第2話

 13歳になった──


 今では自由に動き回れるので隠れて魔物を討伐しておる。それにネット検索で色々知る事が出来た。


 我、博識ッ!


 今や日本とやらの者達とも違和感なく会話が出来るかもしれんな!


 ちなみに、人と話す時は普通を心掛けておる。以前、妹にこの口調で話したら──「変な話し方なのです」──とか言われたからな……。



 まぁ、そんな事よりも情報を集めた結果──


 国防を担う我が家は伯爵という地位についていると聞いた。

 国の危機が訪れると直ぐに最前線に配置されたり、危険人物の排除などを行う危険な役割を担っている為、5歳を迎える頃には筋トレなどの基礎訓練を開始している。


 どうやら、この世界ではスキルという物が全てらしい。両親はあまり気にしてはいないが、『畏怖』のせいでスキルを習得出来ない我はこの事が世間で知られれば無能の烙印を押されるだろう。


 というか既にで無能の烙印を押されておる……それと恐怖感、嫌悪感、不快感などの効果は想像以上に酷い呪いというのはその時によくわかった。


 そして、この世界に魔力はあるのにというものは存在していない。あるのはと言われる魔術と似たスキルだ。


 まぁ、魔術が使える我には必要あるまい。大概の事は出来るのでスキルも正直必要ないと思っている。


 それよりも、救いなのはそんな我でも両親から捨てられる事は無く──育ててくれている事だ。


 前世では孤児だった故に親の温もりはわからんが、普通に話しかけてもらえるだけでも嬉しいものだ。


 まぁ、10歳の妹やメイド、執事などからは怖がられているし、避けられているがな……。


 妹は話しかけようにもそそくさと去ってしまうのでコミュニケーションもとれん。


 使用人からは何やら陰口を言われている気もしないではない。本当に陰口を言われていたらと思うと少し近寄り難い……。


 ちなみに『畏怖』身体能力の補正で実感出来たのは5歳の時点で大人並に動けるという事ぐらいだ。ぶっちゃけると前世の時が凄すぎて今の強さなどゴミ屑だ。


 そして、それよりも我の頭を悩ませているのは──


 たまたま赤子の時に見たラノベとか言う物語とほぼ同じような状況になっておる事だ。


 調べれば調べる程、登場キャラクターの名前が出てくる……。


 確か物語でアークは途中で死ぬ──


 神々が我を滅ぼそうとしておるのはなんとなくわかった気がした。


 おそらくだが──


 神々は我を転生させる際に


 言わば、この世界は神々が我を閉じ込める──いや、殺す為の箱庭であろう。


 まぁ、別に構わんがな。


 退屈はしなさそうだ。楽しませてもらおう。


 ちなみに今の日課は筋トレと魔術の練習である。


 我の魔術は異端のようだから、屋敷から離れた場所で魔物相手にこっそり行っておる。筋トレは屋敷の庭でやっておるがな。


 他の日課は──


「ミラ、おはよう」


「……ヤッ」


 こうやって妹であるミラ・レイモンドと頑張って話す事だ。と言っても挨拶をする事しか出来ないが……直ぐ逃げられるし……。


 今も我を覗いていたわりに声をかけると逃げて行った。


 でも、凄く可愛いのだ。将来は男を惑わすであろう事が容易に想像出来る。


 それに我とは違い、スキルと言われる技能も産まれた時から複数所持している。将来有望だそうだ。


 何より、物語では我を何人もの人間が殺しに来るがその中の一人が妹であるミラだ。なんとかそんな未来は回避したい。


 その為にもフラグという奴を折りたい。


 何か仲良くなる為に方法は無いだろうか?


「あらあら、アークも大変ですね?」


 金髪の髪の毛を靡かせ、声をかけて来たのは母親であるミリア・レイモンドだ。容姿は凄く綺麗でスタイルもとても良い。


「母上! ミラと仲良くなりたいのですが、話しかけても中々話してもらえませんね。何か仲良くなる為に良い案はありませんか?」


 そう言うと、碧眼の瞳で我を見つめながら考えてくれる。


 ミラとは1年ぐらいずっとこの調子なのでそろそろ打開策が欲しい。こういう時は母親に解決策を授けてもらうものだと前世の部下が言っていた。


 ちなみに父親であるクレイ・レイモンドは任務で家にいる事は少ない。


 父上は我と同じく黒髪で黒い瞳、そして少し華奢な感じだが、男前だ。


 そんな事を思っていると母上が口を開く。


「おやつで釣ってみたらどうかしら? 女の子は甘い物に弱いものよ?」


「なるほどッ! さすが母上です! ありがとうございます!」


 その手があったか! 確かに部下がそんな事を言っていた気がするな。やはり母親とは偉大なものだ。


 よし、作ってみよう。ネット検索すれば何かレシピぐらい出てくるだろう。

 昔、勇者が作ったプリンとかいう食べ物が美味かった記憶がある。


 そんな事を考えていると母上が話を続ける。


「それはそうと──明後日、アークと同い年の子が来てくれますよ。お友達になれるといいですね」


 おぉ!? さすが母上ッ!

