三時間目 道徳 : 遠藤唯
先生。どうしよう。あたし。落ち着いてって、落ち着いてられないです、どうしよう。先生。あたし、怖い。死んじゃった、死んじゃったの、先生も悲しい? 悲しいよね、だって。死んじゃったもん、死んじゃったの、死んじゃって……、死、し、死…………。
……。
…………。
ごめんなさい、やっと、落ち着きました、ごめんなさい……、はー、はー……。はー、……。
やっぱり、その。先生は悲しいですか? リョータ、死んじゃったこと。
リョータ死んでから、クラスおかしくなってきちゃったって、感じますよね、だって、皆、クラス、前みたいな雰囲気じゃなくなってきたから。
先生、リョータ、自殺で、……遺書、見ましたか?
私、まだ見れてないんです。だって、見たらリョータが本当に死んだんだって、自分の中で区切りがついてしまうんです。
それがすごく怖いんです。
それが、すごく嫌なんです……。
なにが書いてあるんだろうって、思います。でも、読めない。
先生。私って卑怯者ですか?
大好きなクラスメイトが死んだのに、最後に書き残した文章すら読まない私は、最低ですか?
リョータのお葬式すら行けなかったんです。だって、怖いから。だって、死んじゃったって分かっちゃうから…。
葬式に私行かなかったから、リョータのお母さん、私の家まで来て、私のこと心配になって見に来てくれたんです。
――ユイちゃん、リョータと友達といてくれてありがとう。って、言ってくれたんです。
友達なら、お葬式も行くし、遺書も読みます。
私は、それをできなかったんです。
卑怯者で、最低な、私は、まだ、リョータの友達でいられてますか?
先生、せんせい、せんせい……。怖いよ……。学校に行ってもリョータがいないんです。
あのお調子者だったリョータがいない。
それがすごく怖くて学校行くのが怖くなって私も死にたくなっちゃってリョータみたいに踏切で足を止めてカンカンとなる警告音が聞こえて……、あ、リョータの死体、バラバラだった……。バラバラっていうか、頭、私の、目を、目がね、合った。ギョロって、頭が飛んできていたの。そんな夢がずっとずっと見える。開いた線路でバラバラになったリョータが言うんです。「見捨てたのは、お前だ」って。見捨てたのは私だ。だから、だから…、私は死ぬべきなんだと思います。怖いけど、でも、でも……。
あ……、特急列車に轢かれて踏切にはボロボロの靴しかなかったんだって……、私、死ぬ前にリョータに会ってたんです。
リョータすごく苦しそうだった。その苦しいことは私には教えてくれなかったんです。
いくら大丈夫? って聞いても大丈夫大丈夫って苦しそうに笑うんです。
もし私が引き止めてたらリョータは死なずに済んだんですか、リョータはバラバラにならずに済んだんですか、リョータはまだ教室で笑ってたんですか、だってリョータの机の上にある花は枯れてきて、リョータの遺書はない、リョータは死んじゃって……。
死ぬって怖いです、先生。
死んだ人には分からないけど残された人はすごく嫌な気分になる。
でももしリョータが嫌で嫌で自殺をしちゃったんだったら私はリョータを引き止められたんでしょうか。
リョータに生きてって言えたんですか?
リョータに頑張ってって言えたんですか?
ふと、私もあっちの世界に行けたらとか思っちゃうんです。リョータは望んでないと思いますけど。
でも、この気持ちはどこにぶつけたらいいんですか。すごく、怖くて、死にたくなって、消えたくなって……、一人ぼっちだって、なる。
……もしここにリョータがいたらなんて言うんですかね。
ユイ、ブサイクな顔で泣くなとか言うんですかね、俺のために泣いてんじゃねーよ、とか……、あはは……。なんでもないです。あはは。なんでもない。だってリョータはここにいるから。先生も私の隣にリョータがいるのが見えますよね。リョータはいつも通り笑ってて明日の学校もリョータと一緒に行ってリョータと皆でお昼ご飯食べて昼休み馬鹿みたいに騒いで、そんな日々が私の楽しみで、楽しみ、リョータは、リョータは……。リョータはここにいます。リョータはいます。先生。
…あ、先生、すいません。
少し落ち着きました。先生の顔見ると落ち着く。
早く私も学校に行かないと。
皆来てますもんね。明日には行きます。
すいません。また明日、先生。
リョータもほら、さようなら先生って、言って。言いたくないじゃなくて、言うの。いっせーの、で、だよ。
いっせーの。さようならー、先生。
……さようなら、先生。また、明日。
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