第31話
我はダンジョンの4階層の魔物を殲滅してから戻った後、父上と合流すると苦笑いを浮かべながら声をかけてきた。
「アークよ、無事に帰ったか……遅かったから心配したぞ」
「すいません。しかし、ここの階層が5階層というのはわかりました。4階層までの魔物は殲滅してきましたが、明日にはまた魔物が復活しているでしょう。それにフロアがかなり広いので少し面倒臭い攻略になりそうですね。それと──」
さすがに独断で行動して申し訳ない気持ちがあるので謝罪をし、罠の有無などの情報を提供する。
「──はぁぁぁ!? 殲滅した上に──お前調べてきたのか!?」
「まぁ、私がいれば問題ありませんでしたね。探知系の魔道具でパパッと調べましたよ?」
一通り説明した後は驚愕する父上に我は普通に返す。
「……なるほど、お前どんだけ魔道具あるんだよ……しかし、お前達が殲滅したお陰で溢れる魔物も少なく済んだ。アーク棒さえあれば表は少ない人数でも問題ないはずだ。それに情報も助かる」
「それは
「そうだな。俺達は作戦会議をする。お前はソアラちゃんと一緒にいればいいぞ? 今日はゆっくり休め」
「わかりました──では、また明日に」
会話をした後はその場を後にする。
世間の我は無能扱いされておるから、面倒臭い時は魔道具の言葉で通るので便利である。
溢れる魔物が少なかったのはソアラがアホみたいに魔法ぶっ放したのと──他の者がアーク棒を投げまくった結果であるな。
うむ、中々楽しいデートであったな。
「さて、ソアラ──屋敷に戻るのである」
「はいッ! 今日はとても楽しかったですッ! またデートしたいですッ!」
「我も楽しかったのである。ただ、こういう無茶な討伐は我がおらぬ所ではやらぬようにな? 使用人を困らせてはいかんぞ?」
「はい!」
うむうむ、やはりソアラは良い子であるな!
「「ありがとうございます……アーク様ぁぁ……」」
双子メイドも感極まって泣いておるし、解決であろう。
「あれが通常デート……魔物を可哀想としか思えない光景しかなかったのですが……」
「アーク様、半端ねぇっす」
セレナとウェルよ、うるさいぞ!?
そもそもセレナも暴走しとっただろうに!?
「まぁまぁ、アーク様らしいですよ。僕は無慈悲な人かと思ってたけど、ちょっとズレてたり、皆をしっかり守ったり、普通な一面を見ると僕達と変わらないなって思いました……」
ソラ──いや、ノラとも以前より仲良くなれた気がした。
それに良い事を言ってくれるな。
このまま、こやつも生き残ってほしいものだ。
「さて、ではまた明日な。ソアラよ行くぞ」
我は別れの挨拶をしてソアラの屋敷へ向かう──
◇◇◇
我はソアラの屋敷に到着し、両親と軽く挨拶をした後はソアラが「アーク様の為に料理頑張って覚えたんです! 食べて下さりますか? お父様とお義母様も是非ッ!」と言われたので我は──
「楽しみであるッ!」
と、答えた。
その時──ソアラの父上は「すまん、仕事があってな……またの機会に頂くよ」と答え、妾であろう母上の方は「今日は体調が優れないので先に寝させてもらうわ。また作ってちょうだい」と顔を引き攣らせておった。
我はこの時に気付くべきであった──
「アーク様、たーんと召し上がれ♡」
「う、うむ……」
そして──現在、我はソアラの手料理を食べる為にテーブルに座っておるのだが……。
とりあえず目の前の料理? の異臭が凄いのである……それと見た目もダーク色である……。
我は思う──
これは食材への冒涜なのでは? と。
いや、決めつけるのはまだ早いのである。
これはソアラが愛情を込めて作ってくれた料理である。味はもしや美味いのかもしれぬ!
例え──愛情ではなく『愛憎』であってもこれは我の為に作ってくれたのは間違い無い。
いや、本当に浮気疑惑でお仕置きとかでなかろうな? そんな話は野暮だからしておらぬが……。
我はソアラを見る──
なんと期待に満ちた目であろうか……これは純粋な好意か?
