初めての会話 第3話

「えー。皆さんはこれから同じ屋根の下で学んでいきます。くれぐれも仲良くするように。それでは今日はこれで終わりです。廊下に並んでください。皆で下駄箱に移動します。ではさようなら」


 先生の話が終わった。僕はあの子のことをずっと考えていて先生の声は全く耳に入ってこなかった。皆が急に席を立ち始めたため、ついに時が来たと感じた。

 あの子は僕の後ろの一人を挟んだ席におり、先ほど配られたプリントをバッグにしまっているところだった。


(よし、今だ)


 僕は急いでバッグを背負い、あの子のもとへと駆け寄った。


「あ、あの」


「え、あ」


相手は少し動揺したような感じだった。


「あ、僕、さっき君のお母さんに写真を撮ってもらった者です」


緊張して敬語になってしまった。


「あー!さっきの人かぁ。僕の名前は榊原さかきばら 悠っていうんだ。君は?」


気になっていた人の名前が知れて僕は感激した。


「僕は宮村俊って名前だよ。これからよろしくね!」


「うん、よろしく!」


僕は、前もって考えていた話題を思い出した。


「そういえば、さっきどうして一年生なのに校歌が歌えたの?」


「あー、あれね!実は、ユウのお兄ちゃんが、この学校の3年生で、校歌の歌詞が書かれたプリントを見せてくれた時があったんだよね。うちの校歌って短いじゃん?だからすぐ覚えちゃった」


「なるほどね!記憶力良いんだね」


「別に記憶力が良い訳じゃないよ〜。結構長時間見てたし」


「てことは集中力があるってことだね!」


榊原君は笑った。


「まあ、そうなのかな。てか、何でも肯定するじゃん」


僕も笑った。話すのが楽しくなってきて、冗談を言ってみることにした。


「僕、肯定するのが趣味なんです」


「えー、何それ。めっちゃ良いじゃん」


「でしょ!肯定されたくなった俺に言ってよ!」


「うん、分かった!」


すると、先生が扉からニュッと顔を出してきて言った。


「おーい!二人とも。早く廊下に並びなさい」


「やばい、急がなくちゃ」


「やばい、急がなくちゃ」


「あっ」


「あっ」


綺麗にシンクロした。

二人の顔に今日一番の笑顔が広がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る