第41話

 僕はアーク様を置いて、お父さん達がいる5階層まで戻る為に駆け抜けて行く──


 途中にゾンビデーモンが襲ってきたけどアーク棒を使って無理矢理進んだ。


 そして、5階層に到着すると──


 クレイ様を筆頭に皆が道化と激しい戦いを繰り広げていた。


 ゾンビ共は既に討伐が完了しているけど、皆は既に深い傷を負い、地面に倒れている。なんとか生きている状態だ。


 お父さんも片腕を無くしながらも、クレイ様と一緒に戦っている。


 既に皆は満身創痍。いつ死んでもおかしく無い。


 でも──


「ジョイッ! これぐらいでへばるなよッ!」

「ははッ──任せて下さいッ! このジョイ──必ずや役に立ちますぞッ!」


 お父さんは何故か嬉しそうだった。何故?


 死ぬのが怖くないの?


「──背中は任せたからなッ! 子供達の未来の為にも──こいつは必ず、殺すぞッ!」

「えぇッ! アーク様に顔向けが出来ませんからねッ! 娘にご慈悲を与えて下さったクレイ様には感謝しかありませんッ!」


 ──その時、お父さんは僕の尻拭いの為に命を張っているとなんとなく気付いた。



「あー鬱陶しいッ! そういうの嫌いなんだよねッ! さっさと──死ねッ!」


「ぐぅッ──」

「ジョイッ!」


 道化は大鎌でお父さんの足を切断する──


「お父さんッ!」

「……ノー…ラ? 何故…ここに? 逃げなさい……」


 お父さんに駆け寄ると僕を見て驚き、逃げるように言う。


 でも、僕は逃げる気は無い。


 僕はアーク様に顔向け出来ない事をした。


 僕があんな事をしなければ、きっと戦況はもっと違う結果だったはず。


 剣をアーク様に突き刺した時、意識はあった……感触も未だに残っている。


 殿下から、あの剣は事が出来ると聞いていた。


 そして、少しでも力になりたいと思って使った……でも結果はアーク様を殺す為の魔道具だった……。


 こんな事をした僕自身が許せない──


 例え、操られていたとしても……僕が皆を死地に追いやってしまった事実は変わらない。


 だから──


 僕自身で尻拭いをするッ!


 体のあちこちにを巻き付ける──




 クレイ様を見ると戦闘を継続している。僕だって少しぐらいは役に立つ。


「お父さん──今までありがとうね? 大好き──」

「待ちな──」


 引き止めるお父さんから離れる──



 とてもじゃないけど、僕如きでは戦闘に介入するのは無理だ。


 道化はアーク様に執着している。


 だけど、追いかける為に得意の転移は使わない。


 ──いや、使えないのかもしれない。使えるならとっくに離脱していてもおかしくない。


 つまり、短距離転移しか出来ない──


 なら僕の出来る事はある──


 僕は5階層のに立つ──




 クレイ様は攻撃を受けても止まらない。


 刺し違える覚悟で防御せずに攻撃の手を緩める事はない。


 血飛沫を刃に変え、自在に操りながら攻撃している──


 これが──【鮮血】──



「この死に損ないがッ! さっさと死ねッ!」

「あぁ──お前を道連れにしてから死んでやるよッ! これだけ連続で攻撃したら転移は出来ねぇだろ?」

「ふん、よく考えたら──お前は放っておいても死ぬじゃん? わざわざ、戦わなくてもいいし──僕は君の息子を殺しに行くよん♪」

「──させるかッ!」


 道化はクレイ様を無視して出口に向かおうとするが──


 僕はアーク棒を投げて足止めする。


「クレイ様ッ!」

「ノーラッ!? 何故ここにいる!? アークは?!」

「既に他の者と合流し、預けましたッ! 僕も戦いますッ!」

「──そうか。なら何も言うまい……死ぬ覚悟はあるんだろうな?」

「えぇ、罪滅ぼしぐらいさせて下さい」

「ならば、もう何も言うまい」


 微かにクレイ様は僕に笑ってくれた気がした。


 僕が隙さえ作ればクレイ様が後はなんとかしてくれるはず。



 ここに来た瞬間に道連れしてやるッ!



