第38話

 全てのゾンビアークデーモンをなんとか討伐し終わり、道化を見据えると──


 道化は先程までの馬鹿っぽい雰囲気から打って変わり、空中に浮かびながら真剣な声色で我に話しかけてきた。


「──しっかし、弱くなったね? とは大違いだね?」


「──我はまだ子供だが? 昔はもっと弱かったが?」


 こやつは何を言っておるのだ?


「君のの頃よりって事」


「──?!」


「アーク君──いや、君?」


「……お主は何者だ?」


 シリウスとは我の前世の名前だ。今世では一度もその名前は名乗った覚えは無い。


 この道化は我の事を知る転生者の可能性が高い。


「んん? 内緒♪ 別におかしくないでしょ? 君が転生してるんだ。君を知ってる者が転生しててもさ♪」


 神の手先か?

 それなら──


「目的は──我だな?」


「正解♪」


 言動から我の事を知っている転生者なのはわかる。

 しかし、誰かはわからぬ。


 我は元の世界では魔術を極めし王という意味で魔王と呼ばれておったが、もう一つ意味がある。


 悪逆の限りを尽くした魔王と名乗る者達を滅ぼして統一した事も理由だ。


 魔術を極めた我が魔王を滅ぼし、世界の王になった後──


 いつしか魔王と呼ばれるようになった──



 この道化は元魔王の転生体の可能性もあるが、その割に弱い。それか我のように弱体化しているのか?


 そもそも、我は前世では有名過ぎたから特定できぬ。


 ただ、我が目的で、このダンジョンのボスが本来──


 ドッペルゲンガーであるのなら、こやつは神々の刺客なのはほぼ間違いないであろう。


 まさか本当に我を殺しに来ているとはな……。


 やはり、本来の物語のルートと完全に変わっておるな。



「さて、そんな悠長に考えてていいのかな? を殺す為に色々と僕頑張ったんだよぉ?」


「君達というのは──父上、ミラ、ノーラか?」


「他にいるんだけど、まぁ大まかそんなとこね♪ 当然ながら継承もさせないよん♪」


 継承は元から受けるつもりがないが──他にも殺す者達がいるのか?


 しかし、屋敷の者達も、ダンジョンに入っている者達も早く対処せねば──


 こやつに殺されてしまうな。



 父上をチラッと見るがまだ起きる気配は無い。



 出来れば、こやつを捕縛して色々と聞きたいが、転移されるのが厄介である。


 やはり、禁術を使うしかないな。



「アーク様ッ!」


 この声はノーラ!? 後ろに先程のゾンビアークデーモン?!


「──ノーラ?! それに、他の者も?! 何でここにおるのだ!?」

「4階層は既にゾンビになったアークデーモンで埋め尽くされて撤退しようにも出口を封鎖されてしまいました……それとやけに強いのが一体いて……」


 先手を打たれたが──


 これは我には好都合である。



「おやおや〜アーク君、ピンチなんじゃないかぁい?」


 いちいち逆撫でしてくるのが鬱陶しい──


「いや、お主はチェックメイトだ。とりあえずこれでも喰らえ」


 我は手持ちのアーク棒を全てピエロに向かって投げ捨て、大爆発を起こし──


 先程の強化されたゾンビアークデーモンを一刀両断にする。こやつさえいなければ厄介なのは道化のみ。


 我は皆に振り向く。


「「「アーク様ッ! ご指示をッ!」」」


 こやつらが来てくれて助かったかもしれぬな。


 時間稼ぎをこやつらに任せれば間違いなく



 パチンッと道化が指を鳴らすと4階層からゾンビデーモンとゾンビアークデーモンがぞろぞろと降りてきた──


 であろうな。


「危ない危ない♪ さぁて♪ 面白くなってきたぁ〜。さぁて、生き残れるかな? 宴の時間だよん♪ ──『眷属強化』──ありゃ、数が多すぎてあんまり強化されないなぁ〜まぁ、いいや! やっちゃえ〜♪」


 幸いなのは『眷属強化』の恩恵を一番受けているが、先程の倒した奴より弱い事ぐらいか。



「これから道化を倒す為に準備する。お主らは少し時間稼ぎをせよッ! ノーラは父上を連れてここで待機ッ!」

「「「はッ!」」」


 ノーラは父上を我の側に連れ、他の者は時間稼ぎをする為にデーモン共に向かっていく──


 あの道化やこやつらには少し荷が重いが、今の所動く気配はない。


 時間稼ぎなら十分出来るはず。


 それにこんな所で我の部下──いや、を死なせはさせぬ。


「──『自在結界盾シールドフリーリー』──『闇弾ダークバレット』──」


 結界を盾状にし、皆の死角からの攻撃を防ぐ為に結界魔術を使用し、闇魔術で闇弾ダークバレットに身体弱体化を付与して当てる。



 皆の者が我が『闇魔法』を使った事に驚いておるが、後で魔道具の効果と言えば問題なかろう。

 スキルの魔法では決まった魔法しか基本的に使えぬが、魔術で似せる事ぐらいは我には容易い。



 さて、これならデーモン共の力は通常時より少し強いぐらいであろう。


 邪魔者が入らぬように我を中心に半円状結界を張る。


 道化が攻撃時にやる部分転移も我には通用せぬ。あれは転移の入口と出口に魔力の高まりを感じるから直ぐにわかる。


 我は『闇闘衣』を解く。


 自身の魔力は残り少ないが、詠唱を行い、貯蓄した魔石で魔力と足りる。



 禁術を使う為に目を瞑り集中すると──



「ッ?! ──ガハッ……な、にが……」



 背中から胸にかけて激痛が走る。


 目を開けて確認すると──


 我の胸に剣が突き刺さっているのに気付く。



 敵は近寄っておらぬはず……道化の部分転移もされておらぬ。


 この我が攻撃されるまで気付かぬなど信じられん──


 そう思いながら、後ろを振り向き──剣を握っている者を視認すると──



 刺したのはだった。

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