委員会決め 第5話
キーンコーンカーンコーン
チャイムと共に一時間目が始まると、担任の塩原先生が、黒板に各委員会の名前を書き出していった。
今日は二時間続きの総合があり、委員会とクラスの係りを決めることになっていた。このような決め事は、揉めて時間が押されることが多い。そのため、学校全体に関わる委員会を先に決めようという算段だ。
(この学校は委員会に入ることは強制ではないし、僕は入らなくても良いかな)
委員会は、定員が全生徒分は無い。そのため、学校の活動に前向きではない生徒が、強制的に委員会に入れられることはない。
僕にとっては良いシステムだった。ちなみに、小学校は必ず委員会に入ることになっていた。
(委員会は友達も増えて楽しいっちゃ楽しいんだけどなぁ)
そんなことをぼんやりと考えていると、前の席の人が、プリントと裏に磁石が付いたネームプレートを回してきた。
僕もそれを後ろに回しながら、プリントをざっと見てみた。
『貴梨中学校 各委員会の役割』
なるほど。今から決める委員会の役割について書かれた紙だった。
生活委員会や、保健委員会、自然委員会、体育委員会などの役割について書かれていた。
僕は、どれも面倒くさそうに感じた。やれと言われればやるのだが、自ら進んでやりに行く質ではない。
先生が、黒板に委員会名を書き終え、教卓に手をついて言った。
「では、四組の皆さん。今配られたネームプレートを、自分が入りたい委員会の名前の横に貼ってください」
数人の生徒が立ち上がった。他の生徒は、様子を見るように周囲を窺っている。
(僕も様子を見るふりをして・・・あ)
僕の横を榊原君がスッと通っていった。
彼はスキップのような軽い足取りで黒板に近づいて行き、ネームプレートを自然委員会の横にペタッと貼った!
(榊原君っ・・・これは、僕もやるしかないか・・・)
そう思った時にはすでにネームプレートを持って立ち上がり、黒板へと向かっていた。
自分の席に戻ろうとしている榊原君がすれ違いざまに話しかけてきた。
「宮村君も委員会をやるの?」
「うん!自然委員会をやろうと思ってるんだ!」
「おー!奇遇だね。ユウもそれにしたんだよ」
「同じなんだね!一緒に頑張ろうね」
「うん!」
机と机の間という狭い空間で繰り広げられる会話。
榊原君の紅の口から出てくる空気が、僕の鼻を刺激した。爽やかさと、軽やかな甘さを感じた。長時間接していると、体がとろけてしまいそうになる香りだ。
ネームプレートを榊原君の物の下に、黒板の辺と平行になるように、丁寧に貼った。
普段から几帳面な性格なわけではないのだが、これは「今後が上手くいきますように」という願掛けだったのかもしれない。
(榊原君と仲良くなるためなら、少しぐらいは頑張れる・・・!)
僕は強い足取りで席へと戻った。
そして、念のためプリントに書かれた自然委員会の役割を見てみた。
『自然委員会
・学年ごとに決められた花壇への水やり(クラスごとに当番制)
・夏に不定期で草むしり』
とあった。
これなら僕にもできそうだ。
体育委員会のように、体育の授業の準備体操のときなどに、皆の前で大きな声を出す必要が無く、あまり人前に出ることに慣れていない僕には合っている気がする。また、仕事の回数もあまり多くなさそうだし、良い決断だったかもしれない。
キーンコーンカーンコーン
一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
先生が黒板を見ながら、腰に手を当てて言った。
「定員割れをしているところは、二時間目に引き続き募集します。では、これで一時間目を終わります。ありがとうございました」
ガタガタガタと椅子を動かす音が聞こえてくる。
そこで先生が「あっ」と言った。
「一部の委員会は、五月にある体育祭の前日準備を任されるかも知れないので、覚えておいてくださいね〜」
先生が言い終えると、また、ガタガタガタという音が聞こえてきた。
黒板に目をやると、僕のネームプレートの下に、別のネームプレートが貼ってあった。
目を細めてよく見てみると、『伊藤 大成』と書いてあった。
僕が貼った後に貼られたものらしい。まあ、委員会の定員は三名なので、僕と榊原君が同じ委員会に所属することは確定している。
僕は後ろを振り返り、プリントを読んでいる榊原君を見た。
(榊原君、これからよろしくねっ!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。