今日もまた見送る
れん
単和 介護の仕事
広い鉄筋コンクリートの建物。
同じ作りの部屋が横にずらりと並び、周辺にはコンビニも飲食店もない。
施設の職員になって最初に感じたことは、『まるで隔離された監獄のようだ』だった。
そんな場所に、今日も助けを求めて人が来る。
「ようこそいらっしゃいました。今日からここがあなたの家になります」
部屋が空けば、新しい誰かが迎え入れられる。
部屋が空くと言うことは、誰かが退所……亡くなったか、入院したまま戻れなくなったということ。
それを誰も口にはしない。
ただ、受け入れる。
悲しんでいる暇はない。
止まっていると、ほかの入所者が困るから。
日常生活に手伝いが必要な人が入所している場所だから、職員が怒ろうが悲しもうがナースコールは鳴り響いて、職員は駆けつけないといけない。
決まった時間に車椅子に移し、食堂に連れて行って食事を食べさせ、トイレに誘導し、トイレに入れない人は決まった時間にオムツを変え、決まった曜日に風呂に入れる。
空いた時間に受け持ちの利用者の部屋にいき、職員が個別対応する用件を聞き、記録を入力する。
その繰り返し。
体調が悪かったり怪我をしている、様子がおかしい時は看護師へ報告し、血圧や体温、血中酸素濃度を測り、様子を記録。
事実を淡々と記載する。
職員の感情や私見は含まない。
まるで利用者を生かす機械のよう。
「なんか、ほんとキツいですよ……」
「まぁ、そういうな。俺たちの仕事って、そう言うもんだからさ」
そう言っていた先輩も退職した。
人手不足だからと無理な業務を続けた結果、体を壊して仕事を続けることが難しくなったらしい。
ここでは入居者だけじゃなく、職員の入れ替わりも激しい。
空き部屋はすぐに埋まるけど、欠員は埋まらない。埋まらない枠は残された職員で埋める。
「あー、また早番と遅番兼務か……」
「こっちは夜勤で残業」
「私、遅番だけど早出勤……」
職員控え室の嘆きは利用者には届かない。
誰かが亡くなった報告もひっそりと引継ノートに書かれるだけで、担当職員が荷物を片づけて家族に引き渡し、その人が居た痕跡は消える。
また新しい人が入って、生活して、居なくなる。
次は、誰だろう。
今日もまた見送る れん @ren0615
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