第34話

 朝になり、父上が我の顔色見ながら心配そうに声をかけてくる。


「アーク……お前顔色悪いけどダンジョンいけるのか?」

「えぇ、なんとか……ちょっと大変な目に合いましたね」

「まぁ、無理そうなら明日にしてもいいぞ? 幸い、お前らの活躍のお陰でデーモンはあまり出てこないからな。ソアラちゃんに看病してもらえ」

「──いえ、レイモンド家の跡取りとして職務に全うします。これぐらいの体調不良なら問題ありません──いえ、攻略は昼からにしてもらっても構いませんか?」

「……わかった。お前がいないと厳しそうだからな。昼から攻略を開始するが、無理なら言えよ? 明日にするから」

「ありがとうございます。なんとかします……」


 父上の心遣いがありがたい……我、満身創痍ッ!


 まさか、ここまで支障を来たすとは……ソアラの手料理恐るべし……。


 ただ、昨日帰り際に嬉しい事もあった。


「ソアラよ、我は父上と明日の話し合いをせねばならぬ。もう行くのである。料理は生きて帰ったら、また頼むのである」


 そう言って急いでソアラ邸を後にしようとした時──


「わかりました。たくさん作って待っていますね! それと──ちゅ」


 なんとッ! 我の頬に接吻をしてくれたのだッ!


 人生で初めてなのであるッ!


 料理は遠慮願いたいが、これは凄く嬉しかったのであるッ!


 というわけで、実はやる気だけは満々だ。


 腹の具合と体調は最悪だがな。


 まぁ、ソアラの手料理を食うフラグは折れぬかったが、父上とソラの死亡フラグは折らねばな……。


 しかし、であるか……一度一緒に作って矯正しなければならぬな……。




 さて、今はそれは置いておいて、作戦会議である。あの後、方針がどうなったか聞いておかねばな。


「それより──父上、どのように攻略しますか?」

「我らレイモンド家の派閥のみが攻略に当たり、人海戦術の予定だ」


 それはもはや作戦ではないな……それだと無駄死にするではないか……。


「……わかりました。3階層まではデーモンだけなのでそれでいきましょう──」


 3階層までは罠があったが、それ以降はなかった。その事を伝え、攻略はアーク棒をメインに行い、4階層以降は魔物が桁違いに強いので精鋭のみで行く事を推奨する。


「──そうか、ならば4階層以降は精鋭のみで行く事にする」


 異存ないようで我の意見がそのまま通った。


 アーク棒があれば3階層までは問題ない。


 ノラは既に4階層で戦闘しているので連れて行く事にしている。それに我と一緒にいる方が何かあった時に対処がしやすいからな。



 後は乗り込むだけなので、父上は4階層以降に潜る精鋭を選びに行く。


 我も少し休憩しながら考える。



 問題は5階層であるな……ボスをどうするか──だ。


 本気の父上と2人がかりならなんとかなるか?


 いや、油断は出来ぬからな……せめてシロ丸とクロ丸がおれば楽に攻略出来たのだがな……。


 そういえば──シロ丸とクロ丸とは念話が出来たはず。向こうの様子を聞いてみるか。


 と言っても言葉ではやく思念が届くだけだが……。


 連絡してみるか……王太子をボコった報告が聞けると良いな。


 まずはシロ丸に連絡してみるか──


 ──繋がらんな。


 我と連絡している余裕が無い?


 ただ、嫌われて着信拒否みたいにされておったら嫌であるな……。


 クロ丸はどうだろうか──


『もっきゅッ! きゅきゅきゅー』


 こっちは繋がったか。


 ふむふむ、なるほど──


 ──デーモンの大量出現か……穏やかではないな……。


 しかも怪我人多数……ミラを庇ったマリアの治療でシロ丸が動けぬか──しかも戦闘は継続中──


 問題はマリアか……傷口が塞がらぬとは……呪いか?


