第4話「推したい気持ち/お慕い気持ち」(3)

「え、じゃあさ、ハルっちはderellaデレラっちの中身が実はおじさんでも好き?」

「んん⁉」


 急にこまちゃんが話をぶっこんできた。さすがこまちゃんと言えよう。自由奔放。

 しかしその答えは──その答えだけは僕にはあるのだ!


「いやいや、derellaデレラはおじさんじゃないよ⁉」


 と、僕が答える前に何故かまりが慌てて弁解してくれた。

 日頃からまりに「derellaデレラはめちゃくちゃ可愛い女の子なんだよな~~~! 歌詞から溢れとる。滲み出とる。そして──ええ子なんや」と、僕が自説を力説し、唱え続けた効果が今出たのだろうか。

 僕もそれに激しく同意するぞ! 

 まあでも──


「ふっ。これは昨日も言ったけど、僕は仮にderellaデレラが男の子でも仮におじさんでも好きと断言できるね‼」


 僕は豪語した。


「僕はderellaデレラという『存在』が好きだから。僕はもしかすると今、男の子にガチ恋してるかもしれないし、汚いおっさんにガチ恋してるかもしれない。それでも全然かまわない‼」


 僕は熱く続ける。


「でもね、『たぶつき』公式Twitter見てくださいよ。ツイートにはいつも可愛い♡がついてるんですよ。おじさんじゃないのは明らか‼」

「いやぁ~? おじさんでも♡くらいつけるんじゃいかな~~~? また、逢いたいな♡ナンチャッテ‼ とか言って」

「む」


 こまちゃんがにやりとして僕に反論した。

 derellaデレラはそんなおじさん構文使わないと僕も反論したいとこだが、まあそれはいい。

 僕は更に続けた。


「ふむ。まあ、その可能性は否定できないよね。でもね、仮におじさんが可愛い♡をつけたツイートをしていても好き! 逆に可愛い♡」

「なるほど、ハルっちはおっさん♡だったら好きと。おっさん♡」と、こまちゃんが可愛く言うと「それは違うくない⁉」とすぐまりがツッコんだ。


 まあ、そう言われたいおっさん♡は多いかもだけど、その話は置いといて──


「それに! 僕はderellaデレラの顔も知らない。それでも僕はこんなにも大好きなんだ! 仮におじさんだったとしても、いた、容姿や性別で愛が変わるなんて断じてない。というか、derellaデレラは可愛い! 断言する‼ これは──僕は知っている!」


 どーん! と、僕はそう言って、スクールバッグからポストカードを2枚取り出す。

 いつでもderellaデレラを感じれるようにちゃんと学校にも持ってきているのだ。


 偉いな、僕!

 僕はそれを2人に手渡し「これが最高に可愛いderellaデレラ様ですよ」とキメ顔で言う。


「イラストじゃねーかっっっ⁉⁉⁉」


 と感嘆符疑問符が三つくらいつく勢いで、まりに即行でツッコまれた。

 まりにしては珍しく、ツッコミというか半分怒りに近い感じではあったけど、ちゃんと僕のボケに対して素早くツッコんでくれたので安心する。

 ボケというか、まあこのイラスト見せたかっただけなんだけど。


「いや、でもめちゃくちゃ可愛いでしょ?」


 僕はしたり顔で言う。

 いや、本当にこのイラストめちゃくちゃ可愛いのだ。

 derellaデレラって絶対こんな感じ! というイメージをちゃんとデフォルメして現してくれてると思う!


