第23話 射的

下から何か喋り声が聞こえくる。家にはおばあちゃんしかいないのに。また先生が来たのかな。

 

 正直、今の自分がどうしたいのか分からない。学校にも行かず部屋からも出ず、とてつもない罪悪感を感じている。でも学校に行くのが怖い。今行ったらクラスメイトにどう思われるとか。考え出したらますます足が竦む。

 

 意味もなくまた、日記ノートを開く。自分と会話するために書き始めたノート。

 ペンを持ち、書くことがまだ決まってないけど、頭に浮かんだ言葉を書いていく。


『もう嫌だ。私は笑われるために生きてるんじゃない。何もできない自分が恥ずかしい。なんで悪口を言うの。私に聞こえるのを知ってて、私がいることを知って。どうして、私が一体何をしたって言うの。助けて、この世界にヒーローがいるなら来てほし――』

 

 ガチャッと扉が開く。おばあちゃんかなと思ったけど違う。そこにいたのは同じクラスの大野君だった。私は咄嗟に引き出しにノートをしまう。大野君も慌てて扉を閉めた。


――な、なんで。


「ご、ごめん! 洗面所に行こうとしたら部屋を間違えて!」

 

 外から謝る声が聞こえた。急な出来事で脳が追いつかず、声を出そうとも口から出ない。


「あ、あの! 俺、同じクラスの大野大地と言います! ここ三週間ぐらい学校に来てなかったから、内海も心配してたし様子を見に来たんだけど。……えっと、元気そうで良かった!」

「え、えっと、あの」

  




 結局何も言えなかった。

 

――味方になる――


そう大野君は言っていた。もしかしたら彼が私の……。

私は勢いよく立ち上がり、部屋から飛び出す。階段を駆け下りすぐにリビングへ。


「お、おばあちゃん。さっきクラスの子が家に」


 玄関から戻ってきたおばあちゃんが私と目を合わすと、ニコッと微笑む。


「夜空の友達かい?」

「う、うん。友達っていうか……でもなんか……なんかよく分からないけど……うーん」


 言葉が詰まって口から声が出ない。

 そんな私におばあちゃんが近づく。


「彼と喋るかぎり悪い子じゃない、優しいのがよく分かる。もしかしたら夜空を変えてくれるかも」


――私を変えてくれる――


 



「これ食べたら輪投げしに行きたい」

「おう。いろいろ遊べるところもあるっぽいし、花火までまだ時間あるしゆっくりまわろう」

「うん」


食事も終わり、もう一度屋台を見に行く。花火の時間へ近づきに連れ、人混みも増えてきた。


「あーあれあれ。あそこにあるやつ」

「おー意外といけそうな雰囲気してないか」


 屋台の中にはいろんな景品が床にちりばめられている。一等は一番遠い。


「いけそう?」

「やってみないと分からないけど。近くにあるやつは絶対取れる。一等はむずそうだな」


 景品に向かって輪を投げ、当たりさえすれば景品獲得という緩いルール。でも一等の景品には前にトイレットペーパーの芯のようなものがあり、そこに輪を入れないといけない。


「頑張れ川見!」

 

 まずは私から。狙うのは勿論一等。


「よし!」





「ぜーんぶ外すとは川見さん」

「おかしいな~」

「まぁここは俺に任せとけって!」

 

 ここぞとばかりに頼もしくなる大地。さぁ結果は。




「まー何となく予想できたような」

「……う、うるさい」

 

 失敗してしょぼくれる。結局、手ぶらでそこを離れることになった。




「次は射的か~、できるのか?」

「さ~でもやってみなきゃ分からないでしょ」

「……それはそうだな。うん、その通りだ」

 

 勿論、狙うは一等賞。私はじっと時間を溜めながら、一等へと狙いを定める。


「お~一等を狙うのか。あれは何が貰えるんだ?」

「わ、からないけど。あれを当てれば景品が貰えるらしい」

 

 小さな的へと、願いを込めて弾を打つ。

 当たれ!



「何となく結果は分かってたけどな」

「うるさい」

 

 全外し、景品ゼロ。人生で二度目の経験。


「任せろ」

 

 何故か妙に格好つけながら大地は銃を手に取る。


――何となく結果が見えているような――



「俺が一等を取ってやりゃあ」


 大地と私の願いがのった弾が放たれた。

 



「奇跡は起きないと……世の中そんなもんだよ」

「なんでえええええ」


 失敗してしょぼくれる大地。結局、手ぶらでそこを離れることになった。

 

 デジャブ。


「金魚掬いは正直自信ないぞ、俺」

「安心して誰も期待してないから」

「お、おおいひどいぞ!」

 

 恥ずかしそうに声を上げる。私は思わず笑ってしまう。


「よ~し、そんなこと言うなら見せつけてやりゃあ」

「ふふふっ。じゃあ見させて貰おうかな」

 

 二人同時に金魚掬いを始めた。

 いける、いけるぞ私! 

 横の女の子は易々と金魚を掬っていく。

 上手すぎる! 

 私も負けてられない!





「もう、今日は景品はないと思っていたほうがいいな」

「うん。それは私も思う」

 

 金魚掬いぐらいなら一匹ぐらい取れると思ったのに。甘かった。まさか開始一発目に紙が破けてしまうとは。それも大地君と同じタイミングで。


「くっそー。何だろう、何だか悔しい!」

「私も悔しい! もう一回だけ射的挑戦させて? 良い?」

「勿論」

 

 悔しさを胸に、私は射的会場へと歩き進める。


 失敗は成功のもとという言葉がある。

 この言葉には成功には失敗がつきものという意味と、失敗を失敗で終わらすなというメッセージが込められているのだと思う。そう、私は失敗を失敗で終わらせない。成功への鍵を奪い取る。


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