第15話
私はフィーリア、貧しいながらも10歳の弟であるクロードと2人で助け合いながら村で生活を送っていました。
魔物に殺されて、親はいません。ですが村の人達は親切で、いつも気にかけてくれて幸せでした。
しかし、盗賊が村を襲った事でそんな幸せも無くなってしまいます。
その日、凶悪な魔物を討伐するために村を守る為の兵士の人達は討伐に向かい不在でした。
初めは叫び声が聞こえました。次々と盗賊に襲われ、血を噴き出して村の人達が倒れていく姿を見ても何が起こったのかわかりませんでした。腕に覚えのある人が戦いながら皆に逃げるよう叫ぶ声で正気に戻った私は、クロードと一緒に走り出します──
「クロード、早くッ!」
クロードを急かしますが──
「お姉ちゃん──ゔッ?!」
「──!?」
その時、クロードの背中に矢が複数刺さり、その場で崩れ落ちます。
私はクロードを置いて1人だけで逃げる事は出来ず、直ぐ様、近寄ると──
どんどん血が流れ──
地面には血溜まりが出来ていきます。
私はどうしたらいいのかわからず、呆然としてしまいます。呆然と座り込んで見ているしか出来ませんでした。
「……寒い……寒いよぉ……死にたくないよぉ……」
クロードは既に目が見えていないのか呟く声でハッとなり、手を握ります。
「大丈夫……私ももうすぐ一緒に逝くから」
そして絶対に離れないと──ギュッ、と抱きしめます。
「……暖かい……お姉ちゃんの温もりだ……」
「1人になんてさせない──」
「お姉ちゃん……大……す……き……」
それが弟の最後の言葉──
どんどん弟の体温が失われていく中、クロードとの思い出が脳裏を駆け巡っていきます。
いつも苦しくても、悲しくても私の分まで笑顔を絶やさないクロードが大好きでした。そのクロードの笑顔が二度と見られなくなってしまったという現実と共に絶望感と損失感が襲ってきました。
私は起き上がると近くに落ちているナイフに気付き、手に持ちます。
死ねばクロードと会える……そう思って、ナイフを胸目掛けて突き刺そうとすると──
「おい、こんな所に上玉がいるぞ」
盗賊は起き上がった私に気付き、ナイフを取り上げます。
そして死ぬ事は叶わず、なす術無く捕まりました。
洞窟まで連れて来られた私や、村の女性達は縄で縛られて放置されます。
クロードの所へ逝きたい──そう思っても動く事すら出来ません。
一緒に捕まった人も涙を流し続けている人や村がどうなったのか心配している人ばかりでした。
あぁ、私に力があれば……。
そう絶望に打ちひしがられている時──
盗賊達が慌ただしく動き始めます。
しばらくすると救援が来て、私達は解放されました。
「村は、村はどうなったのですか?!」
1人が聞きます。
「……村は──「全滅している。間に合わなくて済まない」──アーク!?」
すると、同い年ぐらいの男の子が横から入って告げます。
全滅……あの笑顔に溢れていた村はもうない……そう思うと私の頭が真っ白になり、やり場のない怒りが込み上げてきました。
何故もっと早く来てくれなかったッ!
そう叫びたくなります。
全滅している、と言った同い年ぐらいの男の子を見ます。
その人が視界に入った瞬間に恐怖に体が震えて仕方がありませんでした。それは他の人も同じです。
ですが、もう何も残っていない事実を知り、失う物が何も無い私達は恐怖より怒りの方が
罵声を浴びせ、石を投げる──
私はその人の頬に目掛けて平手打ちをします。完全に八つ当たりだとは分かっていました。
それには構わずにぶつぶつと何か呟いたと思ったと同時に地面が光出して大きな門が出現して開き──
中から何かが出てきたと思ったら人の形になります。
そこには死んだはずの村の人達がいました。
「何をボーっとしておるかッ! 5分しか持たん、別れの挨拶をしておけッ!」
その言葉にハッとなり、クロードを探しに向かいます。
どこッ?! どこにいるのッ!?
