第2話 群青崩れ

 群青崩れ、群青学園の落語者。主に問題を起こした末に退学処分となった者と、学生同士の決闘で敗北し自主退学となった者との二つがある。

 前者は大概生来の問題がある人間で大抵は巧妙に団体とつながりを隠した子供である事が大半なので、学校を追い出されたらそのままヤクザやマフィアと言った暴力団に席を置く。事実上のスパイである為下手を打った罰は受けるが、基本的に地下に戻って別問題になる。


 では後者はどうなるか?決闘が起こる理由が学内政治の一環であるなら、ある程度の地位が実家にある事が大半なので叱られはするがおそらく別の学校に入学するか、少し早めに実家の仕事を覚えるだけだろう。


 問題は市井出身の一般生徒だ。後ろ盾と言える後ろ盾もなく、実家に帰っても国一番の学校に入学したというプライドが邪魔をしてろくに就職もしない。よしんば仕事を探してもそもそも立場もないのに決闘が起こる理由など大半が不名誉なものだ、噂が立って本人の意思に関係なく梯子を外される。そういった元生徒は他にやる事がない為、学園で培った暴力を用いて生計を立てる。

 こういった生徒の末路は悲惨だ。警察に捕まるか、暴力団にスカウトされるか、あるいは別の生徒の餌になるか。


 とっくに日が傾いた午前零時、俺とリュカはそれぞれ大太刀と鎖付きの刃物を持って学園の位置する大通りで狩りをしていた。

 対象が人間なのだから、不適切な表現だったかもしれないが、狩りではあった。

意外な事に取り締まりを行っているだろうと思った警察の姿を見当たらない。

 もっと狭い裏路地などの方が事件の発生率は高いだろうからそちらにいるのだろうか。実際大通りの脇を逸れた裏路地を見るとあっさりと暴行犯を見つけた。群青学園は一応国を守る人間を養成する機関だが、平然と現在の市民を危険にさらしていながらなぜ存続しているのか疑問を覚える。


「悲しい事に書き入れ時だなこりゃぁ」


「全くだよ、何だってこんなに犯罪者を出すのかねあの学校は」


「物事決める連中には都合がいいんだろうよ」

 

 そう言われてもこの状況にどんな意味があるのか自分には分からなかった。


「こうも毎日毎日、どこもかしこも群青の退学生が暴れまわると評判が落ちてしょうがない。道理で貴族以外の地元民が学校にいないわけだ」


 君はどこの出身だい?

真夜中の路地裏で女性に乱暴を働こうとしている男に声をかけた。

 月明かりに照らされた顔は犯行が目撃された焦りからか、酷く憔悴したものであり、男のすぐ近くで腰を抜かしながらも困惑を見せる女とどちらが被害者なのかわからない。

 男の身長は俺よりも少し高く遠目にはリュカのそれに近い、肉付きも悪くはないがガッシリと形容するには至らない。

 大通りで脅すにはともかく、狭い路地では限定された振り方しかできない刀は犯行には些か不釣り合いで夜闇の中、剣先の震えはこの距離でも見て取れた。

 明らかに場慣れしていない。リュカが言っていた男とは違うようだ。噂になるほどの男なら初犯のような態度にはならないだろう。


「俺はやってねぇし餌でもねぇ!!」


「は?」


 男の唐突な一言に虚を突かれた。

錯乱しているのか。慌てている時は自分よりも慌てている人間を見るとかえって冷静になれるとはよく聞くが、素面の時に取り乱した人間を見るとこちらもかき乱されてしまう。

 第一この状況で何を言っても疑惑は晴れないだろうに。

 男は何かを思い返しているのか、頭を抱えて一人でぶつぶつと呟きこちらと目が合うと半狂乱で突っ込んで来た。

 襲われるところだが、何をしてくるのかは見る必要すら無い。

狭い路地で曲がりなりにも経験を積んだ人間がリーチのある武器でとる最適解。

頭上からの打ちおろしか刺突の二つだ。今回は打ち下ろしだった。

 男の構えた武器を見てここ数日何度もリュカに叩き込まれた痛みを思い出し、防衛本能が体を突き動かす。

 突進である。相手の勢いすら利用する為の急接近は男に一瞬の隙を生ませる。半身を躱しながら放たれたショートアッパーはものの見事に男の顎に吸い込まれ、男は一撃で倒れ伏した。


