第2話 仲間との出会い


 街道をウィルリーンは、歩いて移動していた。


 途中で、魔法を使って動物を狩ったり、木の実や食べられる野草を探しては、食事をしつつ、目指すのはドワーフの国だ。


 お婆さんにもらった金貨10枚以外にも、生活用のお金も持ち歩いているのだが、今の所、人のほとんど通らない街道なので野宿が続いた。


 夜には、魔物に襲われるリスクもあるのだが、木に登って、途中から吊るしたハンモックを使って寝る。


 そして、アラームの魔法と、結界魔法によって、自分の周りに魔物や危険な動物が近寄らないようにもしていたので、1人でも安全に旅を続けることができた。


 十数日の移動で、ウィルリーンは、ドワーフの国に入った。


 運命的な出会いがあるはずなのだが、ドワーフの国の何処で出会うのかまでは分かってないので、目指すのはドワーフの国の首都にあるギルド支部にしていた。


 そこで、登録を行い冒険者になって、依頼をこなすなり魔物を狩るなりして、時間を潰したら、出会える可能性があるのではないかと、道々、考えていたのだ。


 そして、運命の出会いの相手は、どんな人なのか考えながら歩くことで、長旅の気持ちを紛らわしていた。


「私の旦那様は、どんな人なのかしら」


 ウィルリーンは、意気揚々と街道を歩いて、道行く人達の顔を覗いていたが、ドワーフの国なので、道行く人は、ドワーフか、時々、商人風の人が歩いていただけだった。


 どう見ても、自分を気にしている様子は無かった事もあり、ウィルリーンの運命の相手とは思えなかったので、通り過ぎる度に表情を曇らせていた。




 ウィルリーンは、時々、魔法を使って人や動物、そして魔物の気配を確認していた。


 人は、悪意が有るかどうか、もし、盗賊のような悪意を感じるようなら、隠れてやり過ごし、魔物だったら必要に応じて倒すようにしていた。


 そんな中、ウィルリーンは、街道から少し離れたところに、人の助けを求めるような気配を感じた。


(この気配は、……。 森の中、……。 1人だけね。 少し弱っているみたいだわ。 放ってはおけないか)


 ウィルリーンは、気になった様子で街道を外れた。


 そして、その気配の場所に近づくと、血の匂いもしてきたのだ。


(誰か、怪我をしているみたい。 でも、周りの人は、街道を歩いている人は、少し遠いから、誰も気が付く事はないわね)


 ウィルリーンは、どうしようかと思ったのか、途中で立ち止まって街道の方を確認した。


(そうだわ。 占いだと、運命の人と巡り会えるとあったのだから、これが、そうなのかもしれないわ)


 ウィルリーンは、気配と血の匂いを頼りに、その人の方に向かっていった。




 ドワーフの国は、森が多く、それは、エルフの里にも似ている。


 しばらく、森の中を歩いていくと、木にもたれている、ドワーフの少女を見つけた。


 その左腕は、焼け爛れており、血が滴っていた。


「あなた、腕、大丈夫なの?」


 ウィルリーンは、師匠に教わったドワーフの国の言葉で、辿々しく、その少女に声をかけた。


「痛い」


 怪我をした少女は、一言言うだけだった。


「今、魔法で、治す」


 そう言うと、ウィルリーンは、その少女の腕に手をかざした。


「精霊達の加護をここに賜らん。 この少女の左腕の火傷を癒したまえ。 ヒール」


 ウィルリーンは、ヒールを使って、少女の左腕の火傷を治していくと、滴っていた血も引いて、皮膚が焼け焦げて筋肉が見えていた部分に皮膚が戻っていく。


 しかし、残った皮膚と新しい皮膚には違いができてしまった。


「ごめん。 傷は癒えた。 でも、傷跡が残ったわ」


 少女は、左腕の痛みが消えたので、表情からも痛そうな様子は無くなり、その癒えた腕を動かして傷跡の様子を確認した。


「ああ、問題無い。 痛みさえ無ければ、逃げられる」


 ウィルリーンは、失敗したという表情をしているが、ドワーフの少女は、嬉しそうに話を続けた。


「この火傷は、家に火をつけられたからなんだ。 兄貴達が、私を逃がしてくれたが、家につけられた火の回りが早かったから、火傷を負ってしまったんだ」


 その少女の説明にウィルリーンは、ゾッとしたような表情をした。


「家、燃やされた? 人が、居る家? 火を、つけた?」


 ウィルリーンには、少女の説明が信じられたいといったように答えたが、少女は、ヒールで癒された腕を見つつ、助かったといった表情をした。


「ああ、領主の息子の嫁にさせられるところだったんだ。 とは、言っても、強制的に捕まえられそうだったんだ。 それを親と兄貴達が断ったら、家に火矢を射られてしまったんだ」


 ウィルリーンとしたら、母親と暮らしていた時に、そんなことに出会ったことも無く、そして、そんな話も聞いた事も無かったので、少し引き気味で聞いていた。


「でも、なんで、そんなことに、なった、のよ」


 ウィルリーンは、慣れないドワーフの言葉を辿々しく続けるが、ドワーフの少女は、話が通じているなら問題無いと思っていた事もあり、気にする事もなく言葉を続けていた。


「領主の家には、女子が授からなかった。 それで、私が目をつけられ、嫁に入れと言われたんだ。 だけど、ドワーフは、嫁に行くんじゃなくて、婿に入るのが一般的だからと、父が断ったんだ」


 ウィルリーンは、そこまで聞くと、女性の少ないドワーフは、女の家に婿に入るしきたりを思い出した。


 ドワーフは、エルフとは反対で、女性の出生率が低い。


 そのため、身分が高かろうと、女児のいる家には礼節を持って接するのだが、このドワーフの少女の家では、そのしきたりを破られてしまっていた事になる。


 大きなトラブルを抱えているのだろうとウィルリーンは思った。


「それで、これから、どうする?」


「国を出る」


 そのドワーフの少女は、迷いなく答えると、ウィルリーンを見て、何かに気がついたようだ。


「なあ、お前、旅人なのか? だったら、私を一緒に連れて行ってもらえないか?」


 トラブルを抱えているであろうその少女が口にした言葉には驚いた。


 流石に、今、会ったばかりの相手に一緒に連れて行けとは言えないと思ったウィルリーンは、驚きの表情で、その少女を見た。


「えっ! 私は、この国の、ギルド支部へ行く。 そこで、冒険者登録する。 だから、すぐに国を出ない。 行き先は、北の王国」


 ウィルリーンは、辿々たどたどしいドワーフ語で答えた。


 今までは、短い言葉で終わらせていたのだが、今度はそうはいかなかった。


 だが、ドワーフの少女は、そんなことを気にする気配は無かった。


「ああ、かまわない。 ギルド支部へ行くなら、私が道案内をする。 首都なら一度行ったことがある。 それに領地から離れられるから、私には好都合だ」


 ドワーフの少女は、断られない事を前提とした様子で答えた。


 ウィルリーンとしたら、助けられた相手であっても、警戒した方が良いと思えたので、ドワーフの国を直ぐに出ないと言えば諦めると思ったが、ドワーフの少女は、話に食いついてきたので微妙な表情をした。


 しかし、ふと、何か引っかかったという表情に変わった。


(この子が、師匠の占いにあった運命の人なのかしら)


 ウィルリーンは、自分の伴侶となる男性エルフを期待していたのだが、ドワーフの少女だったことに、少しガッカリした。

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