第32話

「フィーリア、生き残りなさい」

「はい、マリア様──」


 マリア様の言葉に私は頷きながら返事をします。


 私は『影魔法』をいつでも使えるように準備しました。


 そして、ミリア様が全員に向けて命令します。


「敵はッ! 被害が広がる前に迎撃しますッ! 対空手段のある者は空にいるデーモンを攻撃ッ! マリアは指揮を取りながら、地上に降りたデーモンを各個撃破よッ!」

「「「はッ!」」」


 ミリア様の声に私を含め、使用人全員が頷き武器を取り出します。


 私もアーク様より頂いた手元に戻るナイフを構えると──


 空から黒い波が押し寄せてくるのが見えました。


 ミリア様は敵はデーモンと言われましたが、デーモンは討伐ランクB相当のはず──


 それにどう考えても対処出来るような数ではありません。


 ナイフで対抗出来るんでしょうか……。


 しかも何故かデーモンはしてこちらへ向かって来ます。


 こんな事は通常ではあり得ません。本来であれば真っ先に街を襲うはずです。


 人為的なもの? そんな事が頭を過ります。



 それよりも、この数相手に勝てるかどうかはわかりません──


 ですが、皆の顔を見ると絶望感はなく、ミリア様の号令待ちで凛とした態度で待機しています。


 これがレイモンド家──私も見習わなければ。



 デーモンの姿が視認出来る距離まで迫ると、ミリア様が号令します。


「全員──迎撃開始ッ! レイモンド領で好き勝手にはさせませんッ──」


 デーモンが近寄るとミリア様は剣を振るう。


 すると剣の刃が分裂し伸びて行き──


 1匹のデーモンを絡めとります。


「やはり、中々良いですね。中距離攻撃も可能なのは楽ですね……確か──『連接剣』でしたか? アークは良い物をくれました。さて──散りなさい────」


 ミリア様が剣を下に振るとデーモンは声を上げる暇も無く細切れになって落ちて行きます。


 ただでさえ強いミリア様にアーク様はなんて物を……。


 私もミリア様に続いてナイフを投げて牽制します。


 手元に戻ってくるのがとても便利ですね……。


 ふと、地上を見ると──ミラ様やマリア様が地上に降りたデーモンを次々と斬り伏せています。


 何故か──


 デーモンはミラ様を狙っているかのように集中して攻撃を仕掛けているように見えます。


「ぼさっとしないッ! 対空手段が無い者はミラ様を中心にして迎撃しなさいッ! そのうち兵士達が来るはずですッ!」


「「「はいッ!」」」


 マリア様の鶴の一声で対空手段がない使用人達はミラ様を守るように迎撃を開始します。


 空のデーモンを仕留めるのは困難ですが、ミラ様周辺であれば降りて来ていますから。



「「もっきゅッ! も〜〜きゅッ!」」


 シロちゃん、クロちゃんは鳴くと同時に空に向けて白と黒色の光線でデーモンを撃ち落とします。


 凄い破壊力です……デーモンが消し炭になっていますね……。


 まぁ、アーク様の使い魔ですからね……。

 おそらく皆も同じ事を考えているでしょう。皆納得したような表情を浮かべています。


 私も負けていられません──


『影魔法』でデーモンの影に移動して首を斬り落とします。


 さすが、アーク様のナイフの斬れ味が凄いです……これなら──


 いけますッ!



 ────


 ────────


 ────────────



 小一時間程経過しましたが、デーモンの数は全く減りません。むしろ増えている気がします。


 それに比べてミリア様を除いた、こちら側は疲弊しています。兵士はまだ到着していません。


 ミリア様とミラ様、マリア様、クロちゃん、シロちゃんが奮闘してくれているからなんとか戦線を維持出来ているような感じです。


「アハハハハッ、さぁ──その汚い血飛沫を私に見せなさいッ! それそれそれそれそれ────足りないッ! まだまだ暴れ足りない──貴様らはレイモンド家を敵に回した事を後悔して──死ねッ!」


 ミリア様は空に向けて剣を鞭のように使いながら、血飛沫を上げながらどんどん殺していますが……。


 正直……凄く怖いです……疲れ知らずでしょうか?


 でも、その表情には悲しみも伺えます。何かを払拭するような──そんな感じです……。


 何故でしょうか?


 やはり、マリア様が話されていた『継承』が関係しているのかもしれません。


 聞く所によると、ミリア様とクレイ様は恋愛結婚みたいなものです。


 今回のダンジョン攻略で、もしクレイ様が『継承』を行う事態になれば──クレイ様は死ぬ。


 そうなればミリア様は悲しむでしょう……。


 私もアーク様が大好きです……いずれ同じ運命を辿ると思うと胸が締め付けられます。


 アーク様が死ぬ……そうならないでほしい……。


 ミリア様やマリア様の気持ちが今ならわかります……失いたくない──


 そんな事を思っていると声がかけられます。


「フィーリア、動きなさい。敵は待っていてはくれません。私はミラ様の護衛につくので、貴女は少しでも多く殲滅して来なさい。先程、兵士達は街を襲い始めたデーモンの対処をしていると報告がありました。短時間での援軍は期待できないでしょう」


「──!? わかりました!」


 マリア様の言葉で我に返った私は戦闘を継続しようとすると──



 その時、私達の目の前にの姿をした者が現れました──

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