「リュカ、こいつは頼む」


「あぁ」


 一言交わすと俺は男をリュカに任せ、俺は女に歩み寄った。

錯乱した男に襲われかけたのだから無理もない。女はまだ状況が理解出来ていないのかひどく怯えた様子でこちらを見ていた。


「大丈夫ですか」


 答えは返って来ない。男だけ確保して自分達は退散した方が女にとっては安心できるのかもしれない。だが、この時間帯で女一人というのは危険だ。特にこの一帯は男と同じ群青崩れがいくらいるかも分からない。無理にでもこの場を後にして貰おうか。


「っ!!シュウ気を付けろ!!」


 ダァーン!!

乾いた銃声が路地に響き渡った。


「リュカ!!」


「大丈夫だ」


 銃を握っていたのは群青崩れだったようだ。男は自分の撃った銃に面食らったのか固まっていた為、直ぐにまた制圧して気を失わせた。


「クソッ、刀はともかく銃はだめだろう!!」


「だめななのか?」


「警察以外はな」


 愛ちゃんの事を考えると例外はあるだろうが、刃物と違って重火器の携帯は原則禁止されている。

「そこで何をしている」


 振り返るとそこには制服に袖を通した警官がいた。

暗い路地裏、腰を抜かした女、男三人の内一人は床に倒れ残り二人は武装して立っている。しかも女は恐怖で顔を引きつらせた上で俺の足元にいた。

 誰が見ても俺たちが暴行犯だ。


「難しいとは思うが、信じてくれませんか。俺はやっていない」


 警官は短くそうか、と答え警笛を鳴らした。

先ほどの男と同じく、自分の弁明では埒が明かないと理解した俺は助けを求めて女に対して足を向けた。

 しかし、その足は女に向けた意識とともに後方から響いた金属音に阻まれた。


「シュウ、他もボチボチ集まりそうだ。弁明は後にして一旦、ここを離れるぞ。あと俺がいいって言うまで名前を呼ぶんじゃねぇ、身元が割れちまう」


 警官が振り下ろした一撃を焦りを見せる事もなく後ろ手で大型の刃物を使い受け止めたリュカが指示を飛ばした。

 分かったとだけ俺が答えるとリュカは持っていた刃物を巧みに操り警官の刃を躱し、その勢いで刃物の柄を警官の顔に叩きつけこちらに駆け寄った。


「こっちの路地を練り歩けばどこかには抜け道があるはずだ」


「そうでないと困る。だがここいらはさっきの男みたいなバカがいる可能性もあるからなぁ、そっちも気ぃ付けねぇと。警察もそうだ、最悪奴らの相手も視野に入れねぇとどうにもならねぇ」


