第33話

 キリがない──


 全員善戦をしていますが、このままだといずれ全滅する。


 そんな事を思っていると空から、大鎌をたずさえて、仮面を被り、道化の姿をした者が現れます。


「ありゃ? まだ終わってないの? しぶといね〜」


 道化のような姿のそいつはふらふらと浮かびながら、挑発するように声をかけてきます。


「死ね」

 私は問答無用で攻撃しますが──


 その者は攻撃されると同時にその場から


 私は『空間魔法』スキル持ちだと瞬時に理解します。


 気配は──


 後ろッ!


 バッと振り向いて剣を構えます。


「あ〜怖い怖い♪ でもそれぐらいじゃ当たらないんだなぁ〜♪」

「鬱陶しいッ!」


 再度広範囲に連接剣を鞭のように使って攻撃しますが、気が付けば違う場所に出現し、その度にまた消える──その繰り返し。


 おそらく、私以外に対処出来ない──


「私がこいつの相手をします──他の者はデーモンを殲滅しなさいッ!」

「「「はッ!」」」


 私の言葉通りに皆はデーモンを殲滅する為に動きます──


 大量のデーモンに更なる強敵……かなり拙いですね……。


 クレイかアークがいてくれればなんとかなったかもしれないのに……。


 私は息つく間もなく攻撃を続けますが、神出鬼没な道化に致命傷を与える事は出来ません。


「え〜、おばさんが相手なのぉ? 出来れば向こうにいる子がいいなぁ〜」


 道化が指差す方向にはミラがいました。


 やはり、デーモンの動きと道化の発言から──今回の襲撃はミラが目的なのでしょう。


 私はと言われた事とミラを狙っているという事実に殺気立ちます。


 ミラが狙われる理由はわかりません。ですが、ここでミラを守りきれなければアークに顔向けが出来ません──


 必ず──ここで殺すッ!



「ほらほらぁ〜その程度じゃ、やられないよん♪ そんなんじゃ──ミラちゃん死んじゃうよ? ほら♪」


 その時──ミラの背後から刃が迫ります。


 ちッ、油断した。まさかを転移させるとは──


『空間魔法』でこんな事を出来るとは聞いた事がない──これは空間魔法じゃないのか?


 それより今はミラをなんとかしないと──


 連接剣を伸ばしますが、間に合わない──


「ミラ様ッ!」


 ミラの近くにいるマリアがその事にいち早く気付き、向かい──


 間一髪の所でマリアが瞬時にミラと刃の間に入り、刃を弾きます。


 それを見て私は胸を撫で下ろします。



 しかし、部分転移が出来るなんて話は今まで聞いた事がありません。


 かなり厄介──


「ありゃま、失敗か〜。中々やるじゃん♪ でも──君がいなくなったら早く終わりそうだね? んじゃ死んで下さい♪」


 道化はマリアの背後に現れ──先程より数段速く、背中に向けて刃を胸に突き刺します。


「──ゴボッ……」


 そして、マリアは喀血しながら地に伏せ、道化はまた空中に転移します。


「「マリアッ!?」」

「マリア様ッ!」


 私とミラ、フィーリアはマリアに駆け寄ります。


「1人死亡♪ 次は誰にしようかな〜「もっきゅ!」──また物騒な攻撃をしてくるな〜」


 アークの残した毛玉が道化に向けて光線を放ち続けます。



 今のうちにマリアの手当てをしなければ──


「……ミリア…様……申し訳ありません……」


 直ぐ様、回復ポーションを使いますが──傷口は血は流れ続け、血溜まりが出来ていきます。


 この出血ではもう──助からない。


 どうする事も出来ない私は歯噛みします。


「マリア死んだらダメなのです……」


 ミラもわかっているのか、大粒の涙を流します。


「ミラ様──泣いてはいけません。まだ戦闘中です。あの道化は貴女が目的ですが、殺す気はありません。そうでなければ私が攻撃を弾くなんて事は出来なかったはずです……貴女が捕まればこの戦闘は負けになります……絶対に捕まってはいけませんよ……」


 マリアはミラとアークの乳母──思い入れは強いはず……。


 をこんな所で散らせたくない。


「それと──フィーリア……私は貴女娘だと思っています。必ず──強くなってアーク様を守って下さいね? その日が来るまで……ずっと一緒にいて下さい……それと──これは貴女に託します。アーク様から授かった魔道具ですが、貴女が持つのに相応しいでしょう……頼みましたよ……」

「……マリア様……」


 フィーリアには親がいません、マリアを母のように慕っていました。そして、マリアも自分の子供のように接していました。


 その為か、フィーリアは溢れる涙を止める事が出来ずにいます。



「さぁ……3人とも──早く戦闘に戻って下さい……ミリア様は知っているでしょう? 私は病で長くは生きれなかったのです……それが早まっただけです……もう私は十分に生きました。クレイ様とアーク様の戻ってくる居場所を守って下さい……」


 確かにマリアから病の事は聞いています……ですが、それならせめて天寿を全うしてほしかった……。


 私はマリアと視線を交わし──覚悟します。


 最後の願い──


 確かに受け取りました。


「さぁ──ミラ、フィーリア……行きますよ。私達がいなければ戦線は崩壊します。マリアの願いの為に──」

「「は…い……」」


 私達がマリアに背を向けると──鳴き声が聞こえてきました。


「もきゅ〜きゅっきゅきゅ〜もっきゅッ!」


 振り向くとシロちゃんと呼ばれていた毛玉が何やら鳴いていました。


 その瞬間、マリアを暖かい光が包みます。


 マリアを見ると──


 傷口は治ってはいませんが、血は止まっています。


 これなら早く戦闘を終わらせば間に合うかもしれない──


 その時──


 ドーンッ、とアーク棒が爆発する音が聞こえてきます。


「ミリア様ッ! 遅れましたッ! 大半は屋敷の外のデーモンを相手しております。我らは只今より、こちらで応戦致しますッ!」


 兵士が到着し、次々とアーク棒を使ってデーモンを倒していきます──



「もきゅ──」

「え?! クロちゃん?! これは──」


 クロちゃんと呼ばれていた毛玉も鳴き始めると、今度はフィーリアにいきます。


 しばらくすると、フィーリアは黒い鎧をまとい、黒い騎士のような格好になります。


「……凄い……力が溢れてくる……これなら──」


 フィーリアは空を飛び、マリアから受け取った魔道具でナイフを数百本出し、デーモン目掛けて放つと、先程とは違ってデーモンに風穴を空けていました。


 この毛玉達はいったい──


 そんな事を思いますが、今はそれどころではありません。


 私は空中に浮かぶ道化を見据えます──


「さぁて、お別れは済んだかい♪」


「お別れは必要ないわ──お前を殺せば問題ないッ!!! 『限界突破』──レイモンド家秘伝奥義『魔闘気』──」


 私も一気に片をつける為に、一時的に身体能力を2倍にするスキル『限界突破』とレイモンド家に伝わる魔力と生命力の両方を同時に使う技能を発動します。


 そして、連接剣を使いながら道化を斬り刻む為に攻撃を開始します──


 この勝負──


 負けられないッ!!!

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