俺の国〜モブでぼっちの俺、ネット掲示板の大統領(自治会長)になる〜
六野みさお
第1話 選ばれてしまった
「ラムさん。あなたを、『雑共和国』の大統領に推薦します」
俺はそう宣告されてしまった。
「私もラムさんがいいと思います」
「私も」
「僕も」
「わたくしも」
次々と他の人たちも賛成の意を示す。どうやら断ることはできなさそうだ。
「……そこまで言うなら、俺が引き受けよう」
俺がそう言った瞬間、
「おおっ!」
「やったぁ!」
「新大統領の誕生だ!」
「万歳!」
と、てんでに声が上がった。
ーーだが、俺のような一介の中学生が、一国の大統領になるわけがない。俺がこれから支配するのは、現実に存在する国ではない。その『国』は、名前を『雑共和国』という。名前の通り、これはネット掲示板『雑談板』の自治会のようなものだ。俺はたまたまそのトップに選ばれたにすぎない。
もちろん、俺が雑談板のトップに選ばれたのも、いろいろな偶然が重なってのことで、俺には実力も、政治の知識もないのだが。これから何をすればいいのかも、まだ全然わからない。
俺の数奇な運命は、数時間前に始まった。
⭐︎
さて、まずはこれから俺が話す『ネット掲示板』の『自治会』について、手短に話しておこうと思う。
ネット掲示板とは、インターネット上で匿名で話すことができるサイトのことだ。ハンドルネームがないものもあるが、『雑談板』ではハンドルネームの使用が義務付けられている。
そして、ネット掲示板の『自治会』というのは、ネット掲示板を管理する集団のことだ。主な仕事はは荒らしの対応だが、運営に意見書を提出したり、他のサイトとの連絡役を担ったりなど、目立つ仕事もある。
俺が使っている掲示板『雑談板』は、その名の通り雑談をするための掲示板だ。利用者は話したいことについてのスレを立て、他のメンバーはそこに加入して、スレのタイトルに沿った会話を楽しむ。まあ、比較的どこにでもある掲示板といえる。
ところで、『雑談板』は非常に歴史が浅い。今日の午前0時からサービスが開始されたばかりだ。だから、午後6時の時点では、まだ自治会はできていなかった。
もちろん、全く自治会ができていなかったわけではない。すでに多くのスレ民たちが、どんな形の自治会にするかを民主的に話し合っていた。そして、俺はそれを何も言わずに家のスマホから見学していた。俺はこういう、権力闘争のようなものが好きだ。なんというか、ロマンがある。いったい誰が自治会の長に選ばれるのか、勝手に頭の中で予想しているだけでも楽しい。
だが、グダグダと、それでも着実に進んでいた自治会議論の流れを大きく変える、そして俺の人生を大きく変える投稿が、そのときなされたのだった。
「ただいま、わたくしは『雑共和国』の建国と、雑共和国が今から雑談板を支配することを宣言します!」
完全に話の流れを無視した発言だった。誰だこの公爵令嬢ぶった人は、というのが第一印象だった。いきなり自分が自治会のトップになると宣言するなんて、身勝手もはなはだしい。
すぐにさっきの投稿主は猛烈に叩かれ始めた。バカ、アホ、変人、奇人、ナルシ、悪役令嬢。いろいろな罵詈雑言が飛び交う。
俺は何もしないのが一番安全だっただろう。ただの面白い炎上ネタとして、笑って見ていればよかったのだ。だが、俺はそのとき、変なことを思いついてしまったのだった。そしてそれを、軽いノリで投稿してしまったのだった。
「いやさ、もう面倒だからさ、この令嬢を国王にして自治会(王国)作ろうぜ」
そう俺は言った。特に深く考えていたわけではなかった。「はっはっは、アホか、お前!」と笑い飛ばされるのを待つような、どちらかというとボケに寄ったコメントだった。
俺の投稿から一分も経たないうちに、この場の空気を完全に決めた投稿が投下された。
「ほう。まさかあなたたちは、このわたくしの命令が聞けないとでも? まったく、困った人たちですわね。今すぐ私に従えば、みんな重職に就かせてやるというのに」
その投稿が、さっきの令嬢キャラの人物にーーこのとき、彼女のハンドルネームが『リーザ』であることを、俺は初めて確認したーーよってなされた。
俺はその二回目の投稿で何かが変わるとは思えなかった。それは一回目の投稿の延長線上にあるだけだった。
だが、驚いたことに、掲示板の流れはさっきと全く違う方向に向かっていった。
「女王様! 俺をあなた様の騎士にしてください!」
誰かがそんなコメントをした。
「俺も!」
「俺も!」
一気に掲示板は、『リーザとかいう令嬢キャラを祭り上げて自治会を作ろう!』という流れに傾いた。つまり、俺の言った通りになったのだ。……俺の一言が流れを変えたとは思えないが。
そして、それから数分も経たないうちに、自治会スレッド『雑共和国』は成立した。もちろんトップにはリーザが据えられた。
「リーザ様! 俺をあなた様の騎士にしてください!」
「リーザ様の右腕にしてください!」
「じゃあ俺は左腕にしてください!」
「俺も!」
「俺も!」
リーザは次々とゴマをすられて持ち上げられた。だが、リーザはひとしきりそのコメントをかわすと、驚くべき宣告をしたのだった。
「みなさん、コメントありがとうございます。ですが、雑共和国の大統領は、最初から決まっています。それは、ラムさんです」
ボーッと観戦者に徹していた俺は、ぽかんと目を見開いた。なぜ俺が急に、そんなポジションに選ばれるのだ? 全く意味がわからなかった。
でも、俺が一番驚いたのは、あの令嬢ぶったリーザが作ったのが、王国でも帝国でもなく、共和国だったということだった。
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