光るはおやじのハゲ頭(出会いと別れ)
しょうわな人
第1話 髪って印象変わるよね(出会い、別れ、また出会い)
「ですから、私は友人と待合せしていて、これからその子と遊ぶ予定だから、あなた達の誘いは受けられません!」
そうキッパリと言うのだが、二人組のナンパ男達は、
「いやー、ちょうどイイじゃん。俺らも二人で、君も友達が来たら二人になる。つまり、一対一でデート出来るって事だよね?」
「ホント、ホント。だーいじょーぶ、遊ぶ場所は俺らに任せてよ。楽しいトコロ、いっぱい知ってるから!」
彩恵は内心、『だあーっ、しつこい! 殴ってやろうかしら!?』と思いつつも、人前でもあるし、我慢していた。それに、コレだけ大人な男性が居るのに誰も助けに来てくれないなんて……
と思っていたら、男達の後ろからいきなり声がかかった。
「オイオイ、兄ちゃん達。その娘さんは嫌がってるじゃないか。ダメだぞ、嫌がる女性を強引に誘うのは。モテない要素の一つだぞ」
その声にやっと助けてくれる人が居た! と喜ぶ彩恵だが、男達は振り返って男性を見て言った。
「何だぁ、チビデブおっさん。引っ込んでてくれる? 俺ら今からこの
「オッサン、怪我したくないなら引っ込んでろや!」
一人は穏やかに、もう一人は本性を剥き出しにして男性にそう言った。
それもその筈で、声をかけてきた男性は身長が彩恵よりもほんの少し高い程度。体重は彩恵の倍はありそうな禿頭の四十代後半の見た目弱そうなオジサンだったからだ。
彩恵も半ば諦めながらもそのオジサンを応援していた。
「ハッハッハッ、チビデブは当たってるけど、誰がハゲだ! この頭は剃ってるだけだっ!!」
誰も言ってないセリフが聞こえたらしい。オジサンはいきなり男二人に怒りだした。その剣幕に呆気にとられる二人。
「い、いや、俺はハゲなんて言ってねぇし……」
「お、俺もハゲは言ってねぇよ……」
「また、ハゲって言ったなぁっ! コレは剃ってるだけだっ!」
オジサンは顔を怒りで染めて男二人を怒鳴りつける。そのときに作った握りこぶしの上、下椀部を見た男二人は顔を見合わせて、オジサンに言った。
「いや、言ってないです。俺達、用事を思い出したんでコレで失礼しますっ!」
何故か礼儀正しくなった男二人はそのまま走って逃げていった。彩恵はオジサンにお礼を言う。
「あ、あの、有難うございました。しつこくて困ってたんです」
「いやいや、遠目に見ても困ってる風に見えたから、手助けしましたけど余計なお世話だったかも知れませんね。柏技彩恵さん」
「えっ? 私の事をご存知ですか?」
「ええ、仕事関係でお名前とお顔を拝見させていただいた事があります。まあ、私が一方的に知ってるだけなんですが。それでは、私も所用がありますので、コレで失礼しますね」
そう言ってオジサンは去って行った。
彩恵はちゃんと感謝の気持ちが言えなかったのと、仕事関係でと言われた事で頭の中で人物リストを捲ってみたが、やはり覚えがない事に少しモヤモヤしながら、友達がきて遊んでいる時も中々気持ちが切り替えられなかった。
そんな彩恵の様子に友達が、どうしたの? と聞いてくる。
彩恵は待っていた間の出来事を話した。それじゃ、今からそのオジサンを探してみようと友達が言ってくれたので、禿頭を目当てに街をプラプラ歩いてみた。
しかし、その日は見つける事が出来なかった。
次の日、仕事をしながら彩恵は会社に面会に来る人物を注意深く見ていた。仕事関係でと言っていたので、受付業務を担当していた彩恵は、ココで私の事を知ったのではと思ったのだ。
しかし、昨日のオジサンは現れなかった。翌日からも注意深く見ていたが、あの時に助けてくれたオジサンは現れない。心にモヤモヤしたものを抱えながら、彩恵は学んでいる空手道場に向かった。
「おう、彩恵。どうした? 悩み事か?」
道場の師範が彩恵の様子にきがついてそう聞いてきたから、彩恵は先日の出来事を師範に話した。
話を聞き終えた師範は、何か分かったような顔をしたが、彩恵が聞くと
「うーん、ご本人が名乗ってないなら、俺が勝手に教える訳にはいかないなぁ…… そうだ、今週の日曜に出稽古に行くが、彩恵も行ってみるか? ひょっとしたら会えるかも知れんぞ」
そう言われたので、彩恵は承知した。
そして、日曜日。出稽古先は師範の師匠である道場だった。彩恵も何度か来た事がある。だが、何度か来た中で、あの禿頭のオジサンは居なかったと思ったのだが。
そして、稽古を続けていたら、師匠がやって来た。隣にいつもは居なかった彩恵よりも少しだけ背が高いガッチリとした体型の男性がいた。禿頭じゃなかったから、彩恵は余り見なかったが、稽古途中に師匠がその男性を紹介した。
「コチラは私の兄弟子の長男でな。今回は仕事の都合で三年間、コチラに住む事になったんだ。若い頃はこの小さな体で世界選手権の無差別級で優勝した事もある凄い空手家だ。皆も教わりたいと思ったら遠慮なく声をかけてくれ」
そう言っていた。そこで彩恵も思い出した。彩恵が小さい頃に見ていた父親が持っていた世界選手権のDVDに映っていた背の小さな優勝者、
彩恵は目の前に幼い頃に衝撃を受けて憧れた空手家が居る事が信じられずに、ずっと中山を目で追っていた。確か既に四十六歳になってる筈だが、目の前で指導をしている中山に年齢による衰えは見られない。
そこで、彩恵の道場の師範が、彩恵を指差しながら中山に何かを言った。
彩恵に向かって歩いてくる中山は目の前で止まって、彩恵に
「どうですか? 柏技さん。一手、手合わせしてみませんか。去年の世界選手権優勝者の実力を教えて下さい」
そう言って頭を下げた。
「は、ハイッ! よろしくお願いします!」
彩恵はそう返事をして、二人は道場の中央で向かい合った。中山は彩恵に
「私は攻撃はしませんが、柏技さんは好きな場所を狙って攻撃してきて下さい。拳で顔面を狙っても構いませんからね」
そう言って、自然体で立った。その言葉に彩恵は、少し自惚れが過ぎるのではないかとちょっとだけ不快に思ってしまった。そこで、初手から全力で向かって行く事にした。
が、あっさりと彩恵が顔面を狙った突きは受け流されて、そのまま勢いをつけられて転がされてしまった。
「いやー、凄い早い突きでした。見事です」
そんな言葉をかけられたが、彩恵自身は何をされたか分からなかったので、返事に困ってしまった。
稽古を終えた後に、師範と二人で師匠の元に礼を言いにいくと、中山もいた。そして、中山は彩恵を見ながら頭に手をやり、髪をズルっと引っ張った。
「あっ! あの時の!!」
彩恵は禿頭になった中山を見てあのナンパから助けてくれたオジサンだと気がついた。
「な、何でカツラを?」
我ながら失礼な質問だとは思ったが聞かずにはいられなかった。
「いや、実はコレは髪の毛を掴まれないように、本当に剃ってるんだけど、世界選手権で優勝した時に、対戦相手の多くから頭が光って眩しかったって文句を言われてね。それ以来、空手の稽古の時はカツラをつけてるんだよ」
と意外な答えを教えられた彩恵が、独身だった中山に猛アタックをかけて結婚したのは半年後の事である。
光るはおやじのハゲ頭であった。
光るはおやじのハゲ頭(出会いと別れ) しょうわな人 @Chou03
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