第8話 朧月夜と祖母の話
零、現在(いま)
仲良し兄弟追いかけっこ
ぐるぐる廻って時を刻む
薄ぐらい部屋の中、頭から爪先まで黒ずくめの彼は、ぼんやりと時計を見ていた。二本の針はそれぞれの速さで進んでいる。
身体から力を抜くように息を長く吐くと
「……そろそろか」
呟いて立ち上がる。目には嬉しさと寂しさが入り交じっていた。
(迎えの時間だ)
部屋を出た彼は、しっかりとした羽ばたきで彼女の元へ向かった。
* * *
祖母が死んだ。
享年九十二歳。老衰だった。
小さい頃から祖母の話を聞かされて育った私は、何度も何度も頭の中で物語を繰り返した。
私達の町がまだ山に囲まれていた頃。
昔は子供を中心に、町人の大半が風や木と話せたらしいけど、それでもお母さん達みたいに働き盛りで忙しい人や、緑の少ない街に住んでいる人、自然の声を信じていない人には声が聞こえにくくなるんだって。
私はまだ子供だけど、祖母の言った「風の声」は聞こえない。
祖母が死んだのは春。
私が不思議な光景を見たのも同じ春。
だから祖母から聞いた話の内、今回は春の話をしようと思う。
八十年前――
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