第23話

 暇だ……それに──


 まだ半日しか経っておらぬが、馬車の乗り心地が最悪で尻が痛い。


 スカーレット領までどれぐらいで着くのだろうか……。


「父上、どれぐらいで着きますか?」

「んー、そうだな。あと、3日ぐらいじゃないかな?」


 けっこうかかるのだな……尻がもたぬ。


 王太子が来るまで残り5日か……。


 屋敷がちと心配ではあるが、使用人達には保管庫に我の従業員がたんまり作った試作品のスイーツとミラを頼むと書いた手紙を上に置いてきたし──


 母上にもを渡してミラと王太子を2人きりにさせぬように伝えてあるから大丈夫だと信じたい。


 それに母上は父上と違ってしっかりしておるからな……最悪戦闘になっても問題ないであろう。


 なんせ母上は屋敷で3番目に強いし……。


 父上は戦闘以外は頼りないからな……。


 ここは残った者達を信じるしかあるまい。


「はぁ……(我がボコりたかったである……)」

「何か言ったか? まぁ、のんびり旅を楽しめ。どうせダンジョンに入ったら攻略に時間がかかるしな」

「どれぐらいですか?」

「この間も言ったが──普通は半年から1年ぐらいかかるが、今回の戦力なら一月ぐらいでいけるんじゃないか?」


 マジであるか……かかり過ぎであろう……。

 事前にソアラに手紙でダンジョン攻略したら会おうと送ったが、一月後とか会うのが逆に怖い。


 先に少し会った方が良いな……。


 攻略中はミラがソアラの所に行くはずだから時間稼ぎを頼むか……。


「先にソアラと会います。そして、1週間でダンジョンは潰します。これは絶対です」

「まぁ、ソアラちゃんと会うのは構わんが……ダンジョンを1週間で潰すのはいくらなんでもそれは無理だろ……罠とかも大量にあるんだぞ? アークはダンジョン潜った事ないだろ……まぁ、死なないように慎重に行こう」


 確かにこの世界でダンジョンを潜った事は無いが、前世では数えきれんぐらい潜っておる。


 我が先陣を切って行くしかあるまい。


 とりあえず──


 魔力の貯蓄を少しでも増やすか……。



 ◇◇◇



「今日はここで野営する」

「「「はッ」」」


 日が暮れる前に村や街に到着するのは無理と判断した父上が、全員に野営する旨を告げる。


 すると皆は返事をして各々野営の準備に取り掛かっていく。


 我は1人少し離れた場所に移動して、硬くなった体をほぐしていく。


 本来であれば手伝う方がいいのであろうが、行けば作業も止まる上に迷惑がかかるからな。


「まさか、遅れの原因が我とはな……」


 実は馬車を引く馬が何度か暴走して逆方向に向かってしまい遅れておる。呪いは動物にも有効なのをすっかり忘れておった。


 さて、時間を潰す為に──


 パイルバンカーを模して作った魔道具の試し撃ちでもするか!


 これだけ離れれば気付かれぬし問題なかろう。


 我はアイテム袋の中から試作品のパイルバンカーを取り出す。


 これは腕に装着して使う武器で至近距離で杭を撃ち出す事が出来る。


 杭は連射出来ぬ上に、至近距離しか使い道が無いから実用性は皆無だがな……まぁ、浪漫は大事だ。


 一応、杭を撃ち出す部分に魔力を充電し、一気に発射するように作ったのだが、威力はどうなっておるのだろう?


 よし、やってみよう。


 魔力をパイルバンカーに込めていく──


「ふむ、これぐらいで十分であろう。試し撃ちは──あの木にするか。──よッ────」


 木にパイルバンカーを密着させ、発射させると同時に危険を感じた我は即座に結界を張る──


「──拙いッ! ────痛ッ!?」


 凄まじい爆発音が聞こえ、木は爆発させた余波で粉々になる。


 咄嗟に魔力で結界を張ったが、少し間に合わなかったのでダメージを受けて所々に傷が出来てしまった。


「……まさか、発射の衝撃波で木が粉々になるとはな……これは調整せねばならぬな……自爆技みたいになっておる……」


 回復魔術を使って治しながら1人、ごちる。


 そして視線を杭の発射された方向を見ると──


 杭は射線上の全てを貫通させながら進んだようで、目視出来る距離に杭はなかった。


 うむ、遠距離にも使えそうであるな……これは嬉しい誤算である。


 まさしく浪漫武器が使えた瞬間だ!