「……ま、まあね。あまりにも可愛いイラストだから、たぶんderellaデレラもイラストレーターの人にめちゃくちゃ感謝してるんじゃないかな……」


 伏し目がちにまりが答える。

 先程あまりにも大きい声でツッコんだものだから今更恥ずかしくなったのか顔を赤くし、照れたご様子。

 そんなまりの様子を見てか、こまちゃんがにんまりとして言う。


「ふ~ん、私っちはあんまりderellaデレラっちに詳しくないけど、こういうのって似せて描いてるもんなんだよね? なんかまりっちにちょっと似てない? 巨乳なとことか」

「巨乳だけで判断すんなーっ⁉ こまもあたしとそんなに変わらないでしょ⁉」


 まりが急に吠えた。


「え? いや、この胡桃染色でミディアムな編み込んでる髪形も一緒じゃん」

「わりとどこにでもいるでしょ、この髪形⁉ 髪色は──まあ、たまたま‼」

「あ、ほら、今のポーズとこのイラストのポーズ一緒だし」

「たまたまじゃーっ⁉ ほら、これで変わったでしょ⁉」

「それにほら、まりっちもこのイラストみたいに空飛べるじゃん」

「────飛べるか~~~っ⁉ あたしが空飛べたらderellaデレラより有名人になってるわっ⁉ もう絶対あたしから離れてるよね⁉」

「う~ん、でも巨乳だし」

「巨乳から離れて⁉」

「あと、可愛いとこも似てる」

「……ん⁉」


 そこでまりのツッコミは終わりを見せた。


 まあまあまりさんたら、また顔を赤らめちゃって。

 きっとこまちゃん的にはまりで急に遊びたくなったんだと思う。めっちゃニコニコしてるし。

 わかるよ、その気持ち。僕もよくやる。ちゃんとツッコミくれるからなぁ。


 しかしイケメンな終わらせ方だな。僕も見習わなきゃ。

 てか、またこまちゃんがまりを弄りはじめていた。

 よし、僕も参戦しようかなと思ったとき、まりが僕の方をじっと見詰めた。こまちゃんから逃れるため──では、どうやらないらしい。


「ねぇ、ハル」

「ん?」

「あたしは別に推しと好きな人って別々でいいかなって思う人間だけど──ハルは、それはできないんだよね?」

「まあ、それはね。僕は世界で一番derellaデレラが好きって言ってるし、実際そうだし、他の誰かと付き合うなんて──きっと、その子に対して不誠実だし」

「……そっか。うん、でも、あたしもそのハルの気持ち好きだよ。好きって──色々な感情だし。好きに正解なんてない。誰かの好きは誰かを傷つけるかもしれないし」


 まりの言葉が──なんだかすごいderellaデレラの歌詞っぽい言い回しだなと思った。

 あれ、そんな曲もしかしてあったっけ──と、錯覚してしまいそうなくらい。いや、僕はderellaデレラの歌詞に真剣オタクなのでそんな歌詞がないことは知っているのだけど。

 まりは続ける。


「好きって難しいよね。たぶん、ハルもderellaデレラに好きな気持ちをどうにか知って欲しいんだよね。大好きだから」

「そうなんだよな……そう」


 ん?

 今とても、まりが大事なことを言ったような。僕のアタマに引っかかる。

 まどかさんに言われたときのように──まりの言葉が強く何故か心に残った。


まり、もう一回今の台詞言って‼」

「え? ……?」

「…………あ~~~~~‼ それだよ、それ‼」


 僕の大声にまりとこまちゃんが同時に身体をびくつかせる程に驚いていた。

 申し訳ないが、まあ、それは気にせず僕は話を続ける。


「ずっと引っかかってるな~って部分の答えがわかった! そうなんだよ! 付き合いたいとかってのは、過程をぶっ飛ばしてるじゃん⁉ いきなり付き合えるとかないじゃん⁉」

「う、うん、まあね」


 と、まりが首肯で僕に同意してくれる。


「まず、好きって気持ちを相手に知って貰わなきゃ何も始まらないんだよ! でも、それよりもっと知ってもらわなきゃいけないものがあったんだ! 僕はそこをずっと見落としていた。逢って──どうしたいかの答えもそこにあったんだよ‼」


