第2話 不登校
「以上をもちまして、終業式を終わります。一同、礼!」
やっと終わった。校長先生からやら進路指導からやら、長くてつまんない終業式がやっと。「怪我がないよう、入学式のときに皆さんの元気な顔が見れますように」とか言ってたけど、学校がある時点で元気じゃありません。
教室へ戻ると内海から成績表が配られ、悲観と絶望の叫び声が教室を飛び交う。俺はちょっと数学と体育の成績が落ちてたくらい。
「おい大野! これやばくね!」
佐々木が見せびらかすように、ばっと成績を突きつけてきた。
「どれ、どれがやばいの?」
「見たら分かるだろ! 体育だっつーの、一つ上がってるっしょ」
「おお、ほんとだ。相変わらず体育だけすげぇ。さすが運動バカ」
体育八、他三という何とも極端なやろうだ。ただ自分の得意分野がはっきりしてるってのは正直羨ましい。
「はい、席に着けー」
内海が声を張り上げ、クラスメイトはガラガラッと音を立てながら椅子を引き座る。袖をたくし上げながら「よしっ」と一言発すると。
「重要なことは昨日言ってるから分かるな? 俺から言えることは怪我はしないよう、これだけ。はい! 解散!」
ささっと内海が簡略な挨拶を終えると、俺たちは立ち上がり帰宅した。かったけど予定通り俺だけ残された。
「悪いな大野」
「まー家もそんな遠くないですし、プリント持っていくだけでいいんですよね」
「ああ、そうだ。一言何か言ってやってくれ」
「はい、分かりました」
数枚プリントが入った透明ファイルを貰い、リュックに詰め込み俺は学校を後にした。
自転車を軽く漕ぎながら坂道を下る。風に揺られてなびく髪の毛を時折抑えながら、俺はある女の子の家へと向かっていた。
その子の名前は
彼女とは同じ小学校で、中学では離れたが高校でまた一緒になった。ただ一緒ってだけで深い関わりはない。小学校の低学年のときにたまに遊んだりした程度。高学年からは全くつるんでない。決して仲が悪いわけではないが、微妙な関係ではある。
終業式前日の放課後。俺は内海にプリントを届けてほしいと頼まれた。川見は三週間ほど学校に来ていない。初めの一週間は胃腸炎にでもなったのかなとか思ってたけど、二週間目からもしかしたら不登校になったんじゃないかと、そう思い始めた。内海の話を聞くかぎり、どうやら当たってたらしい。ここ三週間、親ともまともな会話もせず、日中はずっと部屋に閉じ籠もってるそうだ。内海も家に訪ねてみるも、部屋から出てくれることはなかった。
原因が分からないため、親も心配しているそう。だから同級生なら喋りやすいんじゃないか、そんな考えで俺に会いに行ってほしいらしい。
同級生代表に選出されたわけだが、俺が行って解決させれる自信なんてない。どうしたら良いかが分からない。それでも、何より先生の指示だから行くしかない。それに何だかどこか自分に似ているような気がして……。そんな行きたいような行きたくないような、複雑な心境のまま俺は自転車を漕いで、何とか川見の家の前に到着した。
住宅街に溶け込む、白くて明るい洋風モダンの家。玄関横には黄色と橙色の、まるで花火のように丸くて美しいマリーゴールドの花が植えられている。
俺は緊張を落ち着かせるため大きく深呼吸し、インターホンを鳴らした。
――ピンポーン。
俺はじーっと応答があるまで待つ。
しかし、二十秒程経っても反応はない。試しにもう一度押してみる。空にはカラスの鳴き声が響いている。うっすらと聞こえてくる公園で遊ぶ子どもの声、道路を走る車の音。様々な音が遠くから耳に届く。それでも、この目の前のインターホンから、声が聞こえることは無かった。
留守なんだろうか、俺はプリントをポストに入れ、この場を後にした。
――その日の夜。
プルルル、プルルルと、家の固定電話が鳴った。番号は学校からだ、俺は咄嗟に受話器を手に取る。
「はい」
『もしもし。お忙しいところすみません、丸花高校の内海と申します。大地くんに用があり、お電話させていただきました』
かかってきたのは担任の内海。
何となくかけてきた理由は分かる。
「あ、先生こんばんは。大野大地です」
『おおー大野か。元気か?』
「はい」
『宿題は進めてるのか?』
「いやまだです。明日からやります」
『今日からやれ』
そんな軽い雑談をしつつ、内海は一呼吸するようにして、本題へと入った。
『それで、川見には届けてくれたか?』
「それが……インターホン鳴らしても出なかったんで、プリントはポストに入れておきましたけど」
『そうか……』
内海は少し残念そうに小さくそう言う。
『ありがとう、わざわざ行ってくれて』
「いえいえ、家もそんな離れてないんで大丈夫です」
『それなら良かった。じゃあ怪我ないように、夏休み楽しんで――』
「あの、先生!」
終わらせようとしていた内海の話を食い気味に止める。
『おう? どうした』
「俺、もう一回川見の家に行ってみます」
そう告げると、内海は動揺したように静かになった。
「ちょっと心配なんで。一応、小学校から知ってますし」
『いやいや、いいぞ。大野はこれからは自分のやりたいことをしてくれ』
「はい! 自分のやりたいことがそれです」
はっきりそう伝える。
『……分かった。大野が言うなら、でも無理はするなよ』
「はい、失礼します」
俺はそっと受話器を置いた。
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