第37話
道化の仮面がニヤついてるので見てるだけでイラッとするのであるな。
対面した感じ──我が本気を出せば問題ない。
だが、相変わらず『鑑定眼』や『解析眼』はレジストされておる。
この手合いは奥の手で何をされるかわからぬから慎重にいった方がよかろう。
我は警戒度を一段階上げる。
「ふざけた容姿の割に──相当強いな……アーク……いけるか?」
「父上、怖気付いたのですか?」
凄まじい威圧で冷や汗を流す父上に我は挑発するように返す。
「馬鹿言え、お前を心配してんだよ!」
「お気遣いなく──あの程度、2人なら問題ありませんよ」
「背中は任せたぞ」
「こちらこそ」
さて、親子共闘バトルであるな。
道化は水晶を取り出して何やら話し出す。
「さぁて♪ これでまたまた召喚♪ あちゃ〜さすがにもう使えないか。まぁ、でもいないよりマシだよね♪」
持っている水晶が光ると同時に割れ、
なるほど、このダンジョンに悪魔系がほとんどだったのはこやつが召喚していたからか。
幸いあれはもう使えないようだし、ここで一気に叩く。
さて、本気を出すか──
クロ丸がいなくてもパワードスーツのような強化は可能である。ただ、魔力の消費が激しいぐらいだ。
「さて、久しぶりに使うか──『闇闘衣』──」
我は魔力を物質化した鎧を纏った後、『闇魔術』を付与する。
これは術者を底上げし、敵が我に触れると
見た目は正直、黒騎士である。
「アーク、その姿は?」
「持ち主の力を底上げする魔道具ですよ」
「ったく──何でもありだな……──しかし、負けてられんな。俺も似たような事が出来る。グッ──」
父上は自分の体を傷付けて血を流すと──そのまま血が2本の剣と鎧に変わる──
こちらは紅騎士と言ったところである。
技名はなさそうなので我が名付けよう。『血闘衣』でよかろう。
これは身体能力は先程と変わらぬが、血を硬くする事で防御面を比較的上げる技のようであるな。
これなら父上は簡単には死なぬだろう。
さっさと倒して屋敷に帰らねばならぬ──
我は一瞬で道化との間合いを詰めて首を斬り落とす──
そのまま、
「え? もう終わったのか? これだけ意気込んだのに?」
父上は唖然としておるが──
「父上、まだです」
そう、まだ終わっておらぬ。
道化の体は倒れずにいる。それどころか、動いておる。
「────あ〜怖い怖い♪ いきなり首はないんじゃない?」
道化は首を拾い上げると、元の場所に戻して話し出す。
「おい、今──首を落としたはずだよな?」
「えぇ、一筋縄ではいかないみたいですね。行きますよッ!」
これは、手こずりそうだ──
◇◇◇
「「さっさとくたばれッ!!!」」
「それぐらいじゃ無理かなぁ? 早くしないと色々と手遅れになっちゃうよん♪」
戦闘を開始した我らではあるが、相手も弱くないせいで手間取っておる。
というか、この道化が短距離転移を繰り返して回避するから我の攻撃が中々当たらぬ。
まぁ、我は『予知眼』で見えておるから──向こうは傷だらけで、こちらは全て防いでおるので無傷だがな。
消えてばっかだから
そんな事より──
「早く討伐してみなよん♪」
「はよう死ねッ!」
「わぁ〜凄い凄い♪ さすがアーク君♪ でも擦り傷だね?」
この挑発が腹立つッ!
首を落としても死なぬ事から、アンデットの可能性が高いな。
しかし、強化状態で魔眼まで使用して捉えきれぬとは厄介極まりない。
今の我らでは決め手に欠ける。
パイルバンカーであれば確実に仕留められそうではあるのだが、いかんせん溜めがある分、短距離転移をされてしまうと当てるのが難しい。
道化はおそらく我だけを警戒しておる。我の攻撃時だけ短距離転移を行う。父上は警戒しておらぬ。
父上に足止めしてもらってトドメは我が行うか──
「父上ッ! 動きを止めて下さいッ!」
我はパイルバンカーを取り出し、魔力を充電する──
「──わかったッ!」
父上も我が魔力を溜めているのに気付き、何をしようとしているのかわかったのだろう。
父上はそのまま戦闘を継続する──
我は魔力を込め続ける──
壊れても構わぬ。こやつを一撃で倒すッ!