 シロ丸であれば簡単な呪いであれば解除してくれるのだがな。


 このままマリアの治療はシロ丸に任せておれば死ぬ事はないであろう。


 デーモンの方もアーク棒でなんとかなる。一応、クロ丸にも指示出しておくか……。


『クロ丸はそのまま護衛に当たれ。もしもの時はフィーリアを使

『もきゅ!』


 クロ丸はパワードスーツのように、その身を鎧のように変え、戦闘力を底上げ出来る。強化したフィーリアならばデーモン如き問題なかろう。



 しかし、早々にダンジョンを殲滅して戻らねばならぬな……母上と戦闘しておるのはをつけた道化か……。


 確かここのボスも仮面をしておったな。関連しておる気がしてならぬ。


 急ぐ必要がある。



 我は父上を探し、精鋭の選定をしている途中に割り込む。



「父上、予定を

「はぁ? 何でだ?」

「屋敷が襲われたようです。早く戻りたいので作戦を早めたい」

「はぁ!? 何でそんな事わかるんだ!?」

「あの毛玉の使い魔からの連絡ですよ。作戦は──」


 使い魔の一言で父上は納得した後は作戦を告げる──


 まず、精鋭のみが先に乗り込み、魔物の殲滅をしながら進む。


 そして、その後に派閥の兵士達を投入し、残党狩りをさせながら4階層入り口付近に兵士達を待機させ、父上と我、力量次第で精鋭のみでボスの討伐──


 これしかあるまい。


「しかし、アークよ。フロアがかなり広いんだろう? 俺らはともかく罠もあるし、どちらにせよ進むのは時間がかかるぞ?」

「第一陣が突入する際は私が罠をなんとかするので大丈夫です。第二陣の兵士達の先頭にセレナとウェルを配置します。昨日見た感じではセレナは探知に優れているので大丈夫です。危険な時はウェルに守らせれば問題ありません。ノラは我らと共に来てサポートだ。お前ら出来るな?」

「「「お任せ下さい」」」


 ノラ、ウェル、セレナに異存はないようだ。


「そして、精鋭部隊の選定が終われば直ぐに突入します」

「わかった──」


 父上は再度精鋭の選定を行う──



 我は突入する為の準備を始める。


 アーク棒はまだまだあるから足りるはず。


 問題は我の腹の具合と魔力であるな……一応、今日の日の為に我の体には空気中の魔素を体内に還元出来るように魔法陣を刻んでおるのだが、けっこう体の負担が大きい……無尽蔵には魔術は使えぬ。


 腹の具合は我慢するしかあるまい……。


 魔力を節約して剣や魔道具に頼ったらなんとかなるか? 最悪はを使う事も視野に入れねばならぬな……。


 ノラと父上だけは死亡フラグがあるので我も気合いを入れねばな。



 父上は精鋭の選定が終わったようで、こちらへ向かってくる。


「アーク、こっちはメンバーが決まったぞ。こいつらなら安心して背中を任せられる」


 メンバーは我が領土の兵士で見た事がある者達とノラの父親のジョイ──9人か。まぁ少数精鋭なら妥当な人数であるな。


 ジョイはまだわかる……ベテランの上にスキル構成は我ら派閥の中では我と父上に次いで3番目に強いであろう……。


 ただ、他の選んだメンバーは女性ばかりではないか……父上は正気か?


 しかも──和気藹々わきあいあいでかなり親しい感じがする。


「父上……仲が良いのは良い事ですが──ハーレムでも作る気ですか? これは母上の報告案件ですよ」


 我の言葉に父上は顔面蒼白になる。きっと母上にボコられる想像でもしたのであろうな。


「ば、馬鹿言うなって! こいつらは身寄りがなくて俺が拾った子達だよ! しかもこいつらは兵士の中でもかなり優秀だ。将来、お前が継いだ後はこいつらにサポートを任せる為に俺が直々に育ててるんだよッ!」


 ふむ、優秀か──


 我は『鑑定眼』を使う──


 なるほど……選んだメンバーの全員がユニークスキル持ちか……かなりの逸材であるな。武器もバラバラで双剣、槍、大槌、弓、大斧、拳、杖か……ん? あれは鎖か?


 こやつらを鍛えれば領土の守りはかなり安泰であろうな……父上は我の事を考えてくれておるのか……。


 何より、我をそこまで怖がっておらぬ所が良い。我に恐れるレベルでは命を賭けた戦いでは役に立たないであろう。


 うむ、皆良い顔付きであるな。



「確かに優秀そうですね。同行を許可します。では先頭は私が行きます。父上達はアーク棒で出来るだけ撃ち漏らしを殲滅して下さい」

「わかったが──俺もお前と同じく先頭に立つ。当主が息子に任せるのは格好悪いだろ?」

「ふふっ、そうですね。では背中は預けますよ?」

「任せろッ!」


 レイモンド家の派閥の者達はダンジョン入り口に集まる──


「では──俺が選んだ奴らは第一陣で4階層まで殲滅しながら突っ走る。その後に遅れてウェルとセレナ率いる第二陣が準備出来次第突入し、狩り残したデーモンを殲滅しながら4階層入り口で待機ッ! 遅れるなよッ?!」


「「「応ッ!!!!!」」」


 父上の号令で全員が動き出す──



 母上達も心配である。


 さっさと終わらそう──

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