第3話「クラス替えガチャSSR」(4)
あたしは学校から帰ったあと、着替えもせず、すぐにベッドに飛び込んだ。
「ㇵァァァァァァァァ!」
と、小さく叫びながら顔を両手で覆った。鏡を見なくても自分の顔がにやけているのが想像できる。口角があがりっぱなしだ。
落ち着くために息を吐く。
うん。
今日は嬉しいことがいっぱいあった。
かるたんと一緒のクラスになれたこと。こまとも一緒のクラスになれたこと。
そして、久しぶりにハルとも一緒のクラスになれたことだ。あと席も近くて嬉しい~~~!
中学2年以来の同じクラス。
同じクラスで得をするということもそうないだろうけど、やっぱり好きな人の近くにはずっといたい。それに授業にも集中できそう。ハルにダメなあたしを見られたくないと思ったり、できるあたしを見てもらいたかったり。
それに高校2年と言えば、一大イベント修学旅行もある。
こういうイベントを一緒に過ごすことができるのは本当に嬉しい。もしかすると一緒に行動なんてできちゃうかもしれないわけだし。
体育祭だって、文化祭だって、同じ空間で、同じことを共有できる。
それを大好きな友達と。大好きな人と一緒にできる。
それがあたしはたまらなく嬉しいのだ。
そしてもう一つ──ああ、思い出すだけでまたニヤけてしまう。
「でも言った。絶対言った」
あたしは独り言をおまじないのように呟く。
言った。絶対。言った。聞いた。言った。絶対──
「可愛いって言った」
わあああああああああ!
ハルがあたしを可愛いってたしかに言った!
えええええええええええええええええ⁉
なんで⁉ あたし可愛いの⁉ めっっっっっっちゃ嬉しいっっっ!
はあはあと呼吸が荒くなる。
一人で何してんだ、あたし。
いやでも、これはわりと大事件だ。大事件なんてものじゃない。迷宮入りの難事件だ(?)。
だって──今の今まで生きてきてハルがあたしを可愛いと言ったことは一度もなかったんだもん。幼馴染あるあるの「僕は
もしかして罠?
いや、ハルの性格から嘘は言わない。あたしならあそこで絶対に「べ、別にあたしはかっこいいなんて思ってないもん!」とハルに言うだろうけど。
実際言ったことあるな、この台詞……。
嘘だよ、ごめんね、ハルはかっこいい。
優しいし、面白いし、声もいいし、歌も上手いし、最近あんまりギター弾いてるところを見ないけどギターも上手いし、顔もいいし、背も高いし、勉強はあんまりできないけど真面目にやってるし、気が利くし、運動神経も実はいいし、ちょっとおバカだけど可愛いし、『たぶつき』を好きでいてくれるし、
って、あたしは一体何を言ってるんだ……。
小説にしてあと1ページはハルの好きなところを述べられるけど、そう思うとハルの熱量に負けてるなとちょっと悔しくなった。
うーん。
浮かれすぎて頭がおかしくなっている。
いやでも、本当におかしくなる。
……あたし、ハルから見て可愛いんだ。
えへへ。
あの話の流れから、外見ってことかな……?