「全く、親のコネで国一番の学校に入って在学期間一日でお巡りさんに追いかけられるとは。学園生活は賑やかだと聞いていたがこれほどとは思っていなかったよ」


 予想だにしていない、とまでは言わないにしてもこうはならないだろうという楽観があった。

 実際群青崩れの男と対峙した時もあっさりと事はすんだし、言い方は悪いがストックは幾らでもある。一度成功してしまえばあとは何とでもなるという確信があった。

 安心が崩れさる。

 それを見てリュカは一言訊いてきた。


「後悔はあるか」


「無い!!」


 後悔などあるはずもなかった。

今まで腐り果てていた人生にようやく張りがでたのだ、危機的状況であるにも関わらず俺の心には一種の充足感すらあった。

 暫く全速力で路地裏を駆け巡ると大通りへと躍り出た。

 裏通りを抜けた俺たちを待っていたのは厳戒態勢の警察達だったが、他の場所に比べて数が少なかった為文句は言えない。


「情報伝達早すぎないか」


「優秀なお巡りさんには感謝しないとだめだな」


 お互いに軽口を叩き各々武器を構える。彼らが視界入った時に一瞬頭をよぎった弁明の選択肢は、彼らの尋常ならざる雰囲気に押し流された。


「零時三十分、男二名確保」


 言うや否や彼らは持っていた拳銃を方々から発砲する。

 それを躱すため大げさに地を駆け回り、背中に据えた刀を抜きその刀身を露わにする。

 武骨、というには余りにもお粗末な太刀。それが俺の刀。刃は長い、特別脆いわけでは無い、だが切れ味は悪い。なのにこの刀は俺の家の物だとどうしようもなく理解できた。

 余りにも俺の技になじみが良すぎたのだ。

 最も近い警官を太刀で横っ腹を叩く。その隣の警官に数歩だけ肉薄し腕を切る。

別の警官から飛んでくる弾丸は、引き金を引く前に肌でその害意を感じ取り、倒した警官を壁として放り投げて対処する。

 初めての実戦だったが、余りにも容易かった。

 気が付けば並みいる警官たちは地面に横たわっていた。あまりにもあっけない。


「シュウ、まだまだ来る。キリいい所で逃げるぞ」


「ああ」


 見れば道の両方からぞろぞろと警官が群れを成して行進してきた。


「幾らでも来るがいいさ、俺は虎崎だ。ただの警官共が相手になるか」


 血の巡りが早くなり、視界が昼間よりもハッキリとするのを自覚する。

全能感、それが俺の頭を支配していた。

 今この瞬間この場を支配しているのは自分だと言葉に出す事すら必要とせず、景色そのものが物語っているさまは生まれて初めて見る物なのに、久しぶりに故郷に帰ったかのような心持にさせた。

 

「いいな、これ」


 後ろを振り返ればリュカもまた腰に下げていた刃物を警官の足や腕に投げつけては鎖で振り回し、一種の結界を形成していた。

 彼が来てからは俺の家の道場で何度も戦ったが、一度たりとも武器を掠らせる事すら叶わずじまいだ。

 俺とは比較もできないほどの力を持つ彼と、警察を子供のようにあしらう事ができる俺。タイミングさえ合えば問題なく離脱できる、ある種リラックスした心持で戦え懸念など一つもない。


 だが、その状況は新たに現れた男の一言で終わりを迎えた。


「やったのは、君達だな」


 声を上げたのは警官の男だった。

男はこの国ではあまり見かけない異国の帽子を眼深くかぶり鋭い瞳を覗かせ、なぜか胸に警察手帳を縫い付けている。腰の両方にはおそらくはリボルバーと思わしき物をぶら下げ、ベルトにはこれまた何故か数多くの弾丸が備えられていた。


「カグツチにカウボーイ、そういうのもあるのか」



 衣装が珍しい、それは否定できないがそれ以上の何かが俺の中の本能を刺激した。先ほどの戦いで燃え上がったと錯覚する程流れていた体の熱が急速に冷えていくのを感じる。


「君も人の服の事を言えるような格好でもないけどね。着られてます、って全身に書かれているよ。高校デビューかい」


 彼は軽い口調で会話を続けたが、そのほかの警官とは格別した雰囲気が物語っている。難敵だ、本当の戦いはこれからのようだ。

 


「は?」


破裂音がしたと思ったら遅れて左足に今までとは別の熱が籠った。


「ッ!!」


 見えなかった。銃を構える瞬間も、それを打つ瞬間も、先ほどは全てを知覚できていた戦いの全てが、俺の意識から一方的に取り上げられた。


「うぐぅ」


「お前は強い、それは認める。だがな、俺たちをなめすぎだ」


 狩られる。支配の高揚を素早く全身に伝達していた俺の神経は、律儀にも恐怖すら一瞬で全身に奔らせた。

 まずいまずいまずいまずい。

 後悔が思考を塗りつぶす。視覚は曇り始め、口の中が乾く。

 背中には冷や汗が走り、指先が振るえた。

 どうすれば生き残れる。

 何かを考える前に体が傾いた。

 今、腹のそばを何かが通り過ぎた。弾丸か?

