自己紹介で魔術と科学を組み合わせた兵器を作りたいって言ったらクラスから孤立しましたけど、私は元気です(ウソ)
@sanryuu
第1話 僕のままならない日常
読者諸氏の中に、高校入学時に行われる初めてのクラスミーティングの際の自己紹介で失敗してしまった経験を持つ方はいるであろうか?
ぼかぁ見事に失敗してしまった。
魔法なんて物が『アンタ・ソリャ・ナイデショ大魔法使い』(凄い人だよね、僕も彼みたいになりたいもんである)によって現代によみがえり、瞬く間に世界に広まり、お買い物帰りの主婦たちが井戸端会議で
「うふふ聞いてくださる?」
「アラ、どうしました○○さん?」
「先週ついにワタクシ通信教育の魔法検定で中級呪文習得許可を得たんですのよ!」
「マッ!おめでとう!」
何て話があちらこちらで聞こえるぐらい浸透してから100年経った現代。
それまで人類を導いていた科学が、ウイルスもびっくりの勢いで浸透してゆく魔法に危機感を覚え、以来ずっと対立している中で「魔法と科学を組み合わせた兵器を作りたいです!」何て言っちまった日にゃあアナタ、どうなると思いますか?
あの時のクラス皆の目ときたら!まるでダンスホールの中にチンパンジーを見つけたみたいな(どんな例えやねん!という突っ込みは無しでお願いね)目をしていた。
想像つきますか?自信満々で将来の夢を語り、それが受け入れられず、あまつさえ拒絶されてしまう時の心の痛みが!
高校生なんてものは思春期の真っただ中だ。まだ子供だ。自分と世界の境界に多少気付き始めちゃいるが、けどもやっぱり僕や私が世界の中心で、学校というのはそんな僕や私がひしめき合って小さな
別に全世界からお前は異端だ!今すぐ裁判にかけ、猿轡をして川に沈め、半日後に引き上げて生きていたらお前は魔女で、死んでいたら人間だ!もし人間だったらゴメンネ。なんてされたわけじゃない。
確かに白い目で見られはした。したけどその後
「異端者だ!石を投げろ!」
「科学と魔法を組み合わせようとする者は皆ユダヤ人である!」
「眼鏡かけた奴は知識人としてコロス!」
とか、裏路地に引きずり込まれて
「オマエチョットチョーシノッテナイ?」
「ジャンプシテミロヨ」
「コレスッテミナ?」
みたいなアカラサマナ差別を受けたという事も無く、ただ「こいつなにを言っているんだ?」という偏見というか、ともかく白い目で僕は見られたわけだ。
それだけだった。彼らが僕という存在にいじめる価値すら見いださなかったのか、それともこの学園の民度が高かったからかは分らない。
しかし、この日から僕はこの学園でものすごい疎外感というか、あなたは私たちと違いますよ、というレッテルを張られたような気がした。
学園の作り出す世界は小さい。小さいが、学生の僕らにとってその小さな世界が僕や私の全てなのだ。
つまり僕は世界から僕の夢を否定されたに等しいのだ。
読者諸氏よ!貴方たちに聞きたい!いったい貴方たちはいかにしてこの世界からの拒絶を撥ね退けて大人になったのか!
もし知っているのならば、どうかこの哀れな子羊、『
どうですか?どうなんだい!僕にどないせぇっちゅーんじゃい!
……なぁ~んてそれらしいこと色々語っちゃったけれども、正直な話、僕としてはそこまでダメージを受けてはいない。
皆から僕の夢を肯定されなかったのは悲しいし、悔しい。でも、それは100年も続く大人たちのメンド―極まりないシガラミに影響されたものだと僕は知っている。
70年前に起きた科学魔法大戦を得て、表向きは魔法側と科学側は過去と変わらずいがみ合っているが、その裏ではお互いこのいがみ合いに意味が無いと知っていることも僕は知っている。
100年という月日は短いようで、偏見や差別を生み出すには十分すぎるほど長い時間である。
凝り固まった思考や思想はそう簡単には解きほぐせない。冷蔵庫に入れておいたカチカチに固まったパスタぐらいには。
いくら魔法側や科学側が対立する事に価値を見出さなくなったからといって、その思想が組織の下部や庶民の皆様方に広まるのは、彼らが悟った倍以上の時間が必要だと僕は思う。
まあ要するに、僕には彼らが僕を白い目で見る理由を知っているから、悪く言えば心構えが出来ていたからこそ、そこまでダメージを受けなかったのである。
……口ではエラソーに言っちゃあいるが、やっぱり自分という存在が受け入れらないのは気持ちが良いもんじゃない。現に今僕が教室に入ってくる時に一瞬静まり返り、「うわ来たよ」みたいな目で見られるのは、その、かなりきつい。マジで。
その上彼らは僕が席につくまで一挙手一投足にいたるまでずっと見てくるのだ。まるで僕が凶悪な犯罪を犯したかと思わせるかのような徹底的な観察ぶりである。
確かに僕は制服に空間を広げる術式を(勝手に)刻んで、裏のポケットの中に術式を刻んだ拳銃とかを忍ばせちゃいるが、
これはあまりにもオカシイぞ。ここは一つ彼らと話し合い、ガツーンと一発言うべきではなかろうか。
……まあそんなことが出来りゃあ苦労はせんわな。もしそんなことが出来るのなら、今頃僕はお友達に囲まれ、オンナノコを両肩に抱きながらガッハッハ!と笑っているに違いない。
等など現実逃避気味に頭の中であれやこれやと考えていれば、すでに僕の席は眼前へと迫っていた。
僕の机は他のクラスメイトよりもずいぶんボロボロだ。
これは何もクラスメイトに蹴っ飛ばされたり、教室の窓から放り出されたり、「オマエナマイキナンダヨ!」とメロドラマの恋愛パートの様にビンタされたからという訳ではない。
これは僕が机の上で拳銃のメンテナンスをしたり、暇つぶしで中古で買ってきた壊してもいい電子機器を分解、改造して使用した結果ついた大小さまざまな傷である。
言うなればこれは名誉の負傷ナノダ!机伍長に敬礼!(何で伍長かは知らない)
席についた僕は早速家で作っていた
こういう何かにムチューになっている時だけは、つらい現実を忘れ去ることが出来た。
そして長々こういうことをしてくると、次第に「いや、俺はあんなキャッキャウフフしてるよーなチャラチャラした奴らとは住む世界が違う!住む世界が違うから、奴らは俺を受け入れようとはしないのだ!」何ていう選民思想的なもんが芽生えてくる。
もちろんこれはただ自分の状況が受け入れられない僕のしょうも無い自己正当化である。
やっぱり友達が欲しーよー。誰か僕の様なはみ出し者に手を差し伸べてくれる素敵なお方はいらっしゃらないかしらん?
……そんな都合の良い人がいないから、僕はこんな目に合っているのだ。現状を変えたいのなら、自分で動くしかない。
しかし動いた所で、何の実績もない僕の言葉に耳を貸す奴なんていないだろう。
動こうにも改造する物が無いし、それを買う金が無いから学園の出している『魔獣』(魔獣は要するに魔力の影響を受けて凶暴化した生き物の総称)の討伐依頼であくせくはした金を集めている最中だから、成果を出す目処すらない。
ホンっと現実ってキビシーなぁ。
ホームルームが始まり、黒板の前に立つ先生の話を聞き流しながら、僕はしみじみ思うのであった。
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