第20話 ブランコ

ギーコギーコ、と錆付いたブランコの泣き声が公園に響く。こんなに楽しかったっけ、ブランコって。


「いやーずっと乗ってられる~」

「る、ルビー」

「ビール片手に飯食って……とか大人っぽいこと早くしたいなーとか思ってたけど。こうやって子どもの頃にした遊びをしてみるってのもいいな~」

「な……名札。…………これ本当にしりとりしてる?」

「ルール」

「いや今のは違くて」


 隣では俺と同じように、夜空が風に揺られながらブランコを漕いでいた。


「はい、川見の負け。……てことで負けた川見には素敵な罰ゲームを」

「いや聞いてない聞いてない」

「今月末にある夏祭りに強制参加してもらいまーす」

「え、それが罰ゲーム?」

「はい」


 川見がブランコをそっと止める。


「もっと何か罰ゲームっぽい罰ゲームだと思ったら」

「へへ、それがいいなら今すぐ変えるけど」

「いやいい、このままで! ……でも何かありがとね、いっつも誘ってくれて」

「どうもどうも! ていうかこっちこそありがとう。いつも誘いにノってくれて。今日だってブランコ乗るためだけに来てくれたじゃん」

「そんな私は嬉しいよ、大地君が誘ってくれるから。……いつもクラスで一人だけだったし」

 

 川見は俯きながらそう言った。


「ところで学校はどうするの?」

「行く!」

 

 元気よく川見が返事をする。正直、嬉しいけれど予想外の反応で驚いた。


「あれ、案外サクッと」

「うん。だって大丈夫だもん」

「そ、そうなんか。でも、正直に言ってくれたらいいよ。何かあったら俺がいつも相談――」

「何かあったら――相談できる相手がいてくれてるから。私は大丈夫」

 

 川見はブランコから立ち上がると、正面にある柵に肘をついた。


「高校に入ってからも、ほんと誰とも話さずに来てて。そのまま卒業まで行くと思ったら、いきなり大地君が部屋に入ってきて。正直最初は滅茶苦茶怖かったよ」

「……すみませんでした。乱暴な真似して」

「でも、そこから会って喋って一緒にいて。楽しいところにも連れてってくれて。よくこんな暗い私に喋りかけてくれたね」

 

 俺はそっとブランコを止めた。

 先生に指示されたからってのはさすがに言えねぇか。


「それがたとえ誰かに指示されたから、だったとしても」

 

 川見は柵から手を離し振り返り、続けた。


「でも一つ分からないことがあって。どうしてそんなに私に優しくしてくれるのかな……て」

 

 川見が俺に問う。

 何故、優しくしてくれるのかって。


「うーん、なんだろう。子どもの笑顔を見るために生きてるから、かな」


 格好つけて言ってみる。


「何それ。子どもって同い年じゃん」

「正解」

「ふふっ。ほんと何それ」

 

 川見は小さく笑うと、ポンッと柵を跳び越えた。


「じゃ、そろそろ帰らないと」

「そうしよっか。じゃあ夏祭りで、また家に誘いに行く」

「はーい」









『――ドラゴンと思われる大きな死体は、街を襲ったものと同等のものと思われます』

 

 このニュースが流れたのは、あの衝撃的な大災害が起こったすぐのことだった。身体に無数の傷があったとされるドラゴンの死体。どのようにして死んだのかは誰も分からない。何者かが戦った、それが一番有力な説だとされた。俺にはその何者かが誰か分かる気がする。あの銀の装備に身を包み、僕を危機から救ってくれた人。空を飛び人を救う、この世に本当にヒーローがいるんだなと驚いたし、嬉しかった。

 素顔は露わにせず、恐らく今もどこかでひっそりと暮らしている。そしていざとなったときに助けに来る。この世界の主人公はきっとあの人何だろう。会いたいという気持ちと会いたくない気持ちが五分五分ぐらい。

 リーゼントさんが教えてくれた。川見がヒーローに会いたい、そう言っていたと。もし川見がその人を見たらきっと喜ぶだろうな。間違いなくそうだ。

 でも会う、生で見るってことは何か危機的状況に陥ってることでもある。ドラゴンが襲ってきたときのように、悲劇が起きたときにしかあの人は現れない。

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