走り回って探していると後ろから声が聞こえてきます。
『──お姉ちゃん』
「──夢じゃないよね?」
私は二度と会えないと思っていた弟の姿を見て涙が止まりませんでした。
触れようとしても私の体はクロードをすり抜けてしまう──
──死んでしまったという事実が胸を締め付けます。
『夢じゃないよ。あの人が皆の
クロードが指差す方向には私が平手打ちをした人──領主様の息子であるアーク様がいました。
「……お姉ちゃんも直ぐにそっちに逝くわ。最後の時に約束したでしょ? 1人にさせないって」
いつも2人一緒だった……1人になんてさせない。
だけど返ってきた答えは反対の言葉でした。
『──お姉ちゃんはこっち側に来たらダメだよ。それに来ても会えないよ。今はたまたま、あの人のお陰で会えているだけ。それと──僕はあの時、温もりはわかったけど──声はほとんど聞こえなかったんだ。だから約束なんてしていないよ?』
死んでも会えない──その言葉に絶望します。
「でも──」
『僕さ……生活は大変だったけどお姉ちゃんと一緒にいれて幸せだったよ?』
「私も幸せだったよ……」
自分で言いながら気付く──クロードが笑っていた日々はもう戻らない過去のものなのだと。
そう思うと更に胸が苦しくなる。
『お姉ちゃんも前に言ってたでしょ? 失った命は元に戻らない──その分も生きなきゃダメって。お姉ちゃんはまだ死んでないんだ。だから──ちゃんと、僕の分まで生き……て……笑ってよ』
クロードの体が綻び始めて儚く消え始める。
失った命は元に戻らない。だからこそ失った命の分まで生きる義務がある。だから笑って弔おうね? そう、確かに教えた……。
でも──
「待ってッ! 私どうしたら──『笑ってよ』──でもッ!」
嫌だよぉ……逝かないでよぉ……。
『お姉ちゃん──大好きだよ。お姉ちゃんの笑顔って……下手くそで不器用だけど──僕は大好きなんだ。だから最後ぐらい笑ってほしいなぁ』
弟は悲しそうな表情を浮かべていました。
私が死んでしまったら、大好きだった弟の笑顔ははもう見れなくなってしまう──そんな気がしました。
死んだ弟にまで心配させるなんて……お姉ちゃんとして失格だ……もう会えないなら、せめて最後ぐらい笑顔で送り出したい──
せっかく──お別れの機会を貰えたんだ。だから笑顔で──
「私も──大好き……すごーく大好きッ! 私、ちゃんと生きるから! だからそんな悲しそうな顔しないで!」
涙を流しながら精一杯の笑顔と言葉を絞り出すと、弟は安堵してニコッ、と笑ってくれます。
弟と触れられないのはわかっているけど、そのまま抱きしめ合うように額と額を合わせ──
お互いに笑い合う。
『僕はいつまでもお姉ちゃんの弟だよ──生まれ変わったらまた会おうね──お姉ちゃん──大好き』
その言葉を最後にどんどん眩い光になり私を包み込んでいきます──
「生まれ変わっても──私はクロードのお姉ちゃんだからね──大好きだよ」
私は涙を流しながらクロードの分まで生きる決意をしました。
今度はちゃんとお別れが出来た──
クロード──
生まれ変わりがあるのであれば──必ずまた一緒に
いえ、絶対になろうねッ!
最後は空へと消え行くクロードを見送り、私はその場にペタンと座り込みます。
涙は止まらないけど、心が少しだけ満たされた気がしました。
周りを見ると生き残った人達は涙を流しながらも私と同じく笑顔でした。
割り切れない人も当然いると思いますが、それでも最後に死んだ者とこうやってお別れが出来るなんて普通はあり得ません。
皆、心のどこかでこの軌跡を起こしてくれたアーク様に感謝していると思います。
でも、私はアーク様に平手打ちをしてしまいました。謝罪と弟に再会させてくれたお礼を言う為に、再びアーク様の元へ向かいます。
最後にクロードと会えましたが、もしかしたら無礼罪で死ぬかもしれない、そう思っていました。
しかし、そんな事もなく──罰という名目でメイドとして働くように言われました。
「我が──怖いか?」
その言葉を向けられた時──
怖いわけがない、クロードに会わせてくれたのだからッ! と言葉に出そうと目を合わすと私は気付きます。
なんて──寂しい目をしているんだろう。
そして──なんて優しい目をしているんだろう、と──
それが確信に変わったのが、後日の出来事です──
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