第21話
「父上──私はどうやら本気を出さねばならぬようです」
「──待てッ! 早まるなッ! とりあえず落ち着けッ! とりあえず、ばら撒いたアーク棒をしまえッ! それと──その物騒な物はなんだ!? 後この縄、俺でも切れないんだが!?」
「その縄は少し頑丈に作っているので父上が本気を出さないと解けませんよ。それと、これは──剣ですよ? さぁ父上、早くそれの断りの返事を書いて下さい。さもなければ──わかりますよね?」
「し、しかしこれは殿下からミラへの婚約の申込みの手紙だぞ?! 簡単に断れるか!? 王家との繋がりを深められるんだぞ!?」
王家からではなく王太子か……絶対何かあるな。
「他の男ならまだしも──王太子にミラは渡しません。アーク棒の貸しは婚約を断る事でチャラにしてあげるので早く断って下さい。でなければ今後、アーク棒は売りませんし、スイーツ店も閉めて、私はソアラを連れ去って出奔します」
「……そこ……まで嫌なのか?」
父上は驚愕した表情を浮かべる。
「えぇ、嫌です。レイモンド家は危険な役割を担っている家系です。それぐらいの我儘は通るでしょう。それと王家に売っているアーク棒の供給が途切れると困るのでは? 別に王家との繋がりならそれで十分でしょう」
「わ、わかった……断る方向で進めるが……」
「父上──私はミラの為に言っているのですよ」
──少し時を遡る事、15分程前。
ミラから婚約すると聞いた我は即座に行動した。
王太子と婚約するかもしれないと伝えたのは父上だと聞いたからだ。
我は「父上ェェェェッ!」と叫びならがら探しておったので使用人達も只事では無いと思って探すのに協力してくれた。
お陰で早く見つける事が出来た。
これからも菓子を差し入れしようと思う。
そして、父上を発見した瞬間に以前作った特殊な縄で捕縛し、部屋まで連れ去った後は今の流れで断るようにお話をしている感じだ。
まぁ、アーク棒を床にばら撒き、ビームサーベルを模した剣を父上の首に当てているので、見ようによっては脅しているように見えるが……。
その姿を見ていたフィーリアは「え?! アーク様があっさりクレイ様を捕縛した!?」と驚いておったが、今はそんな事はどうでもよい。
父上がまた口を開く。
「……アークよ……断るにしても、殿下は一度ミラと会いたいという意向だ。既にこちらへ向かっているそうだ。それだけは断れぬぞ?」
忌々しい王太子めが……。
いや、これは関わらぬようにするチャンスであるな。バレぬようにボコるか──
「では、来られたら即座に帰って頂きましょう。きっとレイモンド家に二度と来たくなくなりますよ」
「お前は何をするつもりなんだ……とりあえず、1週間後には着くそうだから断るにしても、それなりのおもてなしはする。これは当主命令だ」
そう言われては我は何も言い返せぬ。
まぁ、断る事に異存はなくなったようだし、構わぬだろう。
「わかりました……」
後はミラに断るように念押ししておくだけであるな。
我は父上を解放し、ミラの元へ歩き出す。
去り際に父上が「俺が何も出来ずに簀巻きにされるとは……」とか呟いておったが無視だ。
しかし、このタイミングで婚約話が出ようとはな……。
さっさと断らせてフラグをへし折るッ!
嫁いでもろくな事にならぬからな!
「お兄ちゃん!」
「おぉ、ミラ。探したぞ?」
「それはこっちの台詞なのです! いきなり消えてビックリしたのですよ!」
「すまんすまん、ミラは王太子と結婚したいのであるか?」
一応、本人の意思は尊重する方向で話を進めるか……したいと言っても断らせる方向で動くがな。
「──絶対嫌なのです! お兄ちゃんと結婚するのですッ! それ以外は弱いし、嫌なのですッ!」
うむうむ、やはりミラは可愛いな。
「そうかそうか、ミラならそう言ってくれると信じておったぞッ! でも、お兄ちゃんはソアラと結婚するから無理だぞ?」
「大丈夫なのです! ハーレム作るのですッ!」
「…………」
──誰だッ! 我が妹にこんな事教えた奴は!?
