第39話

「…うぅ……油断した……アークは──?!」


 目を覚ました俺は状況確認をする為に周りを見渡すとアークに背中から剣が突き刺されていた。


 刺したのはノーラだ。


 アークとノーラの関係は良好だった……いや、今回のダンジョン攻略を通して、より仲良くなったはず。


 だからこそ、俺はあまりの出来事に信じられなかった。


 その光景に呆然としてしまう。



「ゴホッ……ノーラ……な…ぜ?」

「…………」


 アークは剣を胸から引き抜かれて喀血する。


 そして、ふらつきながら問いかけるがノーラの目は虚で答える気配はない。


 それどころか、ノーラは再度剣を振り上げて斬りかかろうとした。


 俺はハッとなり、急いでアークとノーラの間に入って剣を防ぎ、吹き飛ばす。


 アークを見ると既に血を流し過ぎてふらついている。


 俺は直ぐに回復ポーションを振りかけるが──



 何故、傷口が塞がらない?!


 傷も致命傷だ……このまま血が流れると──


 アークが死ぬ。



 その場で倒れ込みかけたアークを抱き抱える。


「……ち…ち……う…え……」

「アークッ! しっかりしろッ! 死ぬなッ!」


 そこにいつも強気で何事にも動じないアークの姿は無い。



 どうすれば良い?! どうすればアークは助かる!?


 そして、頭の中で一つの解決策を見つける──



 をすればまだ助かる。


 この力ならば血が止められるが──


 継承中は無防備になる。


 しかも、継承後のアークはまではしばらく動けなくなる。今ならアークの張った結界が機能しているし、皆が時間稼ぎをしてくれている。


 これなら邪魔が入らないし、問題はない。



 邪魔になるとしたら──



 今も立ち上がり、剣をこちらに構えるノーラだ。




 俺はまたも攻撃してくるノーラの首を跳ね飛ばすように剣を振るう──





 ◆




 即死しなかったのが救いか──


 我の意識が朦朧としている中、父上は我を地面に置くとノーラの首目掛けて血で出来た剣を振るう──


 拙い、このままではノーラが死ぬ。止めねばッ!


「──父上ッ! ダメですッ!」


 なんとか声を出して、間一髪で父上を止める事に成功する。


「何故だ!? こいつはお前を殺そうとしたんだぞッ!?」


 父上の言葉に怒気が混じっている事からかなり怒っている事が伺える……しかし、ここは我も引けぬッ!


 怪しいのは手に持っておる剣だ。


 我は剣を解析する──


 ……なるほど……催眠効果と回復阻害効果のある魔剣か……通りで回復魔術が効果を発揮せんわけだ……我としたことが……一杯食わされたな……。



「大成功♪ あ〜楽しいッ♪ 念の為に準備してて良かった良かった♪ 見事にアーク君致命傷♪ その剣は僕の特注なんだよ? だって、本来の流れ通りだと君は死なないでしょ? もちろん継承もさせないよん?」


 やはり、全てはこやつの掌の上か……我の考えが甘かった。


 正規のルートに道化が手を加えたか……おそらく、正規のルートではノーラがこれで裏切り、父上に殺された可能性が高い。


 ノーラを殺すのが王太子の目的──


 そして、我を殺すのが道化の目的であろう。



 まずはノーラと戦闘を続けている父上を止めねば──


「──父上ッ! ノーラを殺してはなりませんッ! こやつは必要な人材ッ! その剣を破壊して下さいッ! ゴホッ…ゴホッ……」


 ここでノラを死なせてはならぬ。絶対にだッ!


 おそらく──ここで勇者候補を殺す意味があるはず。


 物語のバッドエンドの分岐点はおそらく、ここだと我の勘が告げておる。


 物語の最後は王太子と共に国が滅びる。


 おそらくだが──その時に本来、救える力を持つ者達が王太子の策略に殺されて2しかいないからだ。


 その2人の内、1人は剣聖候補である妹ミラ、もう1人はまだ出会っていない聖女候補のフローネ。



 このままでは結末が物語通りになる。



 ここでノーラの死亡フラグは必ず折らねばならぬッ!



「ダメだッ!」


「父上ッ! ノーラは…操られている……だけです……ごほッ……殺してはダメ…ですッ!」


 ……血が止まらぬな……意識がもっていかれそうだ。


「──何か理由があるんだな?」


 我は頷いて返すと父上はしぶしぶ了承してくれる。


 そして、ガギンと剣が折れると共にノーラは顔色が顔面蒼白になっていく。


「……ぼ、僕は……な…んて……事を……」


 ノーラは正気に戻ったようで、その場にペタンと座り込む。


 ここで──ノーラが殺されなければ問題ない。


 後は──死なせぬように我が立ち回らなければ──



 我は立ち上がるが──


「ガハッ……」

「アークッ! 死ぬなッ! しっかりしろッ!」


 ──血を吐き出すと同時に膝を着くと父上が駆け寄り、我を抱き込みながら必死に声をかける。


 我は回復阻害の呪いを解呪魔術で解呪しようとするが効果が無い……血が止まらぬな……。


 神の呪いならわかる──だが、解呪出来ない以上、これは普通の呪いではないのか?


「アーク君♪ 無駄無駄、これは魔法と魔術を組み合わせた呪詛だよん? 普通の解呪魔術じゃ〜解けないよん♪」


 なるほどな……まんまと罠にはまってしもうたな……今の我では頭も回らぬ……時間さえあれば出来るやもしれぬが、今の状態では解呪は無理か……。


 このまま死ぬのか?


 いや、死んではならぬ。


 ここで死ねば全てが無に返る。


 このままでは屋敷いる者も、目の前で戦ってくれている者達も死んでしまう。



 動け──


 動くのだ──


 我はまだ動けるはずだ。


 こんな所で皆を犬死になどさせぬッ!



