第3話 ミリア帝国
「な、なんだその、『ミリア帝国』って? 自治会はここで決まったんじゃないのか? それに、宣戦布告って、何のことだ?」
俺は半分あきれてそう言った。
「いいから、その『ミリア帝国』のサイトを見に行ってください! 本当にやばいんです!」
その伝令の文面は切羽詰まっていた。訳がわからないが、とにかく行ってみることにしよう。
俺がその『ミリア帝国』のスレに移動すると、その概要欄には謎の文面が書かれてあった。
あ、概要欄について説明するのを忘れていた。概要欄とは、スレの左端に書いてあるスレの説明のことだ。もちろん普通のスレではそんなに概要欄が長くなることはないが、『雑共和国』のスレの概要欄はかなりの長文だ。
『雑共和国は、雑談板の公式自治会です。雑共和国の運営に携わりたい方は、人事大臣のテト氏にお申し出ください。こちらは現在のポストです。
大統領 ラム
副大統領兼総務大臣 リーザ……』
と、あとはいろいろな大臣の名前が続いていく(リーザのつけた大臣の名称は、大臣というよりは会社の部とか課の名前に近いのだが)。国と呼称しているにしては完成度が低く、俺はやや厨二感を覚えてしまう。
だが、雑共和国の概要欄は、ミリア帝国の概要欄の前では比較的まともに見える。
『ミリア帝国は、雑談板の統一と強権支配を目的とする独立国家法人である。
ミリア帝国は独裁であり、皇帝ミリア一世以外の全ての国民に、皇帝に従うことを求める。
ミリア帝国は、不当に雑談板を支配している雑共和国を打倒するため、軍事的専門家を募集している。最も対雑共和国戦で戦果を挙げた者には、ミリア帝国大将軍の資格を与える。』
なかなか痛い文章だ。俺はこんなものは絶対に恥ずかしくて書けない。ていうかこの国、自分から強権支配すると言っているぞ。そんな国に誰が入るのだろうか。
しかし、皇帝ミリアとかいう奴が雑共和国に敵意を持っていることは事実だ。雑共和国が公式の自治会であることは事実だが、ついさっき成立したばかりだし、今ミリア帝国に釘を刺しておかないと、どうなるかわからない。
なんだか実際の国同士の外交みたいだ。面白い、ミリア帝国に一泡吹かせてやる。
「すみません、ミリア帝国の代表の方はいらっしゃいますか? 俺は雑共和国の代表なのですが……。」
俺がそう言うと、俺がやってくるのを待っていたのか、すぐに返信が来た。
「雑共和国にミリア帝国が宣戦布告したのを聞きましたか?」
「聞きましたが……?」
「それはありがとうございます」
どうも、ミリア氏は概要欄の割に腰が低い。何を企んでいるかーーと俺は警戒してしまう。
「さて、ラムさん。戦争を始める前に、ひとつ話しておきたいことがあるのですが」
ミリア氏は変なことを言い始めた。交渉でもするつもりなのだろう。
「何ですか? 無条件降伏ならお断りですよ?」
「そんな話ではありませんからご安心ください。まあ、続きは個チャにしましょう」
「はあ……」
個チャとは、個人チャットの略で、雑談板の中で、非公開で他のユーザーと一対一で話せるシステムである。やはりミリア氏は降伏を勧告しているとしか思えないが。いったいどうなるのだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます