第7話 柏原希乃
なぜ柏原希乃がわざわざ俺に話しかけてきたのか、俺は想像もつかなかった。推測しようとしても、どうしても良い方向には考えが膨らまない。柏原は俺があまりにも厨二なサイトを見ていることを心配して、やめさせようとしているのではなかろうかーーなんてことまで考えてしまう。
それなのに、いっぱいいっぱいで身構えている俺に向かって、柏原は優しく話しかけてきた。
「それ、『雑共和国』のスレでしょ? えっ、まさか、雷夢くんがラム大統領なの? まさかこんなところにいたなんて! びっくり!」
俺もびっくりだ。なんで柏原みたいな陽キャ一直線の人間が、雑談板の、それも一番痛い種類のスレを見ているんだ。
「あれ、雷夢くんはまだ知らないのかな? 雑談板のことは、ネット上ではかなり話題になってるんだよ! これを見て!」
そう言って、柏原は自分のスマホを突き出した。俺はそこに書いてある記事に目を向ける。
『雑談板の自治会が大波乱? さらに別掲示板にも波及?
昨日サービスが開始された『雑談板』だが、初日から大荒れとなっている。その元凶は自治会の主導権争い。リーザという人物が勢いで自治会『雑共和国』の実質的支配者になってしまい、反対派から不満が噴出したのだ。現在、雑談板には100以上の『国』が成立しており、雑共和国の力は全くない状況。政局が安定するにはまだ時間がかかりそうだ。リーザを中心に『戦争法』が整備され統一を目指す動きもあるものの、より火に油を注いでいるとの意見もある。
そして、雑談板の影響は別の掲示板にも及んでいる。雑談板に倣って、現在の自治会を打倒しようという動きが活発になっているのだ。
大手掲示板『つぶやき部屋』の自治会長、
「つぶやき部屋のあちこちで、複数の反政府勢力が発生しています。そのうちのいくつかは、雑談板の一勢力から支援を受けているとも言っています。おそらく今からは掲示板の戦国時代となるでしょう。私も忙しくなりそうです」
これからさらに荒れそうな掲示板界だが、成り上がりを目論む者たちには格好のチャンスかもしれない。』
全部初耳だ。雑共和国が大きく取り上げられていて、リーザの名前も出ている。他の掲示板を巻き込むとか、なかなか大ごとになっている。昨日のミリアの策略がそのまま当たっている。
しかし、柏原希乃の狙いが何であるのかは、まだ全然予想できない。俺に話しかけるだけのために、雑談板の話をしたとも思えないし。
「で……柏原は、雑共和国に入りたいのか?」
柏原は自信たっぷりにうなずいた。
「うん。私なら絶対に、役に立てると思うの。雷夢くんは、やっぱり強力なスポンサーが必要でしょ?」
どういうことだ?
「柏原は何の企業にコネがあるんだ?」
柏原は待ってましたとばかりに微笑んだ。
「ふふふ、私はフリーランスなのよ。雷夢くん、その机の中に、本を入れてあるでしょう?」
「ああ、『オルティニア戦記』のことか?」
この本が雑共和国とどんな関係があるのだろう。
「それを書いたのは私なのよ」
はい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます