第16話
街に到着すると私以外の人達は住む場所まで案内されました。アーク様が、数ヶ月は働かなくてもお金を払ってくれると説明してくれました。
仕事が見つかり、生活の不安がなくなるまではそこに住んで良い上に、仕事も紹介してくれるそうです。
私が領主様邸に到着し、他の使用人の方々から仕事の説明を受けている時に近くで話が聞こえてきます。
「あの話、本当ですか?」
「そうみたいだ。どうやらアーク様の提案らしいぞ?」
「やはり、素晴らしいお方ですね。レイモンド領の将来は安泰です」
と言っているのが聞こえてきましたが、その時の私には何の話なのかわかりませんでした。
後日、気になって他の使用人の方に話を聞くと──
今回みたいに救出されても、通常はここまで手厚く保護はしてくれないらしいです。少しばかりのお金を渡されて終わりだと聞きました。
例え落ち度があったとしても領民の事を第一に考えてくれるアーク様はやはりとても優しい人なんだなと思いました。
そして、私はしばらく仕事を覚える日々を過ごしました。
不器用な私に屋敷の人達が親切丁寧に教えてくれたお陰で一月経つ頃には大分慣れて──
ついにアーク様付きのメイドへとなります。
事前にメイド長からはアーク様は人から嫌われる呪いを受けておられるとお聞きしています。
その為、今までは基本的には使用人と関わらないように生活をされていたそうです。
使用人の皆はアーク様が怖いという気持ちはあるようです。アーク様から理不尽な要求を受けたり、暴力を振るわれたりしたことはなく、あくまでも呪いのせいでアーク様の姿を見ると恐怖感や嫌悪感を感じるようです。
アーク様は使用人に対しても気遣いや、優しさがあると思います。プリンとシュークリームという食べ物を使用人にも分けてくれる時があります。
分けてくれると言うのは違うかもしれません。
アーク様は妹のミラ様の為に作った後、何も言わずに保管庫に置いておいてくれるんです。
しかも『ご自由に』と書き置きをして。
私が何を言いたいかというと──屋敷の人は別にアーク様を嫌ってなんかいません。むしろ感謝しています。
でも、使用人の皆はアーク様にお礼を言いづらいようです。直接声をかけたら良いと思ったのですが、アーク様が使用人と関わらないようにしているため、ご意志を尊重していると言われました。
だから私は、アーク様から使用人と距離を置いているだけで嫌われてないと思います。
それをアーク様に伝えると「そうか」と少し笑いながら応えてくれました。
それに何故か私は他の方に比べて、嫌な気になりません。正直、盗賊が襲ってきた時に感じた嫌悪感やクロードを失った損失感や絶望感の方が強いからかもしれません。
私だけじゃなく、生き残った人達も怖いなんて思ってないはずです。
これからもこうやって、アーク様と他の方との架け橋になれたらなと思います。
◇◇◇
しばらくして──
私はアーク様からお休みを頂けたので、生き残った人達の所へ行きます。
すると──人数は少し減っていました。
残った人に聞くと、住み込みの仕事が見つかって新しい生活をスタートしたり、他にも恋人が出来て、その人の家に転がり込んだ人もいるそうです。
でも、仕事が中々決まらない人達は焦りが出てきているようです。いつ追い出されてしまうのかと──
私も村の人達には凄くお世話になりました。少しでも恩返しがしたいですが、こればかりは私の力ではどうにもなりません。
アーク様に掛け合ってみようかな、と思っても──たかがメイドが口出しするわけにもいきません。
私には「アーク様はとても優しいから、きっと大丈夫です!」と皆を励ます事しか出来ませんでした。
暗い雰囲気の中しばらく談話していると扉がノックされて開かれます。
そこにいたのは──
「あれ? フィーリア? あぁ、そういえばフィーリアもこの村の一員だったね」
「アーク様!? どうしてここへ!?」
何故かアーク様が街まで来られていました。
「いや、直接皆の様子を見に来たのと──今日は追加で決まったここにいる者達の処遇を伝えにね」
『ついに追い出されてしまう』と──皆の顔が強張り、緊張が走ります。
「処遇ですか?!」
私もつい言葉に出してしまいます。
「あぁ、別に追い出したりしないよ。ただ、初めての場所では中々馴染めないだろし、仕事も見つからないだろうから私が雇おうと思ってね」
