第17話 失格

 ――何をしてんだか――


 太陽の日差しが暑苦しい猛暑日。子どもは元気よく公園で走り回って騒いで、そんな光景を俺はここ二、三十分椅子から動かず眺めていた。じっとしているだけなのに、汗がにじみ出てくる。

 どうしてこんなことをしているのか。俺は昨日佐々木に命令された。


「――ひま?」

「う、うーんまあ一応」

「じゃあさー子守り代理してくんね?」

「子守り? 代理?」

 

 佐々木がお願いっと手を合わしてくるが意味が分からない。


「俺の妹と弟。小一と幼稚園年長なんだけど、明日遊びたいって言いだして。母さん明日いないみたいで俺が面倒みないといけないんだよ。でも俺も用事できちまってさ。頼む」

「明日は用事があるから遊んじゃダメって止めたらいいじゃん」

「さすがに……子どもは遊ぶために生きてるんだし」

 

 何故か拒む佐々木。自然と口からため息が出た。


「はぁ。まー暇だしいいけど、それで見返りはあるんだろうな」

「五千円」

「バイト一日分。ならいいか。何でもいいけどお前、兄失格じゃね」

「そんなこと言うなよ! 俺だって普段はこんなことしないけど、明日は仕方ねぇんだって。大事な用事が……」

「ふーん。それで、大事な用事って?」

「デート」

「失格だな。……………………てか彼女いたのかよ」





 てなことがあり俺は今、初対面の子どもたちの面倒を見ている。面倒っていってもただベンチに座って様子を見てるだけだけど。久しぶりに来たこの公園。ブランコに乗りてーとか思いながら。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 

 一匹の可愛い犬が俺を呼びながら、近づいてきた。……犬じゃない女の子だ。

 頭にピンクのリボンをして、それは純粋な。佐々木のような極悪人のような顔ではなく、純粋に満ちた可愛い顔立ちをしている。


「なにー明咲あきさちゃん」

「ねーねー面白いことやってよ」

「おおー無茶振りが凄いね~」

 

 これも悪気のない、純粋さが来るものなのだろう。


「そうだね~何をしようか。じゃー見たことのないような凄いことをしてあげようか」

「ううん。凄いじゃなくて面白いこと」

「ほほう、いきなりお兄ちゃんに大きな壁が立ちはだかってきたよ」

 

 少々の悪気は入ってるかもしれない。でも仕方ない、子どもを楽しませるのもまた俺の役目。


「じゃあーやるよー」

「あ、ちょっと待って。カズー! 来てー」

 

 明咲ちゃんは手を大きく振り、やってきたのは年長さんの弟くん。


「なに」

 

 佐々木の兄ちゃんと違って大人しそうで真面目そうな子だ。まだ幼稚園だしこれから化ける可能性もあるが。


「今から面白いことしてくれるって」

「え、お兄ちゃんが」

「そう! じゃあお願い!」

 

 司会が俺にそう合図をした。さぁ観客が二人になったってことで。何をしようか。

 

 一発芸なんか一つもない、特技禁止のこの世界。くそー何をすれば。

 いや……何を緊張してるんだ俺は。小一と年長だ。変顔でも笑ってくれる時代だ。難しいことなんか一つもない、リラックスして。


「じゃあーやります! いないいなーいばぁ!」

 

 俺は自分ができる最大限の変顔を二人に見せた。寄り目したり舌を出したり。でも観客からは無反応。


「…………はい、終了でーす」

「おもしろくな~い」

 

 司会進行が俺にブーイングを送った。


りょう兄ちゃんのほうがまだ面白いよ」

 

 亮兄ちゃんこと佐々木、さすがだ。このままだと俺が子守り失格になってしまう。


「今のは前説って奴だ。準備体操みたいなもんよ。こっから本番――」

「うぁ、見てお姉ちゃん」

「わぁ、凄い。行ってみよ!」

 

 そうはしゃぎながら、二人は凧揚げの方へと向かっていった。


「はぁ……」

 

 何とか危機的状況は打破。暑さとはまた別の汗が出てきてるような気もする。


――給料上げてもらうか。

 

 でもまたいつ無茶振りされるか分からないし、何するか考えていたほうがいいな。

 俺がボーッと考えていると、公園の端で腹筋をするある男性が目に入った。そしてそれが誰か、一瞬で分かった。


「どうしたどうした」

「いやーちょっと助けて欲しくて……ヒーローに」


 俺が無理矢理呼び出したのは、川見家のお父様ことスーパーリーゼントさんだ。

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