 分からない、何も分からない。いきなり海に突っ込まれたかのように体が重い。今よける事が叶ったのは本能のそれだ。万に一つの偶然だ。同じ結果を出せと言われてもやり方なんて分からない。

 出てきた答えは、虚勢だった。


「俺は虎崎だ、白虎の戦士の王だ。負けるはずがない!!」


 自身に自分が何者なのかを言いつけ、無理やり鼓舞する。今ここにいるのはただのシュウではない。虎崎シュウだ。白虎の王だ、戦いで負けるなんて事はありえない。

 武器を構え今一度眼前の敵を見る。距離は十数メートル、武器は拳銃2丁。男は取り立てて体が大きいわけじゃない。近づければ、切るだけの距離に近づけば、それだけで俺の勝ちだ、他の警官にはあの男ほどの脅威は感じない。あいつをどうにかすればそれでしまいだ。


「虎崎?虎崎か、なら骨が折れそうだ」


 そういうと男はなぜか抜いた銃を腰のホルスターに差し戻した。

すぐに理解した、早打ち勝負だ。

 男達が暴れ、狂い、滾りを見せた狂騒の夜に、静寂が訪れる。

何もしないまま過ぎる時が、神経を研ぎ澄ます。どちらかに動きがあれば、事は動く。ほんの少しだが、事態は変わる。その少しが薄皮一枚の俺の命を握っている事は、もはや考える余地も無い。


「ふぅ」


 鼻から空気が出し、努めて冷静になる。

雑念は捨てろ、恐怖も何もかもを捨てろ。体を縛るものは生存本能すら邪魔だ。それらを無くして、それでようやく俺はこの男との戦いの舞台に立てる。


 生きる覚悟を捨て、地を駆け前進する。風景が歪み、風が俺を拒んだ。知った事かそこをどけ。

 傲慢。ある種弱点ともなりえる人間のそれが、俺を動かすのにこの瞬間だけは都合が良かった。

 男が銃を抜いたのは俺が一歩を踏み出してからだ。狙う事すらせず、腰から弾丸を放った。

 さっき俺を貫いたのはあれか。

 ジグザグに、というには少ない横軸の移動を交えながら突き進む。

 一発だ。男が放ったのはたった一発だった。それで事足りると思ったのだろう。

しかし、それは当たらなかった。

 思わずほくそ笑んだ。久しぶりの死の恐怖から解放される喜びは恐怖よりも早く体を貫いた。

 一歩だ、あと一歩で俺の太刀があの男に届く。恐怖を無くした体は、今夜で最もその力を発揮する。


「捉えた!!」


 俺の勝ちだ、俺の勝利だ。俺が生き残り、お前が倒れる。それが決定したのを自覚した。

 なのになんで、お前はそんな表情なんだ。

恐怖など微塵もなく、また勝利の確信すらない。平静、俺との命のやり取りは警察にとって日常の延長線上でしかなかったようだ。

 なめやがって、腹がた───。


顎が痛い。


「シュウ!」


 なんでリュカが叫んでいる。なんで俺の刃があいつを切っていない。

 

 なんで、俺は地面に倒れているんだ。


「何が起きたか分からないようだから、教えてやるぜ。真似出来るはずもないしな。早撃ちそれも反射だ、それのせいで君の足は後ろから撃たれた」


 前から撃たれたのに後ろから、どういうことだ。

痛む両足を無視し、後ろを見る。通りと木造建築、そして刃を持ったリュカ。まさかリュカの武器を撃ったのか。

 だが事実はさらにその上を行っていた。


「これが出来るのは世界広しといえど俺だけだと思うぜ。なんせ地面にはまった弾丸を撃って反射させるなんて曲芸撃ち、他にやってるやつは見たことなから、な」


 ぞっとする。この暗闇の中小指の先ほどの物体に、しかも大部分が陥没しているであろう物に狙いを定めて俺の足を撃ったのか。

 次元が違いすぎる。


「所で群青学園の生徒が悪い大人に騙されて点数稼ぎをしようとしてしくじった、って話は結構多いんだ」


 ……君もそうかい?