「「「──(ホッ)……雇う??」」」
皆は『追い出したりしないよ』という言葉にホッとした後、続く言葉に疑問符を浮かべます。
「そうそう、お菓子作りに興味ないかな?」
「お菓子ですか?」
「そうそう、これなんだけど──」
目の前のテーブルにアーク様はプリンやシュークリーム、それ以外にも見た事がないお菓子を並べていきます。
「美味しそう……」
「良い匂い……」
「ジュル……」
皆、アーク様を見詰めます。当然ながら私もです。
アーク様は苦笑しながら頷きます。
甘いお菓子は高級品です。それはもはや、一般常識──
私達は一斉に動き出し、頬張ります。
「「「美味しいッ!!!!」」」
一通り食べ終わって至福の表情を浮かべていると、アーク様が話し出します。
「これを私の店で作って売り出そうと思ってね。もし、良ければ──仕事が決まってないなら、そこで働いてもらえないかなと。この場所は既に父上から私が買い取ったからお店兼、宿舎みたいな感じで改装する事になる。別に働かなくても他に仕事が見つかるまでいても大丈夫だよ」
私達はいきなりの事で何が何だかわからず困惑します。
私は一足早くアーク様にメイドとして雇って頂きました。
でも、今度はアーク様が皆の為に店まで作って仕事を用意してくれたと、私は直ぐに理解しました。
この人はどこまで優しいのでしょうか……涙が出そうです……。
皆は私を見ます──
「アーク様はとても優しいって言ったじゃないですか?」
私の言葉に皆が頷き──
「「「謹んでお受けします」」」
そう、アーク様に伝えます。
「なら良かった。じゃあ、また追って使者を送るからよろしく頼む。私はこれで帰るよ」
「アーク様。私も屋敷へ戻りますのでご一緒します」
有無を言わせない態度で私は言います。
「──わかった」
それを察して下さったのか、アーク様はご一緒する事をお許し下さいました。
2人で屋敷まで歩いて帰ります。
道中、街の人は怖がるようにアーク様を避けて行き──
人で道が出来上がっていきます。
おそらく、来る時もこんな感じだったのだと思います。だからアーク様は街に出る事はありません。
アーク様は苦笑いを浮かべていますが、内心面白くないはずです。
そんな事を考えていると、アーク様が呟きます。
「……皆、色々あったが──新しい人生を歩んでくれるといいな」
「──大丈夫です。アーク様が皆の道標を作って下さいました」
私はそう答えます。
「そう──か……我でも役立てる事があって何よりだ。悲しい時は何かに没頭すると少しはまぎれるものだしな」
私はアーク様の口調にドキッとします。
この少し変な口調は身内にしか見せない話し方です。私にその話し方をしてくれるなんて──嬉しさが込み上げて来ます。
ただ、この時のアーク様は儚く消えそうな、たくさんの悲しみを抱えている──
そんな表情をされているように思いました。
「そうかもしれません」
私はかける言葉が思い付かず、返事だけをします。
「そういえば──村の者は我が怖くはなかったのだろうか?」
「怖いわけがありません」
私はそう言い切ります。
今日アーク様が訪れた時──皆は自分達の不安はあったけど、震えていなかったし、普通に笑顔で話していました。
「ふむ、なるほどな……貴重な話せる相手達だ。上司となるのだから、また話に行くとするか……」
「皆喜ぶと思います」
この時、アーク様は少し笑ったように見えました。
こんな風に笑うんだ──そう思いました。
アーク様にこの先もこうやって笑って頂けるよう、メイドとして頑張ろうと再度決心します。
こんな優しい人が怖がられるなんて世の中絶対に間違ってますッ!
優しいアーク様にこんな仕打ちをした神様が許せません!
この時、私は誓いました──
全世界がアーク様の敵になっても──
私だけは絶対に最後までアーク様の味方でいると──
「それにしても、父上からがっぽり儲かったな」
「アーク様……もしかしてお店を立てるお金って……」
「うむ、この間父上に魔道具を高額で買い取って貰った金だな。しばらく金に不自由はしなさそうだ」
この時のアーク様だけは口を三日月状にされて大変悪そうな顔をされていました──
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