ウィルリーンの別れと出会い  パワードスーツ ガイファント外伝 〜女性だけのAランクパーティーのリーダー ユーリカリアとの出会い〜

逢明日いずな

第1話 師匠との別れ


 森の中の古民家の扉が開き、そこから少女と老婆が出てきた。


 その古民家から出てきた少女は、切長の目に、鼻筋が通り、小さな口、そして、左右のパーツも綺麗に整っており、年頃になったら美人で通りそうな美少女だ。


 そして、その後ろを老婆が少女に続いて出てきた。


 その老婆の顔を見ると、直ぐにかなりの高齢だと、そのシワの数によって分かる。


 しかし、小顔の中にある、それぞれのパーツは整っており、若かったときは、さぞ、美人だったと思えるような顔立ちだ。


 そして、2人は、お互いに耳が長く、その耳の形から、直ぐにエルフと分かった。




 少女は、旅支度をしており、老婆は、普段着に、つばの広い三角帽を被り、マントを着て、地面から胸までの長い杖を持っていた。


 老婆は、常に帽子とマントと杖だけはいつも持ち歩くのだと言わんばかりに、下の普段着とその3点はミスマッチのように見えた。


 2人は、古民家の入り口から、家の敷地の境界となっている垣根と垣根の合間に向かって歩いていた。


 垣根の向こう側は、人が辛うじてすれ違いが出来る程度の道が、垣根と平行に作られていた。


 それは、森の中を通過する街道だった。


 少女と老婆は、その垣根の合間のところまで来ると、老婆は、その少女の肩に手を置いて、少女を振り返らせ笑顔を向けた。


 そして、少女に話しかけた。


「お前の指導は、楽しかったよ」


 老婆は、目の前にいる少女にそう言うと、今度は少女の頭を撫でた。


 しかし、少女は、老婆に子供扱いされていることが、あまり嬉しそうではなかった。


「ウィル。 お前には、私の持つ魔法の全てと、冒険者としての武器の使い方も一通り教えた。 冒険者として生きていくことも可能だ。 私の魔法を、その年齢でマスターしたのだから、魔法の指導者にもなれるだろう。 どこかの国で、魔法研究所の門を叩いても採用されるかもな」