う、嬉しい……。
別に自分の容姿に自信なんて全然ないし、なんなら友達にめちゃくちゃ美人な子がいるからどうしても自分と比較してしまう。
あんな顔に生まれたらハルもあたしを一瞬で好きになってくれるのかな、とか。
それでもハルはあたしを可愛いと言ってくれた。
あたしはそれだけで、本当に嬉しかったのだ。
それだけで自信になる。
自分自身顔で勝負してるわけじゃないし、ハルに好きになってもらうためにそれは勿論外見にも気をつけてるけど、可愛いと思ってくれているのと、そうでないと思っているのでは雲泥の差があると思う。
第一関門突破という感じだ。
そりゃぁ、可愛いと思ってくれてる方が好きになって貰えると思うもの。男の人の判断基準はわからないけど、可愛いと思って貰うにこしたことはないはずだ。
よかった──あたしだって結構色々な努力はしているのだ。
だからちょっとだけ。ほんのちょっとだけ報われた気がした。
うん。
これからも頑張れる! と、思うあたし。
ハルのために──と、思うと心配なことも今日はあったのだった。
あのハルが珍しく凹んでいた。
ちょっとでも元気になるかなっと思って
うーん、心配だ。
何度も言うけど、ハルはいい意味で頭の中がハッピーに支配されている。悪い意味ではあまり深く考えないタイプなので、あまり落ち込んでいるような姿を見たことがない。
それはあたしに対して兄として──みたいなところもあったのかもしれないけど。
それに兄としてだろう──ずっとあたしを救ってくれていた。
あの日からずっと。
だから、あたしも、こういう時はハルの力になりたいと思う。
思うけど。
今までにない現状にあたしもどうアプローチしていいかわからない。
こまに相談しても、茶化されるだけのような気がするし……かるたんも……。
相談──と。
そこであたしは先日のことを思い出す。
「なにかあれば相談乗るよ!」と言ってくれた
初めてお話しした日以来連絡は取ってないけど、結局『ハル君今恋してるみたいだよ』の真相も聞けず仕舞いだし、相談……乗ってくれるかなと思い、連絡してみる。
この時間なら──まだバイトじゃないだろうし。
『こんにちわ! お時間大丈夫ですか?』
とLINEにメッセージを送ると3秒でスタンプが返ってきた。がってんしている可愛い女の子のスタンプ。続けてメッセージも届く。
『やほー! だいじょうぶいぶい!』『なになに⁉』『ハル君今恋してるみたいだよの真相がやっと聞きたくなった⁉』
…………。
やはり
『それもあるんですけど……じゃあ先に真相聞いてもいいですか……?』
『いやいや真相も何もハル君の好きな相手だよ』『それはね』『
……?
え⁉
えええ⁉ しかも
『は、知ってると思うけど≪たぶん、きっと、月の下≫っていうユニットの
っ~~~~~~! 絶対│
あたしが返事する前にまた
『ごめんごめん! 怒らないで! いやもう
清々しくて逆に笑ってしまった。
悪い人じゃないんだろうなってわかるし、最初から揶揄われてるんだろうなとちょっと思っていたのであたし自身全く気にしてない。
でも折角なので、なんでも言うことを聞いてもらうことにしよう。
『全然怒ってないですよ!』『モヤモヤはしてましたけど……』『あの、じゃあちょっと相談に乗って欲しいんですけど……男の子が凹んでるときってどうしてあげるのが一番ですか?』
『え⁉ ハル君凹んでるの⁉』『そんなことあるんだ草生える! まじかー今日弄ろ』『あ、噓嘘!』『うんっとね、それはね、めちゃくちゃ簡単だよ!』『どしたん? 話聞こか? って話聞いてあげるのが一番‼』『ワンチャンあるで!』
……それって男の人がよく使うという手法では?
いや、でも、単純に──そうなのかもしれない。
言い方はどうかと思うけど。
でもまだちょっと不安だ。その不安を乗せて、あたしはメッセージを返す。
『それだけで大丈夫ですか……?』
『大丈夫だよ。どんな人でも、話って聞いて欲しいと思うんだよね』『
と、めちゃくちゃ連続でメッセージが送られてきた。
ちなみにこの間30秒程。めっちゃ早い。
それにしても、締めるとこはきっちり締めるというか──やっぱり年上のお姉さんなんだなと感じた。あたしの悩みもちゃんと聞いてくれている。
とてもありがたかった。
『そうですよね! ハルに話聞いてみます!』『
『ワンチャンあるで!』と、犬がバウワウと吠えてるスタンプが
あたしも、ありがとー♡と描かれたスタンプを返した。
すぐに
……本当にハルはどこでもそういう人間だと思われてるんだと思うと、嬉しくもあるけど申し訳なくもある。一応その責任の一端を担っているので……。
あたしは『ハルがご迷惑おかけしてすみません! うるさかったら無視していいですからね!』と返信すると『いや、めっちゃおもろいからいつも楽しく話聞いてるよ!
楽しまれている……⁉
いやでも、素直に応援は嬉しい。
あたしはぺこっとしてるスタンプで返す。
よし。
明日、ハルに話を聞いてみよう。
ちょっとでも元気になってもえるならそれがいい。
と、丁度いいタイミングでスマホのアラームが鳴る。そろそろレッスンに行かなきゃいけない時間だ。先にズルしてTwitterに練習中みたいな投稿してしまったし、頑張らねば!
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