第40話

 我は体の振動で気が付く──


「うぅ……ノーラ?」


 何故かわからぬが、我はノーラによっておんぶをされている所だった。


 我は確か──ノーラに刺され、血を失って気絶する時に撤退するように伝えたはずだが、目の前では父上達が戦っている事から今から逃げるのかもしれぬ。


 しかし、今なら我もまだ戦える。


 我も戦う為にノーラから降りようと体に力を入れようとするが脱力して動かない。何故だ?


 待てよ……血が止まっている? 貧血の症状も無い?




 ──?! まさか、継承されてしまったのか!? 


『解析眼』を使うと異能の欄に血脈相性けつみゃくそうしょうと記載があった。


 血が馴染むまで体は動かせないだと?!




 ノーラは我をおぶると、そのままに向かって走り出す──

 

「──ノーラ、どこへ行く!?」


「──我々は脱出します」


「ならんッ! 戻れッ! 我はまだ戦える──────!?」


 どう考えても全滅する未来しか見えぬッ! 見殺しにして脱出など出来るかッ!




 ゾンビデーモン共が我らの行く手を阻むように近寄るが、鎖によって絡め取られていく──


「──アーク様ッ! 絶対逃げ切って下さいねッ! 仲良くなれて良かったですッ! 私の名前はリーリアです! 忘れないで下さいね?」


 リーリアは鎖を複数操りながらゾンビデーモンを絡め取り、出口まで道を作る──


「ノーラッ! 早く行けッ! アーク様──ご武運をッ! そういえば自己紹介してませんでしたね! 私の名前は──フェネッカです! 短い間でしたが楽しかったですッ!」


 フェネッカは鎖に絡まったゾンビデーモンを双剣で斬り刻んでいく──


「──『流星弓』──ここは……任せて。私はリーゼロッテ……」

「──『精霊召喚』──皆──大切な人を守って。私はルカです」


 リーゼロッテは大量の矢を放ち、ルカは精霊を使役しながら、ゾンビアークデーモンを近寄らせない──


「死ぬんじゃねぇぜッ! 私は──ティナ! アーク様に近寄る奴らは皆殺しだッ!!!」

「早く脱出して下さいッ! 私はメアです。」


 ティナは大斧を使い、メアは大槌を振り回して足止めされたゾンビアークデーモンを吹き飛ばす──



 ノーラはそのまま出口まで走ると──


 出口にはゾンビアークデーモンが仁王立ちしていた。


「そこどけやッ! おらぁぁぁッ!!! アーク様ッ! 私はロッカだッ! 仇はちゃっと取ってくれよなッ! ちッ──クレアッ!」

「──わかってるわよッ! せぃッ! しぶといわねッ! 私はクレアです。皆には勇敢に戦ったと言って下さいまし! ──きゃ」


 ロッカは手甲をはめた拳で殴り、そのままクレアが槍で串刺しにするが──


 ゾンビアークデーモンはまだ死んではおらず、そのまま2人を吹き飛ばす──


 雄叫びと共にノーラと我に襲いかかろうとした時──


 ゾンビアークデーモンは真っ二つになる。


 それを行ったのはジョイだ。


「──アーク様、必ずや生き延びて下さい。ノーラよ。幸せにな……」


 ノーラは目に涙を浮かべて頷き、出口まで走り抜く──



「「「さぁ──行けッ!」」」


 そう皆が言った後、で我らを送り出す──


 全員がここで死ぬ気だ。




 その光景に我は唖然となる。


「な…ぜ……」


 …………なんという事だ……せっかく仲良くなれたというのに……。


 このままでは──


 皆をしまう。



 体さえ動けば──





 そのまま4階層に到着するが、デーモンはおらず、ノーラはそのまま3階層まで駆け抜けていく──


「ノーラ──戻れッ!」

「嫌ですッ! レイモンド家当主であるクレイ様の命令通り、必ずアーク様を逃がしますッ!」

「ならぬッ! 我はまだ戦えるッ! 降ろせッ!」


 どこで間違えた!? どこで選択肢を間違えたのだッ!?


 我が躊躇わずに初めから禁術を使っておれば──


「嫌ですッ!」

「このままではあやつらは無駄死になるッ!」

「無駄死になんかじゃないですッ! 皆──アーク様を信じて死ぬんですッ!」

「馬鹿者がッ!」




 3階層に辿り着くとウェルとセレナ、残りの兵士達が到着していた。


「「アーク様?!」」


 ウェルとセレナは我が動けない状態を見て驚いている所にノーラが話し出す──


「ウェル、セレナ──アーク様をお願いします。クレイ様の命令で──撤退するようにと伝言を頼まれています」

「はぁ?! 撤退なのはわかったが──お前はどこに行くつもりだ?」


 ノーラは皆に背を向け4階層への入り口を見ている。


「僕は──皆、必ずアーク様を逃がして下さい。アーク様ならきっと次は攻略してくれます──」


 ノーラはそう言うと、下層へ走り去って行く──



 いかんッ!