「──雑魚が増えた所で意味ないし? って事で死んでね?」


 クレイ様を振り切り──


 道化は僕の目の前で大鎌を構えて振り下ろそうとする──



 僕は瞬時に全てのアーク棒に魔力を込める──


 後はクレイ様、よろしくお願いします──


 お父さん──先に待ってるよ。


 そして、アーク様……ごめんなさい。


 結局、直接謝れなかったなぁ……。


 想いは届くって言うし、届いてくれる事を祈ろう。



「──お前は僕が足止めしてやるッ────」


 笑みを浮かべて目を瞑る──





 でも──



 ──しばらくしても爆発は起きなかった。


 それに攻撃も来ない?


 何故?


 そう思って目を開くと────


 アーク様の面影を残した大人の人が、血を操りながら大鎌を止めて──


「この阿呆あほうが──先に死ぬのは許さぬぞ?」


 僕に話しかけてきた。



 ◆



 やれやれ、間一髪間に合ったか。


「アーク様?」


 ポカンと口を開けたノーラは我にそう聞いてきた。


 まぁ、姿が多少変わってわからぬかもしれぬな。


「父上!?」


 父上から父上と言われた件について。そんなに祖父と似ておるのか?


「アークですよ」

「はぁ!? 何でそんな大きくなってんだよ!」

「ちょっと頑張ったら急成長したようです」

「──ったく……その感じだとは使いこなしているようだな……俺はもう限界だ。後は任せていいか? 今のお前なら──勝てるな?」

「えぇ、余裕です。をノーラと一緒に見学しといて下さい。後始末ぐらいちゃんとしておきますよ」

「わかった──お前は生き残れよ────……」


 我は倒れる父上を抱き抱える。


 うむ、意識もまだあるし、死んではおらぬ。


 治療する前に──


 目の前の道化に邪魔されたくないのでとっと倒すか。


 道化を見据える──


「シリウス──その姿はまさか──「その名で呼ぶな」──なッ!? ぐふぇ──」


 我は道化の大鎌をそのままへし折り、顔面をぶん殴る──


 余計な事を話し出す前に、道化の動きを封じるか。


 空中で体勢を整える道化に血で作った杭を放ち、壁に磔にする。



 そして、全員に継続回復リジェネの回復魔術を使う──


 これで皆が直ぐに死ぬ事はないはず。




 さて──今ならば問題なく、こやつぐらいなら倒せるな。


 血流を巡らせるだけで、これだけの威力か……心臓のポンプ作用を増せば父上のような強化が出来るのかもしれぬな。



「舐めるなッ! ──「黙れッ」──げひゃッ────」


 短距離転移を行おうとした道化に追加の杭を放って、黙らせる。

 既に顔以外は穴だらけになっている。


 まぁ、道化が自由になったところで今の我なら余裕で対処可能だが、ちょこまかされると鬱陶しい。



 さっさと始末するか──


「何をするつもりかなぁ?」

「当然殺すが? お前は我の怒りを十分に買っておるからな──楽に死ねると思うなよ?」


 魔力を体外に放出させて最大の威圧を放つ──


「ヒィィィィッ──」


 我は『血脈相承けつみゃくそうしょう』で物語のアークが使っていた血の大鎌を作る──



 さて、どれぐらいの斬れ味か試させてもらおうか──


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いやめてやめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇぇッ!!!!」


 四肢から徐々に削るように切断していくと、道化が絶叫する。


 ふむ、中々良い斬れ味であるな。


 なにより己の血は魔力が通りやすいな。普通の剣より数段斬れる。


 さて、煩いので殺すか──


 血の大鎌を首に当てる──


「お主は本体ではないのであろう? 向こうにおる本体に伝えておけ、『直ぐに向かう』とな」


 今ならば『解析眼』は問題なく使えておる。


 こやつは──ノーライフキングで死霊使い。


 コアを破壊せねば死体は永遠に動き続ける。故に殺す事は出来ぬ。


『千里眼』で屋敷の様子を見るに──この道化の本体とクロ丸がフィーリアを上手く使って戦って持ち堪えておる。急がねばならぬな。


 こやつは殺す事は出来ぬが──


 させれば本体もおらぬし、復活はしないであろう。


 磔になっている道化の首を落とす為に大鎌を手前に引く──


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇッ────」


 首を斬り落とすと仮面がコロコロと音を立てて転がっていく──


 そして、復活しないように肉体を『業火』で焼き尽くす──


「痛くもない癖に煩い奴だ──さて、屋敷に向かう前に──」


 直ぐに父上の元へ戻る。



 まずは一番瀕死である父上のフラグを折るか──

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