 反射的にそうだと答えそうになった。実際に発端はそうだ、そういう制度があるのなら活用しよう、そう提案をしたのはリュカの方だ。今なら事実をありのままいうだけで、この状況から逃れる事が出来る。たったそれだけの事でもうこんな思いをしなくて済む。きっと傷の手当もしてくれる事だろう。言うだけだ、事実を言うだけだ、それだけで俺は解放される。


「やりたかったのは俺だ、逃げるべきだと言ったのはあいつだ。今日俺がやった事は、全部俺がやりたくてやった」


 でもそれを言ってしまえば、認めてしまえば、俺はきっと二度と自分を信じる事が出来ない。そんな気がした。


「ふぅん、そうか」


 男は倒れた俺に近づき、意識を闇に蹴り飛ばした。




「よう、よく眠れたか」


 眠っているとリュカに起こされた。乱れた髪を整えながら上体を起こそうとすると足に痛みが走る。


「戦っている時よりも痛いな」

「まあな、戦いで頭に血が登れば痛みぐらいは忘れるもんだ」


 そうかと返すと足を動かさないように体を左に向けた。あの後俺達は警察に捕まり、署の方に連行されたようだ。

 ドアの小窓から見える廊下には制服に袖を通した警官達が忙しなく行きかっている。

 本来であれば俺たちは留置所だが、拘置所にでも拘束されるはずだ。なのに俺は医務室に拘束されている。両足を撃たれたので一先ずはここ、ということだろう。

 リュカは俺と違いけがをしたわけでは無いのか、椅子に座りながらおにぎりを口にしていた。

 俺もそうだが普通は留置所に連れていかれる物じゃないか?

彼は残っていたおにぎりの内のいくつかをこちらに差し出すと、捕まった後の事について語りだした。


「まず昨日の警官暴行だが、あの後お前が助けた被害者の証言で警察側の早とちりって事で片ぁ付いた。お前が逮捕されるような事は無ぇ」


 それを聞いて安心した。先に発砲したのは向こうだが、その後激しく抵抗したのは自分達だ。何等かの処分は覚悟していたが、一先ず逮捕はなさそうだ。

 少し安心した。


「俺ぁ不法入国、外患誘致、公務執行妨害、銃刀法違反、それと青少年何とか法のウルトラCを決めたせいで処刑も視野に入る可能性もあるらしいが。……まぁいけんだろう」


「絶体絶命じゃねぇか!!」


 前言撤回、なぜ彼がこうして落ち着いていられるのかわからないほど状況は悪かった。昨日の行動は何等かの法に抵触する可能性はあると思っていたがまさか処刑も視野に入るとは。所でなぜ外患誘致になったのだろうか。


「……まだ鉱薬の販売ルートは確保してねぇんだがな」


 不思議そうな顔をして顎をさすっていたが、おそらくはそれのせいだろう。

鉱薬は地中で固体化しない鉱石の一種で化学的にひどく不安定だが、その爆発力を使って車両や工業の燃料として利用されている。生活にはなくてはならない物だがその事業は不当な値上げを防ぐ為原則国の領分として扱われている。

 詳しい事が知らないが、いきなり外の人間がそんな大事な物を取り扱うようになれば経済が混乱するのは俺でもわかる。

 白虎は確か本土と四方の島の中で、鉱薬の埋蔵量が特に多いと聞いているからそれを使おうとしたのだろう。


「それは、ダメだろう。見つかったらアウトだよ」


ダメかぁと彼は天井を見上げた。


「あれ以外の産業ほぼねぇんだけどな。どう金を作りゃいいのか」


 まだ自分の無罪すら確定していいないのに呑気なものだ。自分はここでは死なないと思っているのだろうか。強烈な自信には一種の敬意すら覚えた。

 ……なぜ、鉱薬の所持をしてたのだろう。さすがに物も無いのに現行犯逮捕は出来ないはずだ。

 爆発しかしないあんな危険物に他の使用法があるなど聞いた事も無い。

 すると何かに思いだしたのか、彼は突然手を叩いた。


「お前退学だってさ」


……………え?


「なんでじゃああああぁあああ!」


 警察所の中で、俺の悲鳴が木霊した。


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