 さて、ビームサーベルも少し試すか。


 手に魔力をどんどん込めていく──


 これ以上は壊れそうだな、という所で魔力の供給を止める。


 形状が変われば便利なのだがな、と思った我は伸ばせるか試すとビーム部分が伸びていく。


「ふむ、けっこう維持が難しいな……しかし、これならある程度中距離も攻撃出来そうな気がする……試すか……」


 横薙ぎに振るうと射程内の木々は全てバッサリと切られ、木々の倒れる音が木霊した──



「さっきからなんだ!? 敵襲かッ!? 全員迎撃態勢を取れッ!」


 おっと、拙い。父上がさっきの爆発音と木々の倒れる音を魔物か何かと勘違いしておるな……。


 誤解を解くか……。



 ◇◇◇



「ふぅ、これぐらいで十分であろう……」


 深夜になり、我は周囲の魔物を根こそぎ狩りとった。


 騒がせたので見張り番の者達の負担を軽くして罪滅ぼしをしておる所である。


 我は索敵魔術を使って他に危険な魔物がいないかを確かめると──3人の気配があった。


 おそらく、一緒に来た者達であろう。


「──誰だ?」


「──!? ソラです」


「そこの2人は──確かにいた者達だな……」


 物陰から出てきた1人はソラ、そして王太子の誕生パーティで見た顔が2人いた。


「はッ! 俺はウェルと申します。あの時はありがとうございましたッ!」

「わ、わ、私は──セレナですッ! ありがとうごじゃいまたッ!」


 セレナと名乗った方は噛んだな……震えておるし、我が怖いのであろうな。


 しかし……ウェルとセレナか……。


 ここで『守護者候補』ウェルと『軍師候補』セレナが現れるとは……こやつらは物語で出てくる……。


 つまりダンジョンの生き残り組か?


 いや、生き残りではなく、若い者を中心に逃した可能性が高いか……。


 ウェルは漢気があって立派な守り手の男だった記憶がある。アークの為に最後は命を散らした者だ。


 セレナも最後の決戦時には大軍を率いて王太子の軍勢を抑えてくれていた。


 ありがたい事にこやつらは最後の最後までアークの味方で、2人共が我を守る為に死んだ者達だ。


 何故味方だったのだろうか?


「知ってるとは思うが、私はアークだ。ウェルとセレナか……あの時とは? 礼を言われる覚えはないが?」


「いえ、王太子殿下のパーティでアーク様に助けて

 頂けなければセレナはきっと酷い目に合わされていました。貴方は恩人ですッ! 自分は貴方様に忠誠を誓いますッ!」

「わ、わ、私も……」


 重いな……。


 ──だが、思い出したぞ。


 確かパーティの時、王太子派閥の貴族がこやつらを虐めておったのだったな。


 それを見かねた我が殺気を出して脅したら全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、泣き叫び──


 パーティが滅茶苦茶になった記憶がある。


 その時、母上に後処理をしてもらって、未だに頭が上がらぬ。


 つまり──


 我、意識してなかったがいつの間にか物語通りに味方をゲットした件についてッ!


 うむ、昔の我ファインプレーであるな!


 まさか、そこが関係してるとは全く思わなんだわッ!


「うむ、お主らの働きに期待しておるぞ」

「「はいッ!」」

「それでここへ来たのはそれだけか?」

「いえ、学園ではご一緒になると思って──仲を深められたらなと思いまして……」


 最後にソラが嬉しい事を言ってくれる。


 部下と仲を深めるのは大事な事であるからな!


 深夜になるまで雑談をして寝床に入ると我は物語と現実での2人のイメージが少し違う事に違和感を感じた。


 ウェルは物語と変わらず、ハキハキしておるが──意外と物語の描写よりも気遣いが出来て優しい。


 セレナは物語では勇敢なイメージしかないのだがな……終始我にビビり過ぎであったな……


 まぁ、こやつらは生きておるのだ。当然か……。


 これも悪くないな。


 この時、我はだと再認識した。

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