第3話
私はソアラ・スカーレット。
幼い頃に魔物に襲われてしまい、顔や体に酷い傷を負い──右目と右腕も無くしてしまいました。
私の傷は深く、聖女様でも完全には治せませんでした。私の目と腕も戻らないままです。
それから私は外に出る度に大人からは「可哀想に……あんなに綺麗だったのに」と同情されたり、友達からは「化け物」「近寄るな」と言われ虐められたり、婚約者である王太子殿下には「醜い」と婚約破棄を言い渡されました。
使用人からの憐れみの視線に耐えられなくなり、私はついに部屋から出なくなります。
どうしてこんな目に合うの?
神様はいないの?
そう思いながら部屋に閉じ籠る日が続きました。
でも、ある日──
お父様からレイモンド領へ息抜きに行くから来るように言われます。
レイモンド家と言えば国防を担う家系として有名です。
──憎しみや悲しみばかりが募る日々が続きましたが、私はこの機会をチャンスだと思いました。
アーク・レイモンドは私と同い年のはず。
私は出席していませんが、10歳になる王太子の誕生パーティでは彼が出席した事により大混乱になったと聞いています。
その時に彼の情報が漏れ、スキルを習得出来ない事と王太子の情報操作により、無能、そして嫌われ者として扱われるようになりました。
ですが、父の話によると──『とんでもなく強い』──そう聞いています。
そんな彼なら、こんな私とも普通に話ぐらいしてくれるかもしれません。
せめて来年から始まる学園前に彼を私の味方にしたい。
そう思いながらレイモンド領へ両親と共に馬車で移動します。
「ソアラ」
「何でしょうか? お父様」
「アーク君の事が気に入れば──婚約しても──」
「しません」
「そうか……」
男なんて所詮は顔だけで判断するもの。私の醜い顔を見れば誰だって断ります。
かつての王太子がそうだったように……。
婚約なんて──傷だらけの体では誰も興味を示さないでしょう。
だから私は公爵家の名前を使い──
アーク・レイモンドを味方に引き入れる──いえ、私の居場所を作る。
両親とたわいも無い会話をしていると──
レイモンド家に到着します。
私は醜い顔を隠す為に仮面をつけて歩き出します。
玄関まで行くと──
──クレイ様、ミリア様の前にいるのは妹のミラちゃんかな?
後ろからアーク様が現れます。
視界にアーク様の姿が入ると私の体は震え出しました。
見た目は優男なのに怖い……。
それに凄い嫌悪感と不快感……。
「本日はようこそお越し下さいました──」
両親は貴族定番の挨拶をする。
「貴女がソアラ様ですね? 私はアークと言います」
「ミラなのです」
ミラちゃんは天使のように可愛いです。
しかし、アーク様は紳士的に自己紹介をしてくれていますが引き攣った口元は悪魔のように見えます。
ここで引いてはダメ、凛とした態度で接しなければなりません。彼とここで接点を作らなければ──
「よろ……しく……ソアラです」
なんとか声を出す事に成功しました。
お父様達は仕事の話があるらしく、大人と子供で別々の部屋へ移動する事になりました。
◆
おぉぉぉぉぉッ!
ソアラ嬢は震えていたものの──
初対面では初めて返事をするだけでなく、自己紹介までしてくれたではないかッ!
あぁ、涙が出そうである。家族以外でまともな会話が成り立ったッ!
我、歓喜ッ!
これはプロポーズしかあるまいッ! うむ、これは伴侶として迎え入れよう。婚約者もいないし、決まりであろうッ!
いや、待て。我よ早まるでない。こういうのは確かお友達からが定番のはずだ。
父上達も話があるそうだから、これから一気に仲を縮めようではないか!
しかし、部屋に入ったまでは良いが──
ここで問題が発生した。
何を話せば良いのやら……。
前世でもボッチという奴であったからな……。部下を酒場に連れていったら終始かちんこちんで話も弾まんかったしな……。
「ソアラお姉ちゃんはどうしてお面被ってるの?」
うお!? 我が考えている間に豪速球のストレートで妹ミラが躊躇なく踏み込んではならん所へ踏み込んでしまったではないか!?
「……顔を怪我しているからよ……」
「お兄ちゃんが治してあげたら? 前にミラも治してもらったよ?」
「え? アーク様はスキルが無いとお聞きしていますが……」
しまった……そういえばミラが怪我した時に治したんだったな……適当に誤魔化すか。
「えぇ、そうですね。スキルはありませんね」
「スキルは?」
しまった……他人とまともに話すのが久しぶりで上手く話せん!
「えぇ、代わりに呪いはありますね。スキルが習得出来なくなる呪いです」
「お戯れを。アーク様はかなりの強さとお聞きしております。それなのにスキルが無いなど……」
確かに今の所は我より強い者とは出会っておらんな。
これ以上、説明するのは藪蛇かもしれぬ。
「ミラ、プリンを持ってくるからこの場は任せたぞ?」
普通はメイドに任せれば良いのだが、今日は人避けしておるからな。
それに我に会話はハードルが高い……。
前世の時にいた執事が懐かしい……あやつなら言わずともサポートしてくれておったからな……。
そういえば、プレゼントはいつ渡せばいいのだ?
そんな事を考えながら厨房の保管庫からプリンを取って戻ってくると2人は仲良く話しをしていた。
ミラよ……そのコミュ力を分けて欲しいぞ……どうすれば仲良くなれるのだ……。
「さぁ、プリンを持ってきたよ。よく冷えてて美味しいよ」
「わーいッ! プリンなのですッ! お姉ちゃん、これ美味しいよ? 食べよ!」
「……私は後で頂くわ……」
ふむ、失念しておったな。仮面があっては食べれん。
どうしたもんか……。
「お面あったら食べれないね。外してあげる」
え?
「あ、……」
ソアラ嬢は一瞬何が起こったのかわからないようだった。
我はソアラ嬢を見つめる。
顔の傷は酷いものであった。右前頭部から右顎下まで鋭利な爪で攻撃されたのだろう。おそらく体まで続いている感じだ。
前髪は無く、眼球と鼻は潰れ、頬はおそらく口内まで貫通しているであろう傷口が目立つ。物を食べる事もままならないであろう。
よく生きていた──そう言わざるを得ない。
「ソアラ様──「見ないでッ!!!!」──……面を──」
直ぐにミラから仮面を奪い取り渡そうとするが──
「──近寄らないでッ!!!!」
左目からは涙が溢れ出ていた。
我は女性に泣かれるとどうしたら良いかわからぬ。
しばらく呆然としてしまう。
その間にソアラ嬢は部屋から飛び出して行く。しかもかなり速い。何かスキルを使ったか?!
「いかん──」
とりあえず、ミラを叱るのは後だ。
我が家は街から少し離れておるから、魔物も出るし早く探さねば──
「お兄ちゃん、お姉ちゃんの傷治してあげて?」
ミラはソアラ嬢を見てそう言った事に我は真っ直ぐ成長している事を実感する。
「そう、だな。お兄ちゃんに任せなさい。ミラは部屋で良い子にしておるのだぞ?」
せっかくソアラ嬢とミラだけでも仲良くなれたのに──これで終わりにはせぬぞ?
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