第1話 一人

――クエスト完了――

 対象のモンスターを討伐した。村の近くにある、森にいた、人に危害を加えるワイバーンだった。


 村に戻ったら村の人たちに感謝された。


「この村の村長です。冒険者の方、村を救ってくださり、ありがとうございます。これで平和に暮らせそうです」

 そう言って村長は頭を下げる。


「これぐらい大丈夫ですよ、また困ったらギルドの方によろしくお願いします」

 実際、あれぐらいのモンスターは初心者の冒険者でも倒せるレベルだったからこれぐらいのことで感謝されるとは思ってもいなかった。


「……しかし約50匹程いた、ワイバーンを御ひとりで5分も掛からず倒してしまうとは驚きました」

 村長は微笑んで言っていたが周囲の人たちの中では当然、未だに驚いていた人もいた。返答に困っていると、急に小さな可愛らしい女の子が近づいて来ていた。


「おねえさん、ありがとう!」

「村が無事になって良かったね」

「うん! あのね、おねえさんのなまえをしりたいからおしえてもらってもいい?」

「良いわよ、私の名前はリーベっていうの」

「リーベさん、むらをたすけてくれてありがとう!」

 今のこの一連の流れを近くで見ていた夫婦がいたことに気づく。きっとこの少女の親だろう、その表情から『ありがとう』と伝えられた。


「それじゃあ、そろそろギルドへ戻ります」

 そう言って村を後にした。後ろから村の人たちの声が聞こえる。振り替えないで先に進んだ。

 

 ——村が見えない位まで進んだ時。


(いいなぁー、見た!? あの女の子の純粋な目とそれを微笑んでみてたあの親の幸せそうな顔! 私もあれくらい、人生を充実にしたいよぉ! でもだからといってこの冒険者生活をやめる訳にもいけないし……でも私だってあれくらい幸せな顔を一つしてみたいしー)

 私は「はぁ」とその場でため息をつき、街についた後、ギルドを訪れて、依頼を報告した。


「リーベさん! 依頼ご苦労様です!」

「スミレさん、ありがとう」

 彼はギルドで受付として働くスミレさんだ。少し細身の体でよくニコニコと笑顔をする男性だ。外見に関しては周りからも評判なのだが……。

「でも、今回は少し遅かったですね、腕でも落としましたか? 大変だと思いますが死なない程度に頑張ってくださいね!」

 一瞬にして周りの空気が凍り付いた。

 ——そうこの男はいつも一言が多いのだ。毎回このようにどの冒険者にも言ってしまう。このせいで時々、喧嘩が起こってしまうことがあるとか。

 ちなみに悪気は一切ない。天然なだけである。顔は良いのに残念な男なのだ。


「でも50匹ぐらい出現した、ワイバーンを5分も掛からず倒してしまうのは凄いですね! さすが! リーベ・ワシントンさん!」

 そう言って彼は目に光を浮かべながらこちらをみた。周囲がざわつく。

「まじか、50匹ワイバーンをたった一人で……」

「しかも5分掛からず……」

「やっぱすげぇなぁ、ワシントンは……」

 そんな声が聞こえた。


「そんなこと……」

「そんなことあります!」

 急に彼は私の声をさえぎった。

「リーベさんは本当に凄いです! 他にも凶暴なオークを一発で倒し、人を食べる植物を被害が出る前に森ごと瞬間冷凍したのち種を丁寧に処理して埋め立てて、街に襲撃しに来たスケルトンの群れをたった一人で一夜にして壊滅、どれもリーベさんがやったことじゃないですか!」

 それを聞いた周りは私に注目する。


「あはは、では、私はこれで」

 私は報酬を受け取り、脚早でその場から去った。全く余計なことまで言って。

 

