第8話 仲間が増えたぞ!
えーと、状況を整理しよう。今、目の前に柏原希乃という人物が立っている。対して、俺の手の上に、『オルティニア戦記』という名前の本がある。
で、柏原希乃は、自分が『オルティニア戦記』を書いたと言っているのだ。
「……って、この超ミリタリーなハードボイルド小説をか? 俺は絶対に、柏原がこんな本を書いてるということを想像すらできないんだが……」
なるほど、確かに『オルティニア戦記』では、戦争の描写が多い。さらには、細部まで詳しく描かれている。俺はこの本の作者はかなり知識のある人なのだろうな、と思っていたが、まさかこの美少女が作者とは、ちょっとギャップがある。
「はあ、雷夢くん、私が戦記物専門の小説家であることがそんなにおかしいの? もしかして、戦記物は男が読むものだとか思ってない? 女性差別ね。ラム大統領は差別主義者だとリークするわよ。確実に炎上するわね」
「違う、断じて思ってない!」
本当は思ってるけど。正確には、別に俺は美少女が戦記物を書くことがおかしいとは思っていない。でも、戦記物を書く美少女が少ないことは事実だし、ただ意外だというだけだ。
それに、柏原はさっきのように、やっぱり急に怖くなる性格の持ち主のようだ。さすが戦記物作家である。
「なるほどな。確かに、こんな小説を書けるほど軍事の知識があるのなら、雑談板の『口頭妄想戦争』の有用な戦力になりそうだ。俺は柏原の加入を歓迎するよ」
よし、柏原があれば、今日からは百人力だーーと、俺はのんびり考えた。
「んー? もしかして、雷夢くんは私の価値を正しく理解してないのかなぁ?」
え? 柏原の特技は他にもあるのか?
「追加で法律にも詳しかったりするのか?」
だが、柏原は笑って肩をすくめた。
「そうじゃなくて、単純な知名度の問題よ。私を何だと思ってるの?」
「さあ。戦記物作家だろ?」
「そこよ。ただでさえ、雑共和国に一人でも有名人がいればかなりのプラスになるのよ。さらには、私はミリヲタの間で有名な職業だから、大きな軍事力アップが見込めるわ」
柏原を慕って、軍事に詳しい人たちがたくさんやってくるということか。
「でも、大丈夫なのか? こういう掲示板の世界って、いわゆるネットの闇部分だぞ。柏原は有名人なんだろ。アンチが増えたり、炎上したりしないのか?」
柏原は神妙に首を横に振った。
「そんなことはもう言ってられないのよ。もうすでに、いろんな有名人たちが雑談板の覇権争いに関与しようとしているようなの。まあ、まだ本当の権力争いというよりかは、オリンピックみたいな面白いイベント、という感じがするけど……。でも、一つだけ言えることは、私あたりの知名度では、雑共和国は勝ち残れないということよ。そこは早めに手を打つ必要があるわ」
「つまり、誰かもっと有名な人に協力してもらうということか?」
「そうなるけど、残念ながら私は有名人にパイプを持っているわけではないの。ここは純粋な立ち回りで勝負するしかないわ。うまく雑談板の中で影響力を保てば、誰かから支援を得られるはずよ」
「へぇ……」
リーザといいミリアといい、この柏原希乃といい、俺よりも数段高いビジョンを持っている。やはり俺は、自分が大統領でいいのだろうかと不安になってくる。でも、迷っている暇はない。俺たちは雑共和国のために全力を尽くさなければならないのだ。
「それじゃあ、よろしく、柏原。ところで、柏原のネット上での名前を聞いていいかい?」
「私はカッシーニという名前よ。こちらこそよろしく。おっと、そろそろ授業が始まるわ。また後でね、雷夢くん」
柏原は俺に魅力的なスマイルを投げかけて去っていった。
いやあ、やっぱり大統領も捨てたもんじゃない。こんなかわいい女の子と話ができるんだから。
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