第42話
「父上──まだ生きてますよね?」
「──今の所はな? あんだけ……苦労したのにあっさり倒しやがって……」
「言ったでしょう? 歴代最強の力を見せるって。まぁ、それだけ元気があれば大丈夫ですよ。治療します──」
苦笑いを浮かべる父上に笑いながら我の血を戻していく──
前世では人族の血液量は30%失えば命の危機になると聞く。
継承では半分の血液を我に与えているが補充すれば問題ない。
血縁であれば拒否反応も無いし──
今は我の周りには血が大量にあるからな。問題ない。
血を分け与え終わる頃には父上の顔色は戻っていた。
これでなんとかなるであろう。
さて、他の者の治療だが──
ノーラはジョイの近くにいるか。
あやつらもなんとかせねばな。
「ノーラよ、父上を頼む。我は皆の治療をする」
「……はい……アーク様……刺してごめんなさい」
「辛気臭い顔をするなッ! 我は別に怒ってはおらぬ。あの剣は──王太子が渡したのであろう?」
「はい……状況を覆す一撃になる魔道具だと渡されました……」
確かに状況がひっくり返る一撃ではあったな……。
やはり、あの道化と王太子は仲間で間違いないな。
「王太子は我を相当殺したかったのだろうな」
「……帰ったら──直談判してきます」
「……まぁ、もみ消されて終わりであろうな。証拠も無い。そのうち我がぶん殴ってやる。ノーラは何もするな」
ノーラも命を狙われておる可能性が高いからな。
物語でアークと敵対していたジョイは、もしかしたら──
ここから生き延びた後、娘であるノーラの敵討ちをする為に我と敵対したのかもしれぬな。
今となっては、それらが書いていたという近況は消されて確かめようがないが……。
しかし、父上とノーラの死亡フラグは折ったが──
皆に回復魔術の効果が出ていない。正確には傷が塞がっておらぬ。
『解析眼』で見た限り、このままでは全員助けられぬ……全員が父上と変わらぬぐらい血を流し過ぎておる……何故だ?
──ちッ、予想外だな……血が流れ過ぎている原因がわかった。
道化め──やってくれたな……。
道化の大鎌も解析すると──我が受けた回復阻害の呪詛と同じ効果があった。
回復魔術を解除したら全員の血が止まらぬ事から道化と一戦交えて攻撃を受けたのだろう。
だが、可能性が低くても出来る事はする──
まずは部位欠損と傷の治療だ──
『解析眼』を使いながら呪詛の解析をし、解呪を行った後は傷を治す──
そして、再度『解析眼』で全員を見るが──やはり残り時間は少ない……約30分以内には全員が死ぬ。
一応、継承された際に輸血が行えない場合を考えて、副案で用意していた臓器を活性化させて増血作用のある魔術を使ったが──
効果は
有り余っている我の血で輸血したい所ではあるが──拒否反応で死ぬ可能性が高い。
──残された手段は一つか……。
だが、これは──こやつらの人生を狂わせてしまう。
それに強制は出来ぬし、成功するかどうかもわからぬ……。
「ノーラ、ジョイと……最後の別れを済ませておけ……」
「……は…い……」
我から助からないと遠回しに聞いたノーラは涙を流す。
これから行う事は賭け過ぎて、試したとしてもどうなるかわからぬ……。
別れは済ませておいた方が良い。
ノーラはジョイと抱き合いながら涙を流して話し出す──
我は父上に近寄り話しかける──
「父上、この後──私1人で皆と最後の別れをしたいのですが、先に戻ってもらっても構いませんか?」
「あぁ、構わない……皆お前の為に頑張ったからな……」
「ありがとうございます。それと──私が上に戻り次第、直ぐに屋敷に戻ります。父上も皆に別れをお願いします」
「──わかった」
転移はおそらく使えないだろう……ほとんどの魔力をここで使う予定だ。
高速で移動しながら血と魔力を回収するしかないな。
2人が別れの挨拶をしている間に我は頭の中で魔法陣を新しく構築していく──
◆
アーク様が傷を治してくれたが──私はもう助からないだろう……血を流し過ぎれば傷が治っても死ぬ。