双子メイドが我に近寄り、コップを置いて飲み物をついでくれる。その時に小声で我に話しかけてきた。
「「(アーク様、ファイトッ! 本当は街中のデート予定だったんですけど、ソアラ様が街中だとアーク様が楽しめないと魔物デートにしたんですよ!)」」
──その言葉にハッとなる。
そうか……ソアラは我の事を考えて魔物デートにしてくれたのか……街中だと領民が怯えてしまうからな……なんと、優しい子であろうか……涙が出そうであるな。
ヤンデレで呪われると思った我をぶん殴ってやりたいぞッ!
──しかし、それはそれ、これはこれである。
元魔王であっても手が料理に向かわぬ……だって……我──今では肉体が普通の人であるからな……死にたくないのである。
「……やっぱり……アーク様も食べて下さらないのですね……」
『うむ、これは無理であろう。料理はプロに任せるのが良いぞ!』──とは、悲しそうなソアラには口が裂けても言えぬ。
「ソアラよ、我は感動しておるのだ。愛するソアラから手料理を振る舞ってもらえるなど至福の極みであろう?」
「はいッ! ではアーンしますねッ! はい、お口を開けて下さいませ──アーンッ」
アーン、とは我の夢の一つだ。
素直に行動は嬉しい……嬉しいのだが……。
スプーンに救われた料理はゆっくりと我に迫ってくる──
ふと、前世の部下同士で恋の悩みで誰か言っておった事が脳裏を過ぎる。
『愛は全てを乗り越えられますッ!』──そう言っておった気がする。
つまり、愛さえあれば乗り越えられるという事である……愛は凄いと聞く。
うむ、我には状態異常耐性が付与された魔道具もある。
例え、毒であっても死にはせぬだろう。
行けッ! 我よ、行くのだッ!
「あ、あーん(ァァァァァァァァッ)」
…………何か我の声と同時に副音声がスプーンから聞こえて来たのだが?
いや、しかし既に口元まで料理が来ておる!
元魔王の底力を見せる時なのだッ!
パクッと口の中に入れる。
──むふぉおぉぅ……これは、これはヤバいのである……。
味が、まず──酷い。
完全に味覚を破壊しに来ておる……。
状態異常耐性の魔道具があっても味覚には作用しない──盲点であった。あっぱれだソアラよ!
口の中で踊るぐらい美味いと言った表現があったが──
これは実際に口の中で何かが踊っておる……。
噛めぬ……これは噛んだらヤバい。
飲め──飲むのだッ!
ゴックン──
「ソアラよ……涙が止まらぬわ……ただ、幸せ過ぎてこれ以上は食うのが勿体無い。持ち帰る事にする」
有無を言わせずにソアラの料理を収納する。
しかし……涙など、とうの昔に枯れたと思っておったが、また流せる日が来るとはな……今世では初めて流したのである……。
「──はいッ!」
うむ、妖精のような笑顔であるな。
二度と作らせぬように言わねば……。
「ソアラよ、料理を嗜むのは構わぬが──貴族たる者、下の者の仕事を奪ってはならぬぞ?」
「はいッ! アーク様以外には作らないようにしますッ!」
「へ?」
……もしや、これは……自滅したではないかァァァァッ!?
「「アーク様ぁぁぁ……ありがとうございます」」
双子メイドがまた感涙しておる……まぁ、屋敷で暴走せぬようになったなら良いか?
王太子め……わざとダンジョンに送り込んだのなら絶対ボコるのである。例え我がソアラに会うと決めたとしてもこの恨み忘れぬぞッ!
母上達が我の代わりにボコってくれておらんか期待するのである。
我はこの後、「明日の為に父上と話す事がある」と言って父上の元へ戻ったのだが──
「あれ? ソアラちゃんの所で泊まるじゃなかったのか?」
「いえ、やはり明日の作戦会議はしておかなければと戻ってきました──うぐッ」
「アークッ!? どうした?!」
──という一幕があり。
話し合う所か、謎の腹痛に襲われて即座に寝込んだのは言うまでもなかろう……。
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