第22話
出陣する当日──
我は日が昇る前から屋敷を抜け出して、魔物が多く住む森の奥深くまで来ておる。
今は召喚陣を地面に書いている最中だ。
我、超眠いッ!
一昨日の夜は我のスイーツ店の者達へ、店のことを頼み──その後からは今日の朝方まで色々作って寝不足である。
何故こんな事をしておるかと言うと──
もしもの時用に我が前世で作った使い魔を召喚する為である。
一昨日の夕方頃に父上から「アーク、ダンジョンから魔物が溢れて来ている。潰す為に出陣する。アークも来て欲しい」と言われて忙しかった……。
王太子は5日後に来るというのに、まさかこのタイミングでダンジョン攻略する事になるとはな……しかも場所はスカーレット領と聞いた。
念には念を入れておいた方が良かろう。
召喚術は上手くいくかはわからぬがな。
世界を跨ぐ召喚は膨大な魔力が必要だ。
幼少期に試した時は見事に失敗した。あの時の感覚からして、貯蓄した魔力を合わせても使い魔を召喚するのが関の山であろう。
これで魔力の貯蓄はなくなってしまうが、戦力は間違いなく上がる。
うむ、良い感じで魔法陣も仕上がっておるな……複数の魔法陣を組み合わせて複雑化させ、儀式魔術の様式にしたお陰で魔力も節約出来ておる。
これなら──
──いけるッ!
「──我は告げる。
汝の身を我が下へ──
我は命じる──
世界の扉よ、旧友との再会を果たさん為に道を開け──
我に応えよ────
『シロ丸』『クロ丸』ッ!」
はぁ……フィーリアの時もそうだったが、まさかこの我が詠唱せねば大規模魔術や召喚魔術を発動出来ぬとはな……。
魔力の高まりと共に召喚陣から煙が噴き出した。
通常は光輝いて召喚した者達が現れるはずなのだが──
何故か煙が出てきておるな……失敗か?
いや、感覚的には成功しておるはずなのだがな。
煙が晴れて行き、姿が視認出来るようになる。
そこには──
「「もきゅッ」」
白色と黒色の毛玉がふわふわと浮いて我に向かって鳴いていた。
きっと、この煙はきっと異世界をまたいで召喚したからかもしれぬな! うむ、そういう事にしておくか!
ちなみに白い方がシロ丸、黒い方がクロ丸だ。
こやつらは我が作った人工精霊だ。
それらは我に飛び込んで──
……来ぬな……姿が違うからか?
「ほれ、以前のようにまとわりついて良いぞ? ん? 怖い? それに姿がおかしい? まぁ、転生したからな……」
こやつらは喋れぬが、なんとなく意思は伝わってくる。
いやはや久しくて嬉しいものなのだが──
少しやり取りをして思った。
確実に呪いのせいで明らかに前世の時よりも近寄り難い存在になっておるな。
まさか昔、唯一懐いておったこやつらが畏怖するとは……。
まぁ、その内慣れるであろう。送り返せんから我慢してくれ……すまぬな。
「「も、もきゅきゅ?!」」
そんな帰りたそうな表情するでない……心が痛いわ。
◇◇◇
「わぁ〜アーク様、これ何ですか!? 可愛いッ!」
「お兄ちゃん! もふもふなのですよッ!」
「「もっきゅ〜♪」」
うむうむ、シロ丸とクロ丸の機嫌はフィーリアとミラによって良くなったな。
現金な奴め……我、生みの親なのに……。
しかし、今回で確信したが──
向こうの住人は呼べぬな。現段階で確実に魔力が足りぬ。
それに呼べても怖がられたら最悪であるな……我、立ち直れんかもしれん。
「こやつらは我の使い魔である。シロ丸よ、ミラの護衛を頼む。王太子がミラにちょっかいかけよったら殺せ! クロ丸は我と共にダンジョンに向かうぞ?」
「もきゅッ!」
シロ丸は嬉しそうにミラにまとわりついて勢い良く返事し──
「も、きゅ?」
クロ丸は我を見ながら固まり「え、マジ? 嫌なんですけど?」と意思を伝えながら返事する。
クロ丸よ……お前、我の眷属であろうに……そこまで嫌なのか……。
「はぁ……仕方あるまい……クロ丸はしばらくフィーリアのサポートだ」
「もっきゅぅ〜♪」
クロ丸とシロ丸は闇と光の人工精霊だ。
こやつらなら王太子レオンが何かしてもサポートぐらい出来るであろう。
早朝から召喚を行った結果、我の魔力の備蓄が無くなった上に戦力も無くなった件について!