 でも実際、私はここら辺の冒険者よりは確実に強いことを自覚している。この世界では【火】【水】【風】【土】【金】【氷】【雷】【光】【闇】といった魔法属性が存在してる。ほとんどの人はこの属性から一つ、レアなケースで二つ使えることが出来る。しかし魔法属性に適さないものもいる。でもその人たちは、代わりに身体的能力が高かったり、毒などを使用して攻撃したりしている。


 だけど私は全属性の魔法属性を使えることが出来た。そして身体的能力も極めて高い方だった。攻撃力、防御力、素早さが人並み以上にはすでに持っていたのだ。無論、魔力に関してもそうだった。これまで一回の戦闘で数えきれないほどの魔法を出した時もあったが、魔力枯渇で疲れたり、倒れたりしたことは一度もない。そんなものだからギルドに初めて登録しに行ったときは三回ほど取り直して、ついにはギルドで偉い御方も出てきて「あなたは別格の人間です」と言われた。


(――なかなか迷惑な話なんだよなぁ。だってこのステータスのせいで、いつも難しい依頼ばかり頼まれたりするし、寝ている時に突然、招集かけられたり、秘密事項として音を立てずに街を守り切れという無茶ぶりを受けたこともあったし……こっちはさっさと家に帰ってゆっくりしたいのに……)とそう思いながら、トボトボと歩いていると――。


「リーベさん!」

 誰かが私を呼ぶ声がした。声の主を探ると数少ない、友人の一人であるアリスだった。


 アリス・ソンリッタ

 氷属性持ちの剣士。明るくて正義感が強い女性で、速攻戦が主な戦術だ。また、氷属性持ちなのに料理も出来て、家事も出来る。武器が特に好みで装備よりも剣の方にお金を使うところがあるので度々、同じパーティーの仲間から止められることもあるとかないとか――。


「今暇ですか? 良かったら内のパーティーと一緒にお昼どうですか?」

「ええ、ぜひ」

「え?! いいの!? 嬉しい! 早速行きましょ!」

 そう言って彼女と世間話でもしながら彼女のパーティーと合流した。

「あ! アリス! こっちこっち!」

 そうアリスに声をかけたのはアリスと同じパーティーの仲間であるグリュだ。

 

 グリューン・スマラクト

 土属性と金属性持ちで珍しい職業である召喚士だ。優しい性格で友達思いの男性だ。ゴーレムなどのモンスターを召喚して一緒に戦うことを得意としている。だから魔力を維持しないといけないのに倒れたところは見たことない。でも彼曰く、時間制限があるらしい。初めて会った時に「グリュと呼んで」と言われたので今もこう呼んでいる。意外にもお昼寝が好きで寝顔がとてもやさしい顔でかわいいとアリスが言ってた。


「アリス! 待ちくたびれたよー! あ! 今日はリーベさんも来たのね! 依頼、お疲れ様!」

「こんにちは。ルナ、ありがとう」

 グリュの隣に座っていたのは、ハーフエルフのルナである。


 ルナ・ピエーナ

 風属性持ちの弓矢で戦うアーチャーだ。元気な性格でとても無邪気な女性だ。アリスと仲が良く一緒に買い物をしているところを良くみる。ハーフエルフという種族だから歌が上手い。街のお祭りで自慢の歌を披露してくれたときは本当に綺麗で感動した。また、情報力に長けていて、私も度々お世話になることがある。


「……」ペコッ。

 今、会釈をしてくれたのは、半人半獣のコハクだ。


 コハク・アルブム

 無属性だが高い身体的能力を生かす武道家だ。物静かな女性で基本、無口。パーティーの中では、一番背が低いが、近距離での戦闘では右に出るものはいない。半人半獣の特性を生かして様々な獣を表すような技も会得している。あまりコミュニケーションを取れないせいか時々、アリスとルナに買い物に巻き込まれるけど特に嫌な気は感じないし、むしろどこか楽しそう――。