 しかし、老婆にウィルと呼ばれたウィルリーンは、嬉しそうではなく困ったような表情をしていた。


「お婆さん。 私、まだ、35歳よ。 エルフの35歳って、人属の13歳程度なのだから、どこの国の魔法研究所でも、私を採用してくれるとは思えないわ」


 その言葉を聞いて、老婆は思い出したように笑顔を向けた。


 エルフは、長命であり人属より長い時間を生きる事もあり、ゆっくりと成長する。


 第一次成長期までは、人属の2倍の時間がかかって成長するが、第二次成長期を過ぎると、成長の速度は更にゆっくりとなる。


 それは、エルフの男性出生率が極端に低く、そして、エルフの女性は人よりも受胎が難しい事もあり出生数も少ない。


 その結果、成長が遅くなり出産適齢期が長くなったのだと考えられているため、少女と一緒にいる老婆は、400年近く生きていると想像できる。




 その老婆は、ウィルリーンに、自分がまだ子供たと言われて、その通りだと思った様子で少し苦笑いをした。


「そうだったね。 お前の歳だと、採用は難しいか。 やはり、ウィルは、頭が良い」


 老婆は、言葉に出しながら、徐々に満足そうになったが、ウィルリーンは、その老婆の言葉に苦笑いをした。


「ありがとう、お婆さん。 私に魔法も武器の使い方も教えてくれた御恩は忘れません。 15年間、お世話になりました」


 そう言って、ウィルリーンは、老婆に頭を下げて旅立とうとしたので、老婆は、寂しそうな表情をすると、少し慌てた様子で声をかけた。


「お待ち、ウィル」


 そう言うと、老婆はポケットから小動物の骨を数本取り出した。


 そして、口の中で何やら呪文を唱えると地面にその骨を落とし、しゃがみ込んで、その骨の配置を確認していた。


 老婆は占いをしてくれたのだ。


 ウィルリーンも何かを占ったと理解できたので、その結果が気になったのか、老婆に倣ってしゃがみ込んだ。


「お前は、北の王国へ行くと言ってたな」


 老婆は、ウィルリーンの行き先について聞いて知っていたので、確認するように聞いた。


 しかし、ウィルリーンは、何度も話した事だと言わんばかりに、一瞬、表情に出したが、直ぐに思いとどまったようだ。


「ええ、私が村を出る時、お母さんから、叔母さんが居ると聞いたので、行ってみようと思ってます」


 老婆は、それを聞いて、少し考えるような表情をした。


「そうか、だが、その前に、ドワーフの国へ行けと出ているな。 ……。 これは、人に出会うみたいだな。 それも長く付き合うことになる運命的な出会いのようだ」


 老婆が占いの結果を口にすると、ウィルリーンは少し困ったような表情をした。


 これから行こうとしている北の王国は、ここからは北東の方向にあるが、ドワーフの国は、西にあるので大きく迂回するようになる。


 そのため、一度、ドワーフの国に行くと、日程的にも距離的にも大きくロスすることになる。


 子供のウィルリーンにとって、その迂回は、大きなロスになるのだが、運命的な出会いと聞いて少し顔を赤くした。


「えっ! 人に出会うって、それは、将来の旦那様に出会えるという事なの?」


 ウィルリーンは、嬉しそうに両手を頬に当てた。


「私、35歳で旦那様と出会えるのかしら」


 そして、出会えることの憧れに、満面の笑みをたたえていた。


「母様は、私を産んだのが、120歳だったから、私は、母様より幸せ者なのかしら」


 ウィルリーンは、赤い顔をして独り言のように言うので、その様子を見ていた老婆は笑い出した。


「ウィル。 運命的な出会いと言っても、旦那様とは限らないよ。 エルフは、男性が少ない種族だから、ドワーフの国で旦那に出会えるとは思えないな」


 老婆が、現実的な事を言うので、ウィルリーンは面白くなさそうに頬を膨らませた。


「もう、師匠ったらぁ。 少し位、夢を持たせてくれても、いいじゃないですか」


 ウィルリーンは抗議したが、老婆は、笑いながらウィルリーンを見ていた。


「そうだな。 お前の言う通りかもな」


 そう言って、地面に落ちた骨を拾って、土を払うと、ポケットに戻し、代わりに小さな巾着袋を出した。


「ウィル、これを持っていきなさい。 お前は、冒険者として、様々な技能を持った、これからは、お前の才覚で未来が開けるはずだ」


 巾着袋を受け取ったウィルリーンは、すぐに中を確認すると、そこには金貨が数枚入っていたので驚いた。


「え、お金だわ」


「10枚入っている。 それを、お前に預ける。 だが、そのお金は、食事や宿代に使っては行けないよ。 このお金は、稼ぐために使うんだ」


 老婆の言葉に、ウィルリーンは、なんの事だというような表情をした。




 金貨は、この世界ではかなり高額になる。


 この世界の貨幣の種類は多く、白銅貨、黄銅貨、中黄銅貨、銅貨、中銅貨、銀貨、中銀貨、金貨、中金貨、大金貨となる。


 それぞれ、10枚で上の貨幣と交換可能となるので、金貨は、最低貨幣の白銅貨1000万枚となるので、金貨10枚となると白銅貨1億枚となるのだ。




 そんな大金を老婆は、ウィルリーンに渡したのだ。


 ウィルリーンは、何でそんな大金を餞別として渡してくれたのか、不思議そうな表情をした。


 その表情を見た老婆は、もう少し説明が必要だと思ったようだ。


「生活のためのお金は、直ぐに減ってしまう。 だが、お金を稼ぐために使うなら、このお金は増えていくんだ。 だから、このお金は、生活費以外に使うんだよ。 それと、次にここに戻ってくる時は、金貨20枚になった時だ。 それまでは、戻ってきてはいけないよ」


 ウィルリーンは、10枚の金貨を見つつ、老婆の話を聞いていた


「ふーん、お金を稼ぐために使うのね。 分かったわ、次に戻ってくる時は、金貨20枚にして戻ってくるのね」


 ウィルリーンは、納得したような表情をしたが、老婆の方は、ホッとしたような表情をしていた。


(有れば使ってしまうのが、お金だ。 ウィルにしても、借りるつもりで、直ぐに使ってしまうだろう。 だが、これだけ有れば、一人前の冒険者になるまで、暮らす事もできるはずだ)


 老婆は、試験のような口ぶりでウィルリーンに伝えたのだが、本当の思惑は、別にあったのだ。


 しかし、老婆は、本音をウィルリーンに伝えなかった。


 ウィルリーンは、もらった巾着袋を懐にしまうと、老婆を真剣な表情で見た。


「師匠。 今まで、色々教えてくださり、ありがとうございました。 御恩は一生忘れません」


 ウィルリーンは、そう伝え、深々とお辞儀をすると、老婆にくるりと背を向け、その場を後にして、森の中にできた小さな街道を歩いて行ってしまった。


 老婆は、見えなくなるまで見送るのだが、ウィルリーンは、振り返ることなく歩いて行った。


 その様子を老婆は、ウィルリーンが遠くなるに連れて、表情が寂しそうに変わっていった。


「本当に、あの子は、……。 別れは、辛いから、別れたら絶対に振り返るなと言ったら、本当に振り返らなかったよ」


 老婆は、ウィルリーンの去った街道から家の方に向くと、頬には、目尻から滴が流れていた。

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