まぁ、嫌がっておるし、仕方あるまい……。
「シロちゃん、よろしくなのです!」
「クロちゃん、よろしく!」
ミラとフィーリアも喜んでおるし、良かろう。
しかし、フィーリアの歪んだ笑顔は相変わらずだな……。
「ミラよ。その髪飾りは絶対に外してはならんぞ?」
「はいなのですッ!」
王太子レオンの『魅了』対策さえ出来ておれば問題なかろう。
物語には無い流れではあるが、おそらくこのタイミングでミラを『魅了』してアークと引き離した可能性が高いからな。
「フィーリアは今回の任務には連れて行けぬ。その代わり──ミラの護衛を頼む」
「わかりました。お任せ下さい」
「──そうだ。ミラとお揃いのこれと武器をやろう。王太子が来ている間は必ずつけるように」
「──ありがとうございます」
ミラと同じ髪飾りを渡すといつもより柔らかい笑みを浮かべるフィーリア。
これでミラの方はなんとかなるであろう。
髪飾りさえあれば『魅了』や仮に催眠効果のネックレスをつけられても守ってくれるはずだ。
後は母上であるな……メイド長にも頼んでおくか……。
◇◇◇
昼前には準備が整った。出発する為に皆が集まっておる。
我はしばしの別れの挨拶をミラにする。
「では、我は父上とダンジョンに向かう。攻略した後はソアラと会う予定だ。ミラも王太子の件が終われば後から来ると良い」
「ソアラお姉ちゃんと会いたいのです! 絶対行くのです! 王太子とかいらないのです!」
「さっさと断って追いかけて来たら良い。ダンジョンなどさっさと攻略して待っておるぞ?」
「はいなのですッ!」
うむうむ、王太子は性格が悪いのでさっさと断って来ると良い。
「アーク、クレイを頼みましたよ」
「任せて下さい。母上も頼みましたよ?」
「えぇ、もしもの時は私がなんとかしておきます」
母上の頼もしい返事を聞き、我は笑顔で応える。
別れの挨拶を済ませ、去ろうとすると──
メイド長のマリアが一礼する。
マリアは我が使用人の中で最も信頼している者だ。父上が幼い頃からメイドをしていると聞いておる。
戦闘力も使用人の中では一番強く──
何より、我の乳母だからな。母上同様、我に優しい笑みをいつも向けてくれるもう1人の母親みたいなものだ。
フィーリアが急激に成長したのはマリアの貢献が一番大きい。
「マリア──ミラを頼む」
「はい……ご武運を」
しばらくすると出発の時間になり、声をかけられる。
「アーク様。お時間です」
「ソラか──!? ……お主も行くのか?」
「はッ、今回のダンジョン規模は総力を上げて行うように命令を受けております。どうやら冒険者ギルドの話によると難易度Sランクです。討伐に手こずっているらしく、このままでは大規模な氾濫の恐れがあるとの事です」
「──そうか。ならば急ごう。我が婚約者を守る為にもな」
「さぁ、出発だ」
父上が我を待っていたようだ。
しかし、これ馬車何台あるのだ? かなりの人数で行くのだな。
『導き手』の話によるとこれだけいて、生き残るのは極わずかか……。
「父上──生きて帰りましょう」
「当然だ。俺は国最強なんだぞ?」
「せめて、私に圧勝してから言って下さい」
我は軽口を叩くと父上は苦笑する。
その時周りから──
「さすが、クレイ様の息子ですな。クレイ様の若い頃を見ているようです」
「「「はっはっは──」」」
我が領土の兵士達とレイモンド家を支える家系の人達が笑い出す──
戦闘を主に行うこやつらは精神面も強いのであろう。我を見て多少顔は引き攣っておるが、別に我を嫌ってはおらぬのだろう事が伺える。
「お前達も──生き残れッ!」
「「「おぉぉぉぉぉッ!!!!」」」
皆が我に応えてくれる。
こやつらも死なせたくないな。
しかし、これではっきりしたな……原作が始まる前にソアラとの縁は2回あったのか……。
ソアラとは学園前に出会い──更に領地の危機を救う……物語は繋がっておるな。
感慨深い。
王太子は残った者達に頼むとするか。
さぁ、やる事はやったのである。
我はダンジョンを殲滅するのみ。
今の我は物語のアークよりは間違いなく強い。
父上がギリギリ倒した魔物でも我ならば簡単に倒せるはずだ。
ソラも死なせはせぬ。
先程ソラに鑑定眼使った時に『勇者候補』と表示されたからな。
しかも……偽名な上に
何故偽っておるのだろうか?
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