第11話 リーゼント
遠慮してステージ後方から始まるのを待つ。
内容は正直分からない。ただかなりの人が集まっているのを見ると、このヒーローフェスのメインディッシュなんだと思う。
「おっ」
アナウンスが流れる。いよいよ始まるのか。
「皆さん! 本日はお集まりいただきありがとうございます」
司会者らしき方がステージに立ち、場を盛り上げる。
「楽しむ準備はできていますか!!」
マイク越しに観客を挑発すると、それの何倍もの大きさの声援が会場を圧倒する。司会者は満足げに微笑むと、――さあ、と一息ついた。
「何と本日は! 皆さんのためにスペシャルゲストの方に来てもらっています」
その言葉に、会場はざわめき始める。
「スペシャルゲスト?」
「誰だろう」
俺が訊くと、川見も分からないようで首を傾げる。言うてもヒーロー関連だろうし、俺が知ってる人ではないだろう。
「スペシャルゲストさん。どうぞ!」
舞台の端から、ゆっくりと真ん中に歩いてくる一人の人影。黒いフードを被っており誰だか分からない。会場の期待もどんどん上がってくる。なぜだか分からないが、俺もワクワクしてきた。一息つくと、その人はフードをバッと外し手を上げた。
「皆さん! こんにちはああああああ!」
マイクなしに、有り得ないぐらいの声量で挨拶をした誰かさん。その声で会場のテンションも爆上がりだ。遠くから見ても分かる派手なリーゼントに、正にヒーローって感じのコスチュームにマント。声優か、実写のヒーローを演じている人なんだろう、残念ながら俺は誰だか分からない。チラッと横目で川見の様子を見ると、魂の抜けたような目をしている。ところを見ると誰だか川見も分かってないのか?
「さあさあ、皆さんならもうおわかりですよね? では! スペシャルゲストさんの名前を皆さんで呼びましょうか!」
司会者がマイクを観客に向ける。そしてせーのっと合図をすると、全員が。
「「「スーパーリーゼント!」」」
と叫んだ。
――あーあーなるほどなるほど――
全然ついて行けてない。
「川見は知ってるの?」
「まぁ……一応」
「へ~知ってるんだ。声優さん?」
「ううん。実写のヒーロードラマで演じている人」
「あーそうなんだ」
知ってる人が多いところを見ると、有名な方なんだろう。俺自身、よく見ればどこかで見たことある気もしなくもないような。気のせいか?
「どうもスーパーリーゼントを演じさせていただいてます。来年で五十の
ええーっと驚嘆の声が上がる。今回ばかりは俺の口からも発していた。
来年で五十ってことは今で四十九。俺の母より一歳上、にはなかなか見えないぞ。
こんな若々しい人は初めてみた。しかもヒーロー役となると激しいアクションもやるはず。
「すげぇな。かっけぇ……川見は知ってたの?」
「まあ……一応ね」
あの元気は一体どこへやら。さっきから大人しい川見。あれー決して面白くなさそうにしてるわけには見えないけどなー。どうしてだろうか。
「折角なんで、あの技。見せてもらっても良いですか?」
司会者がそう尋ねると、リーゼントさんは「仕方ないな~」そう若干照れながらボソッと言うと。
「じゃあ行きますよー。スーパーリーゼントアタアアアアアック」
静まる会場にその言葉が響き渡ると、恒例の観客の声援がどっと押し寄せていく。生で見れるのは凄いことなのだろう、なんだか嬉しい。ところで何だろう、どっかでやはり聞いたことのある台詞でもあるんだけどな。
その後、司会者・スーパーリーゼントさんの二人トークが終わり本編が始まる。れっきとしたヒーローショーだった。悪役が登場しヒロインが捕まって、そして助けにヒーローが来る。ありがちなストーリー構成ではあるけれど、激しいアクションや花火などの仕掛け等、ステージ前面を使った大迫力のショーでなかなか見応えがあった。さっきまで大人しかった川見も、楽しそうに見ていた。
「以上にて、全プログラムの終了です。お帰りの際は――」
アナウンスがなり、ぞろぞろと解散するお客さんたち。
「いやーなかなか迫力のあるショーだったな」
「すごい凄かった」
「すごい凄かった? それはどういう――」
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