「ミラよ……誰からそんな言葉を教えてもらったのだ?」
「フィーリアお姉ちゃんなのです!」
……良し、後で訓練で扱くか。
「ミラよ……結婚相手に強さは関係ないぞ?」
「お母さんが──好きな人と結婚しなさい、と言ってたのです! だから強い人が良いのですッ! お兄ちゃんなら強くて優しいし、お菓子くれるのですッ!」
「お? おぉぅ?」
なんという事だ……ミラは真っ直ぐ育っておると思っておったのにどこかズレておるではないか……。
原因は──おそらく訓練三昧の脳筋な家で育ったからであるな……。
いや、母上の言葉は素晴らしいのではあるが……いかんせん、ミラが違う方向へ暴走しておる……。
しかもトドメがお菓子とは……これは我のせいか?
「ミラよ、まだ時間はあるのだ。ゆっくりしっかり考えなさい」
そう言うのが精一杯だった。
とりあえず、ミラにワッフルを与えてから庭へ向かう。
さて──
「フィーリア」
「はッ! どうなさいましたか!?」
フィーリアを呼ぶと背後に現れる。
おそらく我の影から現れたのだろう。
「うむ、少し鍛錬がしたくなってな……相手をしてくれるか?」
「はッ、喜んでッ!」
さぁ、少しお仕置きするか──
◇◇◇
「ふむ、これぐらいで良かろう」
「はぁ……はぁ……あ、りがとう……ござい……ました……」
手も足も出させぬようにこてんぱんにしておいたのである。
ただ、何故か笑っておるのが少し不気味だ……いや、これは──
まさか、気持ち良くなっておるのか?
そういえば、ミラに変な事を吹き込まないように途中で言っても「貴族様は皆ハーレムしてます!
うむ、こやつ絶対病んでおるな、と思った。
これからは痛めつけるのは無しだな。変な性癖まで増えたら取り返しがつかぬ。
確かに貴族は優秀な子を儲ける為や、政略結婚の為に一夫多妻ではある。
受け継ぐ事が出来るスキルなどを秘匿する為に近親者との結婚も珍しくはないが稀だ。
前世でも亡き姉がよく我と結婚しようと言っておったが、姉と言ってもお互いに孤児院育ちで血は繋がっておらんかったしな。
あの頃は弱かった……せめて今ぐらい強ければ──救えたかもしれぬな……。過ぎた時は戻らぬ。
ただ、姉フィオナがいたお陰で我は強くなれた──
前世では唯一、我に好意をくれた者かもしれぬな……。
さて、話が逸れてしまったな。
我は1人の女性だけで十分だ。ハーレムなど必要ない。
今の我にはソアラがおる。さらさらの銀髪でウェーブがかかっていて美人で気品もあるし、胸も将来期待出来る。尻も安産型であろう。
ただ、病んでおるがな……嫉妬深いので心配はかけたくない。
『呪いたい──』
ふと、手紙の一文が頭を過ぎる──
うむ、やはり呪われたくないので一応、こちらのフラグを折る為に念押ししておくか……。
「ミラに余計な事を吹き込むでないぞ?」
「…………」
返事は無い……疲労困憊だからやもしれぬ。
そう思っておったが、去り際に呟きが聞こえてくる──
「この固い頭をなんとかするには……早々に既成事実を作らないと──やはりミラ様と協力するしか──」
その言葉を聞いて、我はバッと振り返るが既にフィーリアの姿はなかった。
「うむ、これからは結界を張って寝るとしよう」
身の危険を感じた我は1人そう呟く。
屋敷に戻ると父上が我を発見し、声をかけて来た。
「いたいた、アーク明後日からしばらく任務でここを離れるぞ」
次から次へと……。
「しばらくとはいつまでですか?」
「わからん。ダンジョンを潰すから半年ぐらいじゃないか?」
「え?」
フラグの回収早すぎであろうッ!
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