第12話 笑顔
「あれ! 屋台閉まっちゃってる」
数多くあった屋台は、片付けを初めていた。
気づけば空に夕日が。
ついつい夢中になってしまっていた。
「うん」
「人が多いから売り切れちゃったのかな。ごめん、俺の計算ミス。先にまわっとくべきだった」
「ううん、全然いいよ。さっきのでたっぷり楽しめたし」
川見は微笑みながらそう言った。仕方なく、出口に一直線で進む。
「川見って昔から優しいよな」
歩きながら声をかけると、何故か戸惑い始めた。
「そ、そうかな」
「うん、かなり。だってさー、無理にこうやって誘っても付いてくれるし」
「ふふっ、だって来てって言うから」
俺のその言葉に川見がぷっと吹き始める。
「もしかしたら自分だったら断ってたかも」
「断ったほうが良かった?」
「いやいや! 何を言う!」
「断ったらどうしてた?」
「泣いてた」
ププッと川見は笑う。それを見て俺も自然と頬が上がる。
帰り道。丁度、先にある夕日と目が合う。
「こんなに綺麗だったっけ、夕日――ん? どうした?」
隣で一緒に歩いていたはずの川見がいない、と思い後ろ振り向くと足を止めている。
そして俺と目が合うと川見は一度礼をして、口を開いた。
「今日は本当に……本当にありがとう」
「……どういたしまして。そんなにかしこまらなくても。こちらこそ一緒に来てくれてありがとう」
「これだけは言っとかないと、と思って――ヘヘッ」
頬を赤らめながら、照れを隠すようにニコッと笑った川見。その笑顔は、夕日に照らされたその笑顔は、あの暗そうな川見にはとても想像できないような、とても素敵な笑顔だった。
「ヒーローっていると思う?」
電車の中、ゆらゆらと揺れながら突然川見が俺に訊いてくる。
「いきなりどうした? ヒーローならさっき会ってきたじゃん、ほら、あのーリーゼントさん」
「ううん、そういうことじゃなくて。実際にいると思う?」
「リアルに? 現実にいるのかってこと?」
訊き返すと、川見が頷く。
「ああーどうだろうね。よくアニメとかに出てくる空を飛んだりとか、ビームを出したりとか、そんな超人的なヒーローはいないだろうけど。身近にはいると思う」
「身近に? ……」
「うん。誰かに助けられたとか、誰かのおかげでここまで来れたとか。自分にとってその誰かはヒーロー、どんなに些細なことでも。この世で自らをヒーローと名乗る人は少なくても、誰かからヒーローだと思われている人は沢山いると思うんだ。実際に自分の親も姉も、俺にとってはヒーローだし。だからいるんじゃない、人それぞれにヒーローが……あ、ごめん。なんか長々と喋って」
「ふふっ。良いこと言うね」
「でしょ? 恥ずかし」
川見につられて、俺も少し笑ってしまう。
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