第2話 役員……じゃない、官僚の選別

「え? 俺が大統領? どういうことだ? 俺にそんな大役が務まるわけがないだろ? ていうか、どこから俺に興味を持ったんだし」」


 俺はすぐさまそう言った。本当に意味がわからない。なぜ俺がいきなりそんな大役にスカウトされたのだろう。


「わたくしがラムさんに勇気づけられたからです。ラムさんはくじけそうになっていたわたくしを励ましてくれました」


 もしかして、あのコメントのことか? 俺はふざけて言っただけなんだが。どこで励まされるポイントがあるというのか。


「わたくしは最初、本当に何も考えていませんでした。パッとあんな謎の宣言をしてしまって、途端に叩かれて、すぐに間違いに気づきました。わたくしはもう絶望して、垢を消してここを去ろうかと考えていました。でも、ラムさんのコメントを見て、勇気が湧いたんです。わたくしのキャラでここを支配できるかもしれない、そんな希望が湧いてきたんです」


 やっぱり変な考え方ではあるが、まあわからないことはない。だが、まずは疑問がある。


「うん、それはわかった。でも、なんで俺が自治会のトップなんだ? リーザさんがやればいいじゃないか。というか、もともと自治会を支配したいんじゃなかったのか?」


 すぐに返事が返ってきた。


「あ、それは大丈夫です。なぜかって、わたくしは実は令嬢キャラなんです。ラムさんは令嬢が出てくる漫画や小説を読んだことがないのかと思いますが、令嬢の目的は王子様と結ばれて、幸せな生活を送ることです。わたくしはラムさんに『雑共和国』の実権は握っておいてもらって、わたくしとイチャイチャ生活を楽しんでほしいのです」


 よくわからないが、俺を操って自治会を動かすということか?


「はあ。つまり、俺に自治会の代表になってほしいんだな?」


「そうです。あと、『自治会』ではなく『雑共和国』で、『代表』ではなく『大統領』でお願いします」


「ええー。なんか面倒だなあ」

「いえいえ! ぜひぜひ! 他の皆さんもそれでいいですよね!」

「俺はそれでいいぜ!」

「俺も!」

「俺も!」


 ーーという流れで、話は冒頭に戻る。そんな偶然の事情があって、俺は『雑共和国』の大統領になってしまった。リーザは雑共和国という名称にかなりこだわっているようだが、実際は掲示板の自治会だ。

 現在、自治会の役員決め(リーザによると『官僚の任命』である)が進行中だ。しかし俺のすることはない。ほとんどリーザが全て決めている。やはり俺に実権はないようだ。

 だが、俺が夕食を食べにリビングに降りていっていた間に、官僚はだいたい決まってしまったらしい。


「ラム大統領! ここでひとつ、建国記念の演説をお願いします!」


 リーザがそんなことを提案していた。でも、正直何を喋ればよいのかわからない。普段からもう少しニュースを見ておけばよかったかもしれないな。『みなさんこれからよろしくお願いします』じゃあ、あまりにもかっこ悪いし……。


 だが、俺の建国記念演説は、そのときは実行に移されることはなかった。というのは、そのとき『雑共和国』のスレに、ある投稿があったからだ。


「緊急です! 『ミリア帝国』が、雑共和国に宣戦布告してきました!」


 

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