 そうなのだ。ようやく得心いった。

 見落としていたもの。


 それは──自分自身だ。


 のに付き合うとかおこがましいにも程がある。出会っていたとしてもかなりおこがましいけど。


 そう。

 derellaデレラに、僕がderellaデレラのことを大好きだってことを知って貰わなきゃ──ダメじゃないか。


 僕の引っ掛かり──『僕は常に応援の念を飛ばしているのさ。僕、実は進化人類だからね』なんて言うくらいには盲目的に僕の想いは届いていると思っていた。

 グッズも買うし、CDは店舗特典分全部買うし、毎日音楽は聴いてるし、毎日ポスターに話かけるし、Twitterは即リツイートするしいいねもするし、いつも好きだと叫んでいる。

 これほど命を懸けてるんだからderellaデレラに愛が届いてるだろう──と、勝手に、愚かにも僕は思い込んでいた。

 本当に愚かしい。届くわけないじゃん‼

 自分で自分のことを馬鹿だと思ってはいたけど、ここまで馬鹿だったとは。

 でも、ようやく理解できた。



「僕はずっと──



 はつとかは現場があって、握手会もあって応援していることを伝えることができる。

 なんならはつは顔も覚えてもらっているようだし、ライブとかでも普通に手を振ってもらっている──気がする。


 そうだ。

 僕はそれが前から羨ましかったのだった。

 そしてここ最近の私信だったり、新曲が神曲だったりで、自分の中で盛り上がってしまって『逢いたい』って気持ちになっていったんだ。


 ようやく全部繋がった。

 逢って──どうしたいか。


 僕はずっと──derellaデレラのことをこんなにも大好きな人間がこの世に存在するってことをderellaデレラに知って欲しかったんだよな!

 derellaデレラのことこんなにも大好きなファンが居るんだよって認知して欲しかったんだ。


 ああー……なんかすごいすっきりした。

 僕の脳(アタマ)ん中に刺さっていた針が抜けたようだよ。


「…………まあ、derellaデレラからの認知ある人なんていないだろうし、derellaデレラから認知貰えたら、derellaデレラの一番のファンって言えるかもね」


 と、まりが若干苦笑いしながらそんなことを言った。

 やはりか。

 derellaデレラからの認知を貰えたらワンチャンあるか。犬になっちゃうか、僕。


「それは私っちもわかるよぉ、認知してもらえたら嬉しいしねぇ。私っちもネッサで『暴れ星獣ちゃん~! いつもありがとう~!』って言ってもらえたとき嬉しかったし」

「こまちゃんそんな名前で活動してるんだ……」


 かっけぇ! 僕、普通にハルだわ……目立つ名前に変えようかな……。

 てか、こまちゃん! ネッサ──ネットサイン会とかにも参加してるんだ! 同類だったか……!


「まあ、そういうことで僕の悩みは解決した! 僕はまず認知が欲しい! ありがとう二人とも話聞いてくれて! 特にまりの一言は大きかった!」

「そっか。ハルの悩みが解決できたのなら、あたしはそれで」

「いやあ、本当よかったよ。すっきりすっきり! 何かお礼しなくちゃね」

「えぇ、悪いねぇ。私っちはじゃあ巨大レインボーわたあめがええなぁ」

「え⁉ あ、あたしはお礼とか別にいらないけど……」


 ふむ、まりは謙虚というか、欲がないというか。

 僕のことを心配してわざわざ話を聞きに来てくれたわけだし、ホントにちゃんとお礼をしたいという気持ちだったけど(勿論、こまちゃんも僕なんかの悩みに最後までちゃんと答えてくれたのでお礼したい)どうしたものか。

 と、僕の中に名案が浮かび上がる。


 今、これ以上ないお礼ができるじゃぁないか。最高のお礼ができるじゃぁないか‼

 僕は──


「じゃあ、さっきお渡ししたそのderellaデレラのポストカードをお礼にプレゼントしちゃいます‼ 僕の宝物‼ レアだよ‼」


 キメ顔で言う。

 すると。


「「別にいらない」」


 呆れ顔の2人にハモって拒否られた。


 …………。

 なんで⁉ 

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