「こんにちは。リーベさん」

「フィシさんもこんにちは」

 白のロングコートを身にまとう彼は僧侶のフィシ。


 フィシ・アルベルト

 光属性持ちの僧侶。大人しい性格の男性だ。パーティーの中ではヒーラーとして主に回復魔法を使っている。魔力も優秀で傷跡一つも残らない。またとても冷静で状況を考えて臨機応変に対応してるところが凄いらしい。魔物が嫌いと自ら言っているが召喚士であるグリュとそのモンスターとは仲が良い。またグリュの戦闘をアドバイスをしててグリュもそれに従っているらしい。


「リーベさーんどれ食べる?」

 アリスが聞いてきた。私はどれ食べようか迷っていると――。


「……」スッ

 コハクが指をさして私をみた。この料理は彼女のオススメなんだうか?

「……」キラキラ

 ――間違いない、だってこんなにも目が光っているもの。

「じゃー、これでお願いします」

 私はアリスにそう告げた。

「コハク~?」

 ルナがコハクに注意するような目でみていた。

「ルナさん、私は大丈夫ですよ丁度迷っていたので」

「リーベさんがそういうなら」

 ルナと話していると、グリュから

「で? 今回はどんな依頼をこなしてきたの?」

「今回はそんな大したものではな……」

「えー!? 聞かせてよ!」

 アリスも会話の中に入って来た。みんなが私の方をみてる。――私は仕方なく(いや? 圧に負けたのか?)今回の依頼について話した。


「「「50匹のワイバーンをたった5分で!?」」」

 いや、君たちは≪なかよし≫か? アリスとルナとグリュが揃って同じこと言った。

「……」

「さすがですね」

 対してコハクとフィシはあまり驚かない様子、もう慣れたのだろう。

「でも、そんなに早く倒せたから村の方々も相当喜んだでしょ?」

 グリュから聞かれて、とても感謝されたことを話したらみんなホッコリな顔をしていた――。

「そういえば、リーベさんはパーティーを組まないんですか?」

 急にフィシから質問された。

「私は他の方たちと上手く連携が取れないから基本、一人でやることにしているんですよ」

(嘘ですぅー。本当は連携ぐらい取れますぅー。でも、この無駄に高いステータスのせいでダッシュしたりすると脚が速過ぎて置いてっちゃうし、全体攻撃を出したら味方まで巻き込んでしまうぅ。えーでも言えないよなー、言ったら言ったで自慢になって聞こえそうだから言えないし、距離でも置かれたら耐えられない!)


「ふーん、そうなんですね」

 フィシが納得した。上手く行って良かった――。

 その後は与太話をして昼食を食べてアリス達と別れて家に帰るところだった。


(パーティーの件についてはあれだけが理由じゃないんだよね……)

 パーティーを組むと依頼に関しての打ち合わせで人の家に出向いたり、自分の家に招くことがあるのだ。そして私の家はというと――。


 ガチャ……バタン!

 そこには、汚部屋が広がっていた。無論、私の部屋である。机の上には荷物がいっぱいでキッチンには最後いつ洗ったのか、わからない食器や鍋、まな板にフライパンまである。床の上には、お酒の瓶やらカバンとか一番多いのは衣類だ。とにかく服が散乱してる。歩くのもやっとな状況だ。


(言えない! 言えるわけがない! 依頼をなんなくこなして、ステータスも別格と言われて、この街だって何度か救った私がこんな汚部屋に住んでるんだなんて、知られたくもない! こんな状態でパーティーを組んで仲間にこんなことがバレたら恥ずかしくてこの街を跡形もなく消しちゃう!)


「あぁー片付けないとなー」

 そう言って月日がいくつも経ってしまっている。でも辛うじてベットはまだ綺麗な方だった。――ベットに横になってみた。


(あーでもこうやって寝ると気持ちいいんだよねー他の人がいたら気を使わないといけないし、やっぱり一人は良いなぁ)

 

 その日は、そのまま眠ることにした。


(堕落さいこぉー)

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