予想通り、父上には短距離転移を使わず戦っておる。
父上は壁際まで誘導させると、道化に向かって自分に纏っていた血を一気に液状化させて放出し、絡みつかせる。
「おやおや〜、目潰しかな? これぐらいじゃ──これは?!」
「動けねぇだろ? 俺の血は特別なんだよッ! アークッ! 行けッ!!!」
道化に絡みついた血は凝固し、動きが止まる。
「ちょ、ちょっとタイムッ!」
近付く我に道化が何かほざいておるが、止まるつもりは毛頭無いッ!
「──死ねッ!」
我はアンデットに核がある心臓部分にパイルバンカーを当て──
発射させると、けたたましい音と共に壁に縫い付いた状態で道化の胸を貫通する事に成功する。
これなら核は確実に破壊出来ておるはずだ。パイルバンカーも粉々であるが、また作れば良かろう。
「…………」
沈黙した道化の仮面は落ちて素顔が晒される──
歳は我と同い年ぐらいか?
アンデットという事は何かが原因で魔物と成り果てたのか?
何故、こんな事をしたのかはわからぬが……。
父上が近付くと驚いた顔をしていた。
「──この方は……」
「父上、お知り合いですか?」
「あぁ……行方不明だった、隣国の王太子だ……」
「……今見つかりましたね……」
まさしく現在、死体で見つかったのである……自国領土なので隠滅は簡単であろう。
「……そうだな……見なかった事にするか……」
「……ここには幸い私達だけですしね。それにどう考えても、こやつは既に人ではありませんでしたから」
「確かにな。俺達が本気を出さないと倒せないとか悪い冗談だな……」
視線を隣国の王太子に移す──
──?!
「父上ッ! まだ終わってませんッ!」
「なんだと!?」
もぞもぞと動き出す死体──
そして、口が開く──
「この子はとっくに死んでるからね〜♪ 僕ちゃんが殺したよん♪ 可愛い顔してるでしょ? 僕のお気に入りなんだ♪ ちなみに本体は向こうだよん♪」
胸を杭で貫通されたまま隣国の王太子が話しかけてきた。
本体か……おそらく屋敷の方かもしれぬな。
これで、こやつが今回の件に関与しているのは確定であるな。
そして、おそらくこやつは死霊使いであろう。
それでも通常は核を破壊すれば終わるのだがな……何か他にも仕掛けでもあるのか?
「さぁて♪ 時間稼ぎは十分──ぼちぼち、ちょっと本気を出すよん? ──『屍創造《クリエイトアンデット》』からの──『眷属強化』──さぁ、踊ってね♪」
こやつ──魔術陣を使いおっただと!?
『屍創造《クリエイトアンデット》』は死体を自身の配下にする死霊魔術のはず。
この世界で魔術を使える者は初めてだ。
気が付けば──目の前には先程、倒した
『眷属強化』と言っていた事から──さっきより強い上にゾンビのせいで殺すのに時間がかかる。
ゾンビアークデーモンは父上目掛けて一斉に襲いかかる。
拙い──今の父上は血を纏っておらぬ!
「──?! グッ──」
「──父上ッ!?」
父上は強くなったゾンビアークデーモン複数体からの攻撃を避けられずに受け、そのまま壁に吹き飛ばされると気を失う。
「よぅし♪ 作戦通りにいっちゃって〜♪」
道化の命令で1体が4階層へ向かって行き、残り4体は我の前に立ち塞がる。
今追いかけると父上が殺されてしまうな。
父上を守りながら倒すッ!
これしかあるまいッ!
見た感じ──通常の
ただ、これ以上『死霊魔術』を使われると厄介だ。
状況を打破するには──
やはり切り札を使って、一気に殲滅するしかあるまい……魔力は残り全ての貯蓄魔石で足りるであろう。
しかし時間がかかる……どうしたものか……。
今は父上が起きて戦線復帰してもらうまで粘って、その後に禁術を使う──
4階層にいる者達も心配ではあるが、あやつらなら一体ぐらいなら持ち堪えてくれるだろう。
我は『闇闘衣』を発動した状態で父上を守りながらゾンビアークデーモンを相手取る──
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