 ノーラも死ぬつもりか──



 我も戻らねば──


 体さえ動けば──



 いや、動けぬならッ!


「ここにいるレイモンド家の派閥の者達よ──当主代理として命令する。これより行う事は他言無用である──」


 我は声を低くし、威圧するように告げる──


『畏怖』は意図的に威圧する事により、強める事が出来る。


 ただならぬ雰囲気に全員が怯え、頷く。



 我は最後の貯蓄魔石をなんとか取り出す──


 そして、切り札を使う為に集中する──


 今動けずとも、これを使えば間違いなく動ける。



 魔法陣を展開し──詠唱を開始する──



「我は全てを超える力を欲する──


 万物の根源たる魔素マナよ我に応えよ──


 全てを統べる我が命じる──


 一時的に我の時間を進めよ──


 時間よ進めアドゥバンスタイム──」



 禁忌魔術を発動すると、我の体はしていく──


 ことわりから外れた力──


 時間を操る力だ。

 我自身だけなら副作用はあるが操れる。


 今の我は全盛期になる20歳頃まで成長しておるはず。


 今回使用した魔力量では大した時間は戻れぬ。


 そして、副作用は7歳分の歳を取る代わりに、効果が切れると、しばらくの間は7歳分若返る。


 通常であれば6歳になるが──


 効果時間を伸ばす為に残り5歳分を副作用の対価にする。

 そうすれば道化を殺した後に屋敷にも間に合うはずだ。



 今の我は『畏怖』の補正を受けて間違いなく、強くなっているはず──


 道化如き、瞬殺してくれる──



「ジュダ様……」


 ふと、そんな声が聞こえてきた。


 おそらく、我の成長後の姿は亡き祖父と似ておるのだろう。


「さて、これは禁忌の魔道具だ。この事は箝口令を敷く──話せば──わかっておるな?」


 全員が震えながら首を縦に振る。




 5階層に再び向かおうとした、その時──


 ぞろぞろとゾンビデーモンが現れる。



 道化は我を逃す気はないのであろう。


 元より逃げる気はないがな。



「敵襲ッ! 全員構えろッ!」


 父上が選んだ指揮官であろう者が命令をするが──


「お主らは黙って見ておれ」


 我が遮る。


 今なら体は動く。

血脈相性けつみゃくそうしょう』の効果を確かめるにもちょうど良い。


 それにこやつらを逃す為にも殲滅しておかねばならぬ。ゾンビデーモンはアーク棒であっても簡単には殺せぬからな。


 体感的に今の力量は前世の時と比べて半分以下か……副作用後はトレーニングを倍以上にせねばならぬな。



 我は自身の腕を斬る──


 そして、血を空中に浮遊させる。



 この異能を『解析眼』で調べた限りでは──


 継承する場合は継承をする意思と己の半分の血を分け与える事で1のみ可能。それ以外の者は死ぬ。


 全身に血を巡らせて身体強化したり、血を武器や防具に変える他に、殺した相手の血と共に魔力もする事が出来る。


 更にその時に事も可能か。


 ──簡単に言えば──スキルの吸収は出来ぬが、スキルのコツや扱い方がわかり、容易にスキルが習得出来るという事であろう。


 日本で言うチート能力ではあるが、我は呪いのせいでスキルは扱えぬのであまり意味は無いが……。


 まぁ、好き好んで魔物や他人の血を自分に入れたくは無いであろうな。


 大量には自分の血に変換は出来ぬようだが、我としては貧血にならぬ手段があるのは嬉しい限りだ。


 血の変換は誰にも知られていない可能性が高い。知られておれば歴代当主は継承後も生きておるはずだからな。




 さて、倒すか──


「──『血の弾丸ブラッドショット』──さぁ、死ねッ」


 血で出来た弾丸は高速でゾンビデーモンを貫通して蜂の巣にする──


 意図的に血を吸収するように念じておけば大丈夫のようだな。


 これなら魔力も血も尽きぬ。


 余った血は出したまま使えば良かろう。



 我は目の前に現れてくるゾンビデーモンを蜂の巣にして全て倒して行く──



 敵を殲滅した後は──


 拳を血で纏い、硬質化し、魔力を込めて殴りつける──


 すると、けたたましい音と共に、どでかい穴が出来上がる。


 これなら間に合うであろう。



 驚く皆に我は告げる──


「──全員撤退である。後はアーク棒で足止めしながらダンジョンの外へ向かえ。我はこれよりボスの討伐を行い、皆を救助する」

「「アーク様?!」」

「これは命令である。拒否権は無い──いいな? 表で待っておれ──」


 全員が3階層の出口へ向かうまで見送った我は、下の階層へ飛び込む──



 さぁ、死亡フラグを折りに行くか──


 道化よ──


 待っておれ。


 我を舐めた事を後悔させてくれる──

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