 やむを得ないが──ここは一旦退するしかない。



 我は立ち上がる──


「「「アーク様ッ!」」」

「アーク?! 動くなッ!」

「──父上、まだ戦闘中です……皆を死なせてはなりません──我が命ずる──力の根源たる魔素マナよ……ゴホッ……──皆の力を底上げせよ──」


 全員が生き残れる可能性を上げる為に身体強化魔術を使う──


「アーク?! もう動くなッ!」

「父上……撤退です……一人も死なせてはなりません」


 我自身の魔力はこれで使い切った……これが今できる精一杯である。


 道化よ、この借りは必ず返すぞ。


 全員が底上げした状態であれば逃げる事ぐらいは出来るはずだ。



 意識が遠のく中──


「大人しくしていろ。治療する。お前ら時間稼ぎをしろッ!」

「必ずや我々が命を懸けてお守りします」

「任せた──ノーラよ。これからアークに。その後、俺が活路を開く──少しでも役に立ちたいならアークを連れて逃げろッ! わかったな?!」

「……はい。必ず──」


 父上は撤退しないという選択をする──





 ◆




「継承なんてさせるかッ! ──ちッ、厄介な結界を張りよってぇぇぇッ!」


 道化は先程までの余裕は無く、全ての魔物と合わせて波状攻撃を仕掛けて来るが──


 俺の選んだ精鋭達は優秀な者ばかりだ。

 アークのお陰で自動で動く結界もある。俺が駆け付けるまで粘ってくれるはずだ。




 俺はアークに視線を戻す。



 我が子、アークよ……お前は必ず死なせはしない──


 異能──『血脈相承けつみゃくそうしょう』は己の血を半分以上与える事で継承が完了する。


 アークは既にいつ死んでもおかしくないぐらいの血を流している。今すぐになんとかする必要がある。


 継承を行えば本来ならば余計な分の血は噴き出すが、今回ならば俺の血が補充の役割を果たすはずだ。



 俺は自分の腕を斬り、アークの胸の傷に当て──


 血を入れていく──



 アークの顔にそっと手を当てる。


 少しずつ顔色が良くなって来ているな……これなら大丈夫だろう。


 そういえば、アークの寝顔を見るのは赤子の時以来か……気が付けば大人顔負けの事を言い出してたなぁ……。


「全く……いつの間にか大きくなりやがって……」



 思えば──


 俺はお前に何もしてやれなかった……いつも頼ってしまう不甲斐無い父親だったな。



 死ぬ事は怖くはない。いずれこうなると思っていた。


 むしろ──


 こうやって父としてお前の命を救える事が俺は何より嬉しい。


 お前は「撤退しろ」と言っていたが、俺はお前を失いたくない。


 それに最後ぐらいは父親らしい事をさせてくれ。




 血の大半を失い、眩暈がする中──ふと俺が継承された時を思い出す。


『今度はお前の番だ。後は任せたぞ?』


 ──そう、最後に父は言ってくれた。



 どんな気持ちで継承をしたんだろうか?


 今までの俺と同じく、運命だと思って継承したのだろうか?


 俺は最愛の息子を救うという意味があるだけ救いなのかもしれない。


 お前にはこんな呪われた血の宿命を背負ってほしくはないな。



 さて、本来であれば──


 継承後、命が尽きるまでの間に技を教えなければならない。


 しかし、そんな事をしている時間は無い。


 今はとりあえず──生きてほしい。


 そして、いつか仇を打ってくれ──



「さらばだ──愛しい息子アークよ。ミラとミリアは頼んだぞ? お前なら──必ず最強になれると信じている。お前にこうやって何かを残せた事を誇りに思う──お前は何も縛られずに自由に生きてくれ。継承も俺の代で終わりで良い。こんな呪われた血の宿命は背負う必要はない。ソアラちゃんの側にずっといてやれ……」

「…………」


 アークからの返事は無いが、おそらく聞こえているだろう。というか聞こえておいてほしいな。


 最悪、アークならば貴族でなくてもなんとでもなるだろう。



 最後に頭を撫でる──



「ノーラッ! お前はこのままアークを連れて必ず脱出しろッ! そして直ぐに領土まで戻れッ!」

「……はい……」



 さぁ──やるかッ!


 ミリア──生きて帰れず、ここで散る俺を許せッ!


 ミラ──幸せになってくれッ!


 そして、アーク──


 ──2人を頼んだッ!


 それと、ソアラちゃんを幸せにしろよッ!




 俺は再度血を纏い、戦線復帰する──


「皆、よくやった──後はこいつらの死骸で花道を作るぞッ!」

「「「お任せ下さいッ!」」」

「クレイ様、ご慈悲をありがとうございますッ! このジョイが最後までお供させて頂きますッ!」


 全員が俺に笑顔を向け、を見詰める。


 俺の意図はわかってくれているのだろう。



「お前ら──最高だぜッ! 仇は必ずアークが取ってくれるッ! さぁ──お前らが目指すはあそこだッ! 頼んだッ! 俺はあいつをるッ!」


 これはアークには伝えていなかったが──


 せっかくお前らとアークが仲良くなれたのに──遠回しに死ねと命令した事はすまない。


 俺が一緒に死んでやるから、あの世で酒でも飲もうぜッ!



「そこの道化──俺の本気を見せてやるよッ! ──『心血流々』──そして、スキル『限界突破』──更に──レイモンド家秘伝奥義『魔闘気』──」


「ったく──お前らのせいで計画が無茶苦茶じゃないか〜目覚める前に殺させてもらう──」


「──させるかッ! お前は俺が道連れにしてやるよッ! レイモンド家を──舐めるなッ!!!!」



 俺と道化は最後の戦闘を開始する──

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