幸いなのは──
「お父さん……」
「ノーラ……」
目の前で涙を流し続ける、娘の命がある事だけだ。
道化との戦闘時に戻ってきた時は肝が冷えたが、こうやって生き残る事が出来たのはアーク様のお陰だ。
それに本来ならば、殺されてもおかしくない事をしでかした娘だがクレイ様とアーク様の温情で殺されずに済んだ。
感謝しかない。
アーク様ならば安心してノーラを任せられる。
そんな事を考えていると──
「お父さん、アーク様が最後の別れをしてこいって言ってたけど──傷治ったから大丈夫なんでしょ? 帰ったら僕が…ご飯作ってあげるからさ……だから……死なない…でよ……」
ノーラが嗚咽を堪えながら話しかけてきてくれる。
「いや──直に死ぬ。最後にこうやって話す事が出来るのはアーク様のお陰だ……お前の手料理を食べれないのは心残りだな……」
アーク様は本当に不思議なお方だ。スキルが無いから、いつも魔道具を使っていると聞いているが──
この傷を治した時に魔道具を使った素振りは無かった。
何をしたかはわからないが、部位欠損を治す事が出来たのは初代聖女様のみ。
そんな偉業をされたのに『別れの挨拶』をするようにと言った以上、アーク様でも我々を生かす事は出来ないのだろう。
「嫌…だよ……訓練も嫌がらないから……一緒にもっといてよ……」
「すまない……お前が幸せになる事を祈っている……最後に──目一杯抱きしめてくれないか?」
「……う…ん……お父さん──」
「なんだい?」
「大好き──」
ノーラ……大きくなったな……。
お前の成長を見届けてやれなくてすまない──
◆
アークのお陰で俺は死ぬ運命──いや呪われた血の呪縛から解放された。
まさか血を戻されるとは思いもしなかった……力も失っていない。
我が息子ながらこんな事を思い付くとは……しかも、苦戦した道化もあっさり倒してしまっていた。
だが──代償は大きい……。
俺とミリアが育てた、子供達は助からない……。
アークがそう言う以上は助けられないのだろう。
実の子供のように育ててきた者達だ。任務とは言え辛い……。
俺は皆に声をかける──
「……すまない。一緒に死んでやれなくて……」
本来ならば俺も一緒に死のうと思っていたのに生き残ってしまった……。
「クレイ様……私達は役に立てましたか?」
皆のリーダー格であるフェネッカが代表して俺に聞いてくる。
「当然だ……お前達の活躍が無ければ──全滅していたかもしれない。お前達は勇敢に…戦った……」
「そうですか……なら良かったです……」
「心残りはないか? 何かしてやれる事があれば善処する──義理の父として叶えてやる」
こんな事しか言えない自分に心底腹が立つ。
「なら──お義父さんって呼んで良いですか? それとハグして下さい。ノーラちゃん達がやってみるみたいに──ギュッ、と。ちゃんと皆とですよ? 皆──クレイ様の事を父親だと思ってますから……」
「──!? 当然だッ!」
俺は一人一人に宝物を扱うように丁寧に抱きしめていく──
全員が涙を流しながらも『お義父さん』と呼んでくれる。
俺も次第に涙が溢れ出てくる──
すまない……俺だけが生き残ってしまって──本当にすまない……。
俺は最後に嗚咽を堪えながら──
「──今までの任務ご苦労だった、勇敢な英雄達よ。俺はお前らの事は一生忘れない。そして、一緒に死ねなくて済まない。……俺の子供達よ……不甲斐無い父親ですまなかった……。そして──ジョイ、大義であった……」
「「「お義母さんにも大好きって言って下さいね」」」
「娘をよろしくお願いします」
「──任せておけッ! アーク、上で待っている」
「直ぐに向かいます」
そう言い残し、ノーラと共に5階層を後にする──
◆
父上達の気配がなくなったな。
さぁ、準備は整った──
もう一度、禁忌に触れるが一度も二度も変わらぬ。
我は皆に話しかける──
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