第24話

 我は暇なので──


 友であり、新しく四天王となった部下達の為に写真を撮る事が出来ないものかと、馬車の中で『ネット検索』で調べた結果──


 音が出ないカメラアプリという物を発見し、ダウンロードしてみたのであるッ!


 するとネット検索の画面にボタンが出現した。それを押すと、目の前にいた父上をしっかり撮れたのだ!


 凄いのであるッ!


 ただ、その時に馬車の中で──


「ふぉっ!? ふおぉぉぉッ!」

「──どうした!? 敵襲か!?」

「何でもありません」


 ──という一幕があったのである。



 どうやら、画面の端っこに保存フォルダという物があって、そこに撮った写真は保存されておるようだ。


 これであやつらに見せてやれるのである! やり方などはまた聞けば良かろう。



 そんな事もありつつ、旅は順調である。



 まぁ、途中で魔物の群れなどが現れたが、これ以上足止めをくらうとソアラと会う時間がなくなるかもしれぬので、アーク棒でさっさと終わらせた。


 どうやらダンジョンから溢れた魔物の影響で、生態系が狂って魔物が群れで人を襲うようになっておるようだ。


「これは……前より威力が凄い事に……」

「初めて見たが──これが、噂のアーク棒か……すげぇなッ!」

「これさえあれば大規模な戦闘は歴史が変わりますッ!」


 これを見たソラは盗賊討伐の時よりも威力の上がったアーク棒に驚き、ウェルは感嘆の声を上げ、セレナは目をキラキラと輝かせていた。


 この3人とはまだぎこちないが、休憩時などはそれなりに話せるようになってきた気がするのである。



 ちなみに我が領土の兵士は使い慣れておるから普通ではあったが、派閥の貴族と兵士はあまりの威力に驚き絶句しておった。


 しかも! このアーク棒は爆発だけではないのだ!


 試作品のアーク棒を使用したのだが、辺り一面を凍らせる事にも成功した!


 父上から「アーク……それは何だ?」と問い詰められたがな!


 帰ったら売るように言われたのである!


 まぁ、とりあえずスカーレット領には既に入ったのでソアラと会う事にする。


 3日目でちゃんと到着してホッとした。


 2日後には王太子が来る。


 向こうはどうしておるやら──



 ◆



「油断はいけませんよ? フィーリアはスキルに頼り過ぎです」

「……はい」


 私は今、メイド長であるマリア様に手解きをして頂いています。


 アーク様からはミラ様の事を頼まれましたが、に訓練三昧です……しかもかなりスパルタです……。


 マリア様は既に50歳を超えておられるはずなのに動きは信じられないぐらいに速いです。


 訓練や業務にはとても厳しいのですが、私を娘のように可愛がってくれます。


 今も倒れている私にアドバイスを色々としてくれています。


「──フィーリア、聞いているのですか?」

「はい」

「貴女には私の全てを授けます。必ず習得して下さいね? そしてアーク様とミラ様を必ずお守りして下さい」


 マリア様は私に指導して下さる時は他の方と違い、かなり厳しくされます。

 確かに私は強くなりたいです。ですが、最近のマリア様は鬼気迫る物を感じます。


 何故そこまで必死なのか?


「マリア様は引退されるのですか?」


 思い浮かぶ理由はそれぐらいです。この際聞いておこうと私は尋ねます。


「……そうですね……私は──暗殺者アサシンです」


 ──!?


 強いとは思っていましたが、まさか元暗殺者アサシンとは……。


 続けてマリア様は話します。


「私は暗殺ギルドに所属していました。ギルドから命じられ、先代レイモンド家当主であるジュダ様を暗殺しようとしましたが、歴代最強と言われるジュダ様には敵いませんでした。その時──ジュダ様は言いました。『メイドにならないか?』と。暗殺に失敗した私を殺さずに拾って下さったのです」


「まるでアーク様みたいですね……」


 その言葉を聞いたマリア様は笑みを浮かべます。


「そうでしょう? 貴女が拾われた経緯を聞いた時、私は大恩あるジュダ様を思い出しました。ジュダ様は歴代最強と言われるぐらいに強いお方でした。ですが、そんなジュダ様でも──力を継承する時は死にます。レイモンド家の呪われたの悲劇は必ず起こります。その時──フィーリア、貴女が私の代わりにアーク様を支えて欲しいのです」


 この時の私には意味がわからず、頷く事しか出来ません。


 何故、必ず死ぬのか? そんな疑問が残りますが──


 もし、その話が本当であれば、その継承とやらを行えば──クレイ様は死に、アーク様が力を継ぐ事になります。


「それが──引退する事と関係あるのですか?」

「あります。貴女はアーク様を愛しているでしょう?」

「へ?! え!?」

「隠さなくてもわかりますよ。かつて──私はジュダ様を守る事を誓いましたが、守ることは出来ずジュダ様は亡くなられました。アーク様もいつか呪われた血により必ず死にます。貴女は私のように思い残す事のないように──ね? 応援していますよ?」

「──はいッ!」


 もしかしたら、マリア様はジュダ様を愛していたのでしょうか?


 そんな事が頭を過ぎります。


「それと、アーク様は呪いのせいでとても可哀想な境遇です。産まれた当初は私以外はお世話出来ないぐらい避けられていました。周りを寄せ付けない所がジュダ様とそっくりで私は昔を思い出せて嬉しかったんですが……まぁ、その事を察して、アーク様は貴女が来るまで使用人と距離を取られていた。私達では動かせなかったアーク様の心を──貴女ならきっと変えてくれると信じています」


 その時のマリア様の眼差しは慈愛に満ちていて、本当にアーク様を心配し、大切にされていると感じました。


 まるでミリア様がアーク様に向けるような視線です。


 ジュダ様と重ねていると言っておられた事から、とても特別な存在なんだと思いました。


「──マリア様ッ! 私頑張りますッ!」

「その意気です。アーク様の懸念である王太子が来るまでに必ずマスターして貰います。ミラ様の専属になるのはその後にして貰いますからね? さぁ、続けますよッ!」

「はいッ!」


 私達は王太子が来る日まで訓練を続けます──



 そして、王太子が来る前日──


 私とマリア様の最終試験の模擬戦を行います。


 お互いにスキルを使わず、技術のみで模擬戦を行いましたが──


 その結果、善戦はしましたが敗北しました。


 仰向けで倒れている私にマリア様は告げます。


「フィーリア、頑張りましたね? 合格です。これなら、スキルを使えば十分に動けます。後は精進を怠らないように」


「──ありがとうございましたッ!」


 マリア様には勝てませんでしたが──


 やり遂げた思いと、認められたという思い、そして少しでもアーク様の力になれるという思いが私の中で駆け巡り──涙を流しながらお礼を言います。



 例えアーク様がこの先死んでしまう──


 そんな未来が訪れるのだとしても──


 その日が来るまで私はずっと一緒にいたい──

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