの? と疑問に思いながら、足を踏み入れた――。


 リンリンリンリンリーン!


 ベルの音が鳴り響いた、足元を確認したら、糸を引っ張ていた。と同時に罠であることを自覚した。仕組みは魔力が込められた糸を張って、糸とつながれたベルを鳴らす簡単な構造だ。それを村の外、全体に設置していたのだろう。アラームが鳴り続いているとやがて、武装したオーク達がみんな出てきた。


(なるほどね、これだったら、依頼を受けないのもわかる)

 オーク達の武器は、どれもナマクラとかではなく、豪華だった。私の近くにいた奴らは剣、太刀、斧、槍、死神でもないのに大鎌をもってる奴もいた。後ろにいた奴らは、弓矢を持っている。そしてどれも魔法属性がそれぞれ付与されていた。きっと過去の冒険者たちを襲って手に入れたに違いない。恐らく、前方で私と近距離で戦い、遠距離から弓矢を当てに来る戦術だろう。オークは体力があるから、少しぐらい体に矢が刺さっても平気なのだろう。

 対してこちらは私一人――。武器はいつもの両手剣だ。

(さて、どうしましょう――。いくら、無属性でも近距離なら大丈夫だけど、遠距離からは対応が出来ないと思うし、火属性だとここら一帯が丸焦げ……氷属性だと辺り一面が凍り付いて、建物が異常になってしまう……雷属性だと連続攻撃になるから狙いを定めるのが難しい、光や闇属性で攻撃したら家に穴が開いてしまう、じゃあ、土や金属性は? ……ダメ。地面に影響が出てしまう。それでもやって地面の質が落ちたらギルドの報酬が倍にさせてくれないじゃん!)

 そう考えているうちにオークが近づいて来ていた。攻撃準備が出来たようだ。


(あ! そうだ!)


 オークが攻めてきた。近くのオーク達は武器を前にして突撃して、後ろのいたオーク達は矢を放った。無数の矢とオークの大群が私を襲う。私は後ろに避けてオーク達と距離を取った。それを見たオーク達は変わらず攻めてくる。少し繰り返した後、オーク達と廃村が遠い位置になった。


(これならいける!)


 私は両手剣を後ろに構えた。オーク達が攻めてきた。


(今だ!)


 私は両手剣を思いっ切り横に振った。直接の斬撃は当ててないが近くにいたオークは斬られて、遠くにいたオーク達は吹き飛ばされた。一部のオーク達はそれを見てひるんでいる。


「よし。この調子!」


 私は両手剣を振る前、後ろに構えて居るときに風属性を両手剣に伝わらせた。そして、横に振ったときに風の衝撃波を飛ばした。そう、真空波である。近くの敵には斬撃をあて、遠くの敵には吹き飛ばすことが出来る。そしてこの距離からだから、廃村には真空波の威力が無くなり、ただの風が吹いている状態になるのだ。これなら、家を壊さずにオーク達を討伐出来る。


「さあ、かかってきなさい!」

 そう言って私は次々とオーク達を討伐しました。


 ――三十分後。オーク全滅。

 

 ――クエスト完了――

 「よし、もう居ないかな!」

 私は150匹のオークを倒したことを確認した。少し疲れたので、両腕を伸ばして軽いストレッチをした。


「村は大丈夫かな?」

 ふと、思いついた。さすがの真空波でも近くで当たったら家は崩れてしまう。

(一回見てみようかな?)

 私は廃村に向かうことにした。


 廃村に着いてそのまま村の中に入った。何度見ても酷いところだ。今にも崩れそうな家が目立つ。だけど、真空波の影響は受けてないみたいだ。


「とりあえず良かったかな?」

 私がそうやって余韻に浸っていると――。


 ガタッ!


 物音がした。今、確かに物音がした。

(まさか、討伐し損ねたオークか?)

 助けを呼んで、仲間が増やされたら、イタチごっこになってしまう。阻止しないと――。私は音が出たところに向かった。おそらくここからだろう、でもそこは、家と家の間に出来た狭い隙間道だった。私はその隙間の中を覗いた。そして私は今、自分が見ている光景を疑った。

 簡潔に言うとオークでは無かった。


 そこには少年が座っていた――。


 ボロボロの白い服を着ていて、黒いズボンには泥や砂の跡が目立っていた。裸足のまま、その少年は下を向いていて、膝を曲げて、目は半開きになって座っていた。髪は白かったがその様子はとても暗かった――。


「ねえ、君……」

 ビクッ!

 私は少年に話掛けてみた。少年は私に気づいた。しかし少年はすぐに体を起こし、私から逃げ出した。


「ちょっと!」

 私は少年を追いかけることにした。

「待って! 私はあなたの敵じゃないよ」

 少年は私の声を無視するように逃げ出した。速い。通り道に出て、時々、廃墟のなかに逃げ出していた。ここは廃村だから早く捕まえないと大変なことになってしまう。私は少年を追いかけて、二、三件廃墟を回った。少年は途中転びそうになりながらも、走り続けていた。

 次の廃墟に少年は逃げ出した。あれは、教会だ。しかもかなり建物が傷んでいる。私は少年を探しに中に入った。中に入ると、部屋も酷く汚かった。凄い埃っぽい。たまらず咳をしてしまう。前を見たら、少年がいた。この先が行き止まりで、酷く怯えている。私は辺りを見回した。この教会のほとんどの柱が壊れかけている。早くその場から離れないとこの教会は……。


 私は座って少年に言った。

「とりあえず、ここは危ないから離れよう?」

「……」

 少年は怯えたままだった。どうやら、まだ信用されてないみたいだ。目に涙を浮かべ、少年は私の横を走り去った。


「待って……」

 ドゴンッ!

 その音に驚いたのか少年は転んでしまった。

(まずい)

 私の声をさえぎったその鈍い音は、この教会に崩壊を招く前兆だった。


 ガタンッ! ガシャーンッ!

 教会の天井が近づいて来てる――。崩壊が始まった。しかし少年は転んだままだった。いつまでも立ち上がれない様子――。


(危ない!)

 私は少年を覆い被さるように少年を庇った。目の前に少年がいることを確認して、私は目をつぶった。


 教会が崩壊した――。

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