 今度こそ友を作るぞッ!

 母上は孤独な我を気にかけてくれておるッ!

 チャンスを今度こそ活かすッ!

 これまで、同年代の子供と会っても『畏怖』の効果でろくな事になっておらぬからな……。


「母上、ありがとうございますッ! とても嬉しいですッ!」


「相手ですが──スカーレット家のご令嬢です」


 スカーレット家は公爵位であったな……確か令嬢の名はソアラと言ったはずだ。まさかでその名を聞く事になるとはな。物語では容姿の描写は銀髪ロングぐらいしかなかった気がする。


 この世界で聞いた噂によれば、さらさらした銀髪をなびかせ、妖精のように可憐な姿のソラアに一目惚れした王太子が婚約を申し込んだと聞いている。

 だが、幼い頃に魔物に襲われて九死に一生を得たが顔や体に消えない傷を負った。


 まぁ、それが原因で婚約破棄されてしまい、物語では学園でも不遇な境遇になってしまうはずだ。


 そこでアークと出会い──彼女は復讐の為にアークを利用して国を滅ぼそうとする流れだった気がする。はだが。


「スカーレット家と言えば──あの事件がありましたよね?」


「……知っていたのですね。そうです。ソアラちゃんは心に深い傷を負ってからは部屋にずっと篭っていると聞いています。今回は自然の多いレイモンド領へ息抜きに来られるのです。それにアークは呪いのせいでお友達が出来ていないでしょう? ソアラちゃんは本来気の強い子です。もしかしたらアークとも普通にお話してくれるかもしれませんよ?」


「そう、ですか……」


 息抜きか……我と会えば逆効果のような気がするが、我にとっては友を作るチャンスだ。

 ここは苦労をかけている母上の言う事を素直に聞こう。


 以前、王太子の誕生パーティの時は大層迷惑をかけたからな……阿鼻叫喚の渦であったのを母上がフォローしてくれた記憶がある。ちなみにこれが我のだったりする。


 しかし、ソアラが何故アークが学園で行動を共にしたのか謎だったが、学園前に出会っていたのか……。


 絶望したソアラに『畏怖』の効果は発揮しなかった可能性が高いな。


 しかし、塞ぎ込んでしまい、心も体もボロボロの状態でここへ来るとはな……。


 確かアークが死ぬ前には最終的に仲良くなっておったな。うむ、ヤンデレという奴かも。


 今回、上手く行けば、ソアラを妻に出来るやもしれん。


 うむ、我は友も欲しいが妻も欲しいぞ……我がソアラの死亡フラグを折って守り切れば問題あるまい。


 良し、会おう。そしてプロポーズするのだッ!


 うむ、今からとても楽しみであるなッ!


 良しッ!


 今から厨房を借りてプリンとやらを作る練習をするかッ!


 これで妹と婚約者であるソアラの心を鷲掴みにしてくれようぞッ!




 ◇◇◇



 次の日──


 ミラは珍しく我から逃げずに一緒にいてくれる。

 実は昨日、四苦八苦してプリンを作っていた所──匂いに惹かれてやって来たので食べさせてやった。


 すると、それまでの態度から一変し凄く懐いて来たのだ。


 我、超嬉しいッ!


 これぞデレデレという奴かッ!


 ミラも物語で関係しておるからな。ここで信頼関係を得るのは大事な事である。


 母上のお陰で我は妹と少し距離が縮まった。この調子でソアラとも仲良くなりたいものだ。


 精神が体に引っ張られている感じがするが、楽しみで仕方がないな。


 他にプロポーズ用にプレゼントも用意せねばッ!








────

2話まで読んで頂けたなら5話ぐらいまで頑張って読んで貰えると嬉しいです!

近況にて29話でのシーン用ではありますが、ミラのイラストを上げています。良ければイメージ補完に見てもらえると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/users/tonarinotororo/news/16817139555073494176

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