第13話 ヒーロー

「ねえ、起きてよ! 秋帆! 秋帆!」


 必死に身体をさすって揺らして、声が枯れようとも叫び狂った。それでも、姉の目が開くことはなかった。


 意識がだんだん朦朧としてくる。足がおぼつかない。僕は膝をつき、横にある大きな瓦礫に身体を授けた。早く逃げないといけないのに、どうしてか力が出ない。姉を置いてはいけないし。僕がどうにかしないと……僕が。

 

 そのときだった、後方から音が聞こえてくる。まるで飛行機のエンジン音のような。次第に大きくなっていってる、何かが近づいてくるのが分かった。

 

 そっと振り向く。空から聞こえてきているのか、何か飛んでいる。暗い夜の空に光るものが舞っている。飛行機か、いや飛行機なら小さい。必死に目をこらす。それでも分からない、分からないけど。


 ――こっちに向かってきている――


 何かが、得体の知らない何かが僕に向かってきている。あれは一体何。ただ動けず眺めていると、それは空からもの凄いスピードで降りたってきた。正面唐突するかのごとく猛スピードで僕の目の前まで来て、僕はその勢いで起こった突風を顔を背けて防ぎ、治まったらまた振り返った。


「にん……げん?」

 

 銀のアームで身を頑丈に包んだ兵士なのか、ロボットなのか。顔は見えない。僕はただただ無言で見つめていると、その人はそっと手を僕に差し伸べた。


「さぁ手を取って、早く逃げよう」

 

 優しい声でそう僕に声をかけた。言われるがまま手を伸ばし、そのまま僕は抱っこされ、姉を担ぎ上げた。


「今から跳ぶよ、しっかり捕まって」

 

 足下からジェット機のように火が吹き始め、宙へと浮かんだ。黒く染まった空を進み、山へと向かっていく。信じられないようなことがずっと起こっている。でもそれを頭で整理するほどの余力はもう無かった。





 気が付けば病院にいた。隣に母がいて姉が担架で運ばれているのが見える。


「あ、あきほ」


 咄嗟に出た言葉に白衣を着た医者が反応し僕に近づく。


「大丈夫、姉ちゃんは大丈夫だから」

 

 マスク越しに微笑んで、僕にそう言ってきた。

 








 ――ブー、ブー、ブー


 耳元で鳴るそのやかましい音で、俺は目を覚ました。丁度のタイミングで母が部屋のドアを開ける。


「起きた? 大地が準備ができたら行くから」

「はーい」

 

 もう二時間ぐらい寝転んでいたい気持ちを押し殺して、無理矢理身体を起こした。





「もう七年か」

 

 父がボソッと言って、母と俺が同時に頷く。 

 火のついた線香をそっと立てる。大野秋帆、そう掘られた墓に向かって両手を合わせた。


 ――ありがとう秋帆。俺はある人を助けたい――


 俺は下がり、親に場所を譲る。





「そういえば大地、夏休みの宿題はもうできたのか?」

 

 その日の帰り。運転中の父があらぬ質問をしてきた。


「えーっと、やったって言ったら嘘になるかな」

「ええーもうちゃんとしなさいよ」

「分かってるってー。まだあと二週間もあるんだし、大丈夫」

 

 宿題なんかギリギリにやらないとやる気が出ない。ていうかそもそも答えがないと進まないんだよなー。もー内海のやろう、よくも答えを配布しないでいやがったな。


「帰ったらしなさいよ!」

「はいはい、分かってる…………あ、そういえば寄って欲しいところがある」

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