天使の笑顔 第6話
四組に自然委員会の水やり当番が回ってきた。
一年生は、校門を入ってすぐそこにある花壇への水やりを任されている。そこには、チューリップや、ツツジ、ワスレナグサなどが植えられている。
朝、紺色のジャージに身を包んだ僕と榊原君、それから伊藤君が納屋から、それぞれ緑色のジョウロを取り出して、それに水を入れた。
「よし、じゃあ花壇に行こう」
榊原君がそう言うと、三人で花壇に向かって歩き出した。
その途中、伊藤君が口を開いた。彼は敬語を使うキャラだ。
「ジョウロで水をやって常緑樹を育てるんですか?」
僕も榊原君も意味を理解できずに、ん?と首を傾げた。
「ジョウロ!ョクジュを育てるんですか?」
ジョウロの部分を強調されて、僕たちはようやく意味を理解した。
榊原君は、口に手を当てて笑った。
「ジョウロと常緑樹を掛けているんだね」
「そうです!分かって頂けて嬉しいです!」
「面白いことを考えるのが好きなの?」
「はい!皆さんの笑顔が私の好物です」
「良い趣味を持っているね」
伊藤君は、褒められて嬉しかったのか、笑顔で細長い手足をせっせと動かし、小走りで花壇の方に行った。
僕は、彼が榊原君に褒められたことに少し嫉妬して言った。
「僕も面白いことを言えるよ!」
榊原君は、少し目を大きくした。
「お、良いね。言ってみて」
勢いで面白いことを言えると言ってしまったが、そんなにすぐには思いつかない。
「えーと、えーと」
榊原君は僕を見つめている。
「・・・えーと」
「宮村君、無理しなくて良いんだよ」
胃が少し重くなった気がした。
「い、いや、無理してないよ!すぐに考えるから・・・」
榊原君は気を使うように微笑んだ。
「そっか。あ、もう花壇に着くよ」
結局何も言えずにに花壇へと辿り着いた。
そこでは、すでに伊藤君が花への水やりを始めていた。
水がかけられた草花に付いている雫が、きらきらと輝いて見える。
(こんなに小さい雫にも、僕たちの顔や身体が映っているんだよな・・・。僕の心も。僕が榊原君を想う気持ちも例外ではないのかもしれない)
そんなことを考えていると、伊藤君の声が耳に入ってきた。
「ツツジとつつましく生きよう!」
それに続いて榊原君の笑い声が聞こえてきた。
僕の嫉妬は強まるばかりだ。
(僕も榊原君を笑顔にしたい!榊原君の笑顔を僕のものにしたい!)
そう思った瞬間に口が動いた。
「ワスレナグサとの思い出は忘れないさ!」
急なことに、榊原君は一瞬戸惑ったようにしていたが、すぐに勢い良く吹き出した。
「プッ、フハハハハ!」
笑ってくれた!
身体の中心から、温かいものが全身に満ち溢れていくのが感じられた。
「宮村君、良いね!言えるじゃん!」
「笑ってくれてありがとう・・・!」
榊原君はジョウロを持っていない方の手でお腹を押さえて笑っていた。笑顔で整った顔を振るせている。元はまん丸な目を限界まで細めて笑う榊原君。僕にとっては天使だった。
花壇に咲いている花が、さっきより鮮やかに見える。
人間って、笑顔が大事なんだなぁ。
[やさしいBL] 俊と美少年の榊原悠とのやさしい恋物語 ちゅうがっこう 天守里 リノ @REINrein
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