雪と桜

卯野ましろ

雪と桜

 今年の桜が咲いて間もなく、季節外れの雪が降った。


「こんにちは」

「どうも」


 桜が雪に挨拶すると、雪は桜に返事した。友好的な桜に対して、雪の態度は冷めている。


「この暖かい季節に珍しいですね」

「そうね」

「春に……花が咲く時期に、ずっとお会いしたいと思っていました」

「それは良かったわね」

「はい。おきれいですね」

「あなたには及ばないわ」

「そんなことはないですよ」

「謙遜したって無駄よ」

「なぜそう言うのですか?」

「春になったら、誰もが立派に咲き誇るあなたを求めているわ」

「あなただって、きれいではないですか」

「どれだけきれいでも、私なんて喜ばれないわよ」

「どうしてそう思うのですか?」

「冷たいからよ。私なんて嫌われているわ」

「私は好きですよ。そんなあなたのことが」

「……あなたは私なんか好きにならない方がが幸せよ」

「いいえ。私は今、あなたに出会えて幸せです。ずっと会いたかったのですよ。私と入れ替わるかのように姿を消す、あなたに」

「……」


 ここで雪は黙り、これ以上桜は何も言わなかった。




 そして翌日。


「ね? 私なんか好きにならない方が良かったでしょ?」


 桜に降りかかった雪は、もう溶け始めていた。弱々しく問う雪に、桜は答えた。


「短い間でも、あなたに会えて私は幸せでした。ありがとうございました」


 桜は明るく振る舞った。


「そう……。本当にバカで意地悪ね、あなたは」

「ははは。結構ですよ、それで」


 悪態をつく雪に、桜は優しく微笑んだ。


「そんなあなたを、あなたに会えたことを、ずっと忘れないわ」

「私もです」

「……ありがとう。好きよ」


 一番伝えたかったことを伝えた雪は、桜の前から姿を消した。

 いつかの春に交わった雪と桜。あの美しい景色を、また